第286話 求む! フラグクラッシャー

 陞爵に関するあれこれが終わって、ほっと一息。最後に配った記念品とお菓子は、概ね好評のようだ。


 なんかね、祝賀会的なものに招かれたら、後でその感想を一言書いたカードを添えて、何かしらの贈り物をするのが慣習なんだって。遅れて渡すお祝いの品ってところか。


 で、そのカードで頂いたお菓子が美味しかったのと、クマの置き物の出来がいいって内容が一番多かったのよ。


 普通はパーティーの料理やお酒、演出なんかを褒めるらしいんだが。


「という事は、置き物とお菓子をお気に召していただけたと思っていいのではありませんか?」


 カストルが言う通りかもねー。ついでに、年が明けて舞踏会シーズンがきたら、シャーティの店をプッシュしておこう。


 何故年内にやらないかって? 年内もう残すところ後三日だからだよ!




 オーゼリアでは、年末年始はそこまで盛大にはやらない。大事なのは二月の舞踏会シーズンの幕開けの方かなー?


 年末年始は、どちらかというと家族で静かに過ごす時期かな。王都の店も、大抵閉まるし。


 なので、店が閉まる前にどこのご家庭も食料品を買い込むのだ。


「うちは領地で食料生産しているから、問題ないけどねー」


 何だったら、領地に戻って温泉に引きこもっていてもいいくらいだ。それをやらないのは、年末までぎっちりスケジュールが詰まっているから。


 何のスケジュールかと言えば、来年三月に行われる結婚式の準備でーす。今やっているのは、出した招待状への返事を兼ねた結婚のお祝い品の仕分け。


 結婚に関しては、お祝いは先渡しになるそうな。で、そのついでに式に参加するかしないかをこそっとお報せする。


 お祝い事なので、人数多めに見積もって準備をしておくけどね。


「それにしても……多いなあ……」

「結婚式は派手にやらないといけないから」


 式の前に陞爵が決まってしまったので、式のグレードが上がってしまったのだよ。慌てて追加の招待状を出したのも記憶に新しい……


「伯爵と侯爵の間には、暗くて深い溝がある……」

「御託並べてないで、手を動かしなさい」

「へーい」


 私がやるのは、贈り物の中身を確認して、手書きのお礼状をしたためる事。何故、ここで手書きなのか!? 印刷でいいじゃない!


「慣習だって言ってんでしょ? 文句があるなら慣習を変えてから言いなさい」


 ちぇー。相変わらずリラが厳しい。


 ばあちゃんは式とその後のパーティーの準備で大忙しなので、仕分けは私とリラだけでやっている。


 たまにルミラ夫人が手伝ってくれるけれど、彼女もこの王都邸の切り回しという大事な仕事があるから、早々手を貸してもらう訳にもいかない。


 王都邸、領主館よりも大変かも。そんな事を口にしたら、ルミラ夫人がちょっと遠い目になった。


「今はそうですね。ですが、これからはセブニア夫人の方が大変になるかもしれません……」


 そうなの? リラも頷いているから、そうらしい。もしもの時は、能力が上のルミラ夫人とバトンタッチも考えておこうっと。


 この提案、ルミラ夫人に快諾してもらった。条件付きで。


「セブニア夫人がそれを望まれたら、という事にしておきましょう。もう煩わせる人は王都にいないと思いますけれど」


 ああ、元夫は既にこの世にいないし、厄介な親族もうちの王都邸に突撃してくるだけの度胸はないだろう。


 今なら、セブニア夫人の実家だろうが元男爵家の親族だろうが、楽に蹴散らせる。


 そう考えると、爵位が上がるのも悪い事じゃないね。権力って素晴らしい。




 相変わらずデュバル領とは、テレビ電話もどきで連絡を取り合っている。


 画面の向こうのジルベイラは、見た目健康そうだ。一応、ポルックスとセブニア夫人にジルベイラの働き過ぎを見張っていてもらってる。その結果かな?


『新都の方は、大分整備が終わりました。温泉街の方も、そろそろ稼働出来ます』

「やっとかー……もうね、ラビゼイ侯爵からの突き上げが激しくて」


 陞爵の祝賀パーティーでも、それとなく言われたしね。どんだけ温泉に入りたいんですか。


 また、兄がこの間温泉に招待した時の事を口にしたものだから、その場を取り繕うのに大変でしたよ。


『心中お察しします。それと、そのラビゼイ侯爵なんですが』

「何かあった?」

『……温泉街に、別荘を建てたいそうですよ』


 何ですとー?


『どうなさいますか?』

「うーん……ひとまず、保留。てか、今度そっちに直接話が行くようなら、私を通せって断って。当主をすっ飛ばしてしていい話じゃないのに」

『あちらも、それはわかっているようですね。ご当主様ではなく、配下の方からのお話でした』


 ラビゼイ侯爵本人が仕組んだのか、それともその配下の者とやらが独断でやったのか。それによってもちょっと対応が変わってきそう。


 こういうのは、シーラ様に確認しておいた方がいいかな。


「こっちでシーラ様にも確認しておくよ」

『よろしくお願いします。私からは以上です』

『はいはーい! 続きは僕からでーす!』


 あら、ポルックス。君はいちいち通信を使わなくても、念話があるだろうに。


『トレスヴィラジのご報告ですよー』

「ほう?」


 まずは、詳しく聞かせてもらおうか。


『鉄道敷設は進んでます。それと、大型船を停泊させられる港がないので、ちょっと沖に人工島を作ろうかと思ってます。ウヌス村から専用の鉄道を引っ張って行き来出来るようにすればいいかなーって』

「人工島とな」


 確かに、トレスヴィラジには港があるけれど、どれも漁港なので深くないんだよね。小さい船が停泊出来ればいいやって感じ。


 フロトマーロに港を造って水の売買をするのなら、大きな船がほしいところ。で、その船を停泊させる港を造るのに、まずは人工島から造りましょうって話。


 さすが有能執事。まあ、人工島やらそこまでの道やらは埋め立てれば何とかなる話だしねえ。


 その他、果樹園の方は無事動き出したそうだ。苗を植えたばかりなので、収穫出来るまでにはまだ時間がかかるけれど、数年で黒字ベースに持っていくと言い切っている。


『それまでは、南からの果物の輸入でしのげるかと思います』

「その為にも、フロトマーロにてこ入れしないとな……」

『レラ様は、その前にご結婚がございますよ。お忘れなきよう』


 ジルベイラが脇からポルックスを押しのけて画面に入ってきた。いや、忘れてませんから。今も絶賛準備の真っ最中だし!




 結婚相手である婚約者のユーインは、ただいま実家であるフェゾガン家に戻っている。


 別に喧嘩したとか理由がある訳ではなく、これも慣習の為。結婚前の男女は、実家で過ごすものらしい。


 それと、ユーインはユーインで忙しいみたいなんだよね。


 実は彼、ヴィル様と一緒に王太子殿下の側付に抜擢されたのだ。てか、学院の頃から言われていたらしいんだけど、騎士団に入ると言って断り続けていたんだって。


 で、私との結婚で家を継ぐ事もなくなりそうだっていうんで、王太子殿下が再び目を付けた訳だ。いや、別に彼がフェゾガン家を継がないとは言っていないんですけどねえ。


 爵位は継いでも、領地のあれこれは妻にやらせればいい、というのが王太子殿下の考えだそうですよ。丸投げか! ってちょっとイラッとしたのは内緒だ。


 蓋を開けてみれば、デュバルの現状を見ての発言らしい。つまり、ユーインに領主をやらせるより、私にやらせた方がフェゾガン領は盛り上がるだろうって事。


 で、仕事がないのなら、自分の側で働けやって事らしい。ユーインに事務仕事でもさせるのか?


「違うらしいわよ」


 意外にも、この疑問に対する答えを持ってきたのはリラだった。意外でもないのか? ヴィル様から聞いたんだって。


 あらー? 仲は順調に深まってるんじゃなくてー?


「私達の場合、あんたやユーイン様とは違って、政略だから。どっちかっていうと、仕事仲間って感じよ。そういう意味では、ウィンヴィル様は付き合いやすい方だわ」

「ちぇー」

「ちぇー言わない。さっきの話の続きだけど、どうも金獅子騎士団の中でごたごたがあるんですって」


 ごたごた? しかも金獅子って……実質近衛じゃないの。そこがごたごたしたら、王家の守護はどうなる訳?


「そこが問題なのよ。国王陛下と王妃陛下をお守りする人達は、長く王家に仕えている人達だから問題ないんだけど、若手の一部がね……」


 何やら、王家に対して反逆を企てている……という訳ではなく、今の王太子殿下を廃嫡させて、コアド公爵を王族に復帰させて立太子させよう、って事らしい。


「たかが騎士団員が、そんな大それた事を考えるの?」

「それを画策しているであろう一派って、コアド公爵と年が近い人達らしいの。彼等は当然学院でもコアド公爵と過ごす事が多く、心酔している一派がいるらしいわ」


 何と言う面倒な連中か。あ、でもコアド公爵が自身が王位に執着していたりしたら、そうでもない?


「コアド公爵自身は、どう思っているんだろう?」

「それはご本人に確認する他ないわね。あんたなら、それこそ王妃様辺りにでも探りを入れられるんじゃない?」


 それはちょっと……


 でも、そういう状況下なので、王太子殿下としては金獅子騎士団そのものが信じられない状況になっているそうな。


 ヴィル様も腕は立つけれど、護衛が一人ってのは厳しい。そこで目を付けたのが、ユーインって訳だ。


 彼はコアド公爵とはそれほど付き合いがないし、何より妻となる私を通して王家派だ。実家は中立派でもトップと言っていいフェゾガン家だしね。


「それに、ユーイン様は剣の腕も立つし、魔法も使えるでしょ? あ、そうそう、イエル卿も白嶺騎士団を退団して、殿下の側付になるんですって」

「そうなの!?」


 白騎士だった彼は、魔法のスペシャリストだ。ユーインもヴィル様も魔法は使えるけれど、多彩に使いこなすという意味では、イエル卿の方が腕が上なんだって。


「にしても、金獅子の中にそんな不穏分子が混ざってるとなると……」

「何か騒動が起こるかも……ね」


 嫌なフラグだな。どっかでぽっきり折っておきたいわー。

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