第285話 陞爵の祝賀会
式典疲れが残る中、二日後には祝賀パーティーでーす。玄関ホールで招待客をお出迎えした後、お着替えしてどどんと階段から登場。
誰だよ、こんな演出考えたの……これも慣習ですかそうですか。出迎えの為に愛想笑いをしすぎて、顔面がけいれん起こしそう。
ちなみに、現在着ているドレスはワインレッド。私にしては珍しい色だけど、髪や目の色が薄い人間には鮮やかな色味は合うね。
型は夜の装いなのでデコルテを出すもので、ショルダーと腰の部分に同じ布飾りを使ってボリュームを出している。
凹凸のないボディー故、流線型は無理でした。なので、ストンとしたラインのドレスだよ。だからこそ、人の目を布飾りに向けてメリハリを作るのだ。
これに同じ生地のロンググローブを付けて、髪はゆるく後ろでまとめている。髪飾りは右側に付けた大ぶりのダイヤのコームのみ。
首元は式典とはまた違うデザインのダイヤのネックレス。このコームもネックレスも、ヤボック公爵からの接収品ですって。あの家からごろごろ出てきた宝飾品は、全て私にくれたみたい。
石のカットや台座のデザインが古いものが見受けられたので、カストルがあっという間にお直ししてくれたよ。有能執事はどこまで有能なんだろうね?
ブレスレットは、ユーインとお揃いの魔力制御用だ。今夜はお出迎えは一人だけれど、これから階段で姿を見せる時には彼のエスコート付きになる。なので、ユーインはただいま控え室で待機中。
式典では、ユーインパパの後ろでおとなしくしていたらしいよ。パパにも絶対に前に出るなってしつこいくらい言われていたそうな。
いや、さすがに出ないよね? 確認した時には目をそらしていたけれど。
次から次へと来る招待客に、一言添えて迎える。あー、大変。
「ごきげんよう、よい夜ね」
出たー。王妃様ご一行のご到着でーす。
王妃様の後ろには、王太子ご夫妻もいらっさるー。さすがに国王陛下はいないか。良かった。
王家派閥故、一応王家の方々宛にも招待状を送ったのだ。普通は「多忙故」というお断りのお返事が来るって聞いたから。
大丈夫だろうと高をくくっていたらこれですよ。本当に来るなんて! いや、招待した以上、他のお客様同様おもてなし致しますが。
「よくいらしてくださいました」
「ふふふ、あなたの陞爵の祝賀会ですもの。来ない訳にはいかないわー」
「悪いな、デュバル女侯爵。我々は母のお目付役だから、安心してくれ」
「あら、言うようになったわね? レオール」
おおう。こんなところでロイヤルな親子喧嘩はやめていただきたい。
「お二人とも、ローレルさんがお困りでしてよ」
一触即発の二人の間に入ったのは、王太子妃のシェーナヴァロア様。助かったー。
「あら、いけないわ。学院の頃のように、気安く呼んでしまって。許してくださる?」
「もちろんです、シェーナヴァロア様。どうぞ、そのままの呼び名で」
「ありがとう」
学院にいた頃から気品のある方だったけど、王家に嫁いでからそれがさらに磨かれた感じ。オーゼリアの将来は安泰だな。
他にも、アスプザット侯爵夫妻やゾクバル侯爵夫妻、ラビゼイ侯爵夫妻に紛れて、伯爵とルイ兄も来てくれた。
「遠い所を、ありがとうございます!」
「何、レラの祝い事だからな」
「来年の結婚式も、ちゃんと参列するぞ」
ありがとう、伯爵、ルイ兄。凄く嬉しい。普段、ペイロンから出る事がない二人が王都まで来てくれた事が、何よりのお祝いだよ。
氾濫があってから四年……もうじき五年? 一度氾濫すると、森は十年単位で静かになるそうだけど、それでもあそこを留守にするのは大変だろうに。
そういえば、魔の森の魔物達に関して、カストル達に聞いた事がある。彼等が管理しているものなのかどうか。
そうしたら、元は前の主が作った生物で、それを森に放したのが最初らしい。そこからは手を加えていないので、カストル達が氾濫を起こしている訳じゃないんだって。
あれは、森が溜め込んだ魔物を定期的に吐き出すものらしい。このまま放置しておけば、また五百年くらい後に氾濫するってさ。
させないようにする為には、森を完全封鎖するか、魔物を駆逐する以外に手がないそうだ。駆逐はやめて。魔物素材でペイロンは潤っているんだから。
そういう訳で、ペイロンの魔の森はこれまで通りと決まりました。誰にも言えないけどね。
他にもユルヴィルからは兄夫婦と祖父母夫婦、貴族派からはビルブローザ侯爵夫妻にノグデード子爵夫妻。子爵の方は次男のゾジアン卿も一緒だ。
「やあ、いつぞやの騒動ぶりだね」
ゾジアン卿……彼と一緒に行動したのは、子リスちゃん家であるメルツェール子爵家の騒動の時だ。
あれがあったから、セブニア夫人をうちで雇ったんだっけ。大分昔のように感じるけれど、まだそんな経ってないよね。
「そうそう、おめでたいついでに伝えておくよ。我がノグデード子爵家は、僕が継ぐ事になったんだ。領地の兄が、病で体を壊してね。その代わりに」
「そう……なんですね」
ノグデード子爵家は、前から嫡男より次男の方が優秀という話だったしね。嫡男、領地で幽閉コースかな?
でも、ここはそんな事はおくびにも出さずに、笑顔でいる事が大事。
「おめでとうございます、ゾジアン卿」
「ありがとう。君のお祝いに来たはずなのにね」
「よろしいんじゃないでしょうか?」
うふふあははと流しておく。何となくだけど、この場にユーインがいなくて良かったわ……
ただいま、自室に戻ってお着替えの真っ最中です。出迎えの時とドレスが違うんだぜ。どっちも、今日この時の為だけに作られた新品なんだぜー。
「今日一日だけだ。乗り切れ自分」
「鏡に向かって呪いのように呟かないで。聞いてる方が怖いわ」
リラが酷い。いーもん。リラの結婚式の時は高みの見物をしてやるう!
「ありがとう。その前に、あんたの結婚式は来年三月だって事、忘れないようにね」
ぎゃふん。
「さて、これで仕度完了ね」
「ありがとう、リラ」
違うドレスに着替えて、化粧とヘアアレンジをし直してもらってたんだ。
今度のドレスは普段身につけている青。でも、かなり濃い色で紺と青の境目くらいかな。
これが裾にいくに連れて薄くなっていくグラデーションになっている。刺繍もビーズ類も何も付けていない。
ただ、ドレープとグラデーションで勝負! っていう、シンプルだけど大変難しいドレスだ。マダム・トワモエル、頑張ったな。
薄手の生地故か、大きく作られたドレープが美しく、そこにグラデーションが見事に重なっている為目を引くデザイン。
オフショルダーにしたのは、私の我が儘。本当なら小さくても袖を付けた方がいいと言われたんだけどねー。肩は出してみた。
ロンググローブと、ダイヤのネックレス、同じくダイヤのストマッカー、ヘアピンはお出迎えの時使っていたのとはまた違い、大きめダイヤがはまった一本のピンをいくつも髪に挿している。
髪はゆるく巻いて、背中に流した。そこに星のようにきらめくダイヤのピン。なかなかいいね。
「おおー、ちょっと美人に見えるー」
「いや、見た目だけなら大分美人だからね? あなたは」
「何故見た目だけと限定するのかな?」
「察してください」
色々と酷くね?
自室を出て、ユーインのエスコートで階段へ。玄関ホールにはまだ招待客がたくさんいる。
いや、私が行くまでそこで待機させられているんですが。
そこにやっと主役登場、とばかりに階段上へ現れる私。ひー、慣れていないから小っ恥ずかしいいいいい。
でも、ここで挨拶をしない訳にもいかない。そういう慣習なんだって。嫌いだ、こんな慣習。
でも、顔には笑顔を貼り付ける。
「皆様、本日はお集まりいただき心より感謝致します。この度、新しく侯爵位を賜りました事を、ここにご報告させていただきます。心ばかりではありますが、もてなしの用意を致しました。皆様、存分に楽しまれてください」
オーゼリアって、前世日本のような謙譲の美徳があるんだよね。外国と争わずに済んでいたからかもー。
とはいえ、こういう時には助かるわー。
ホールにいた客は、配られた陶器のゴブレットを手に玄関ホールから奥の部屋へと移っていく。ゴブレットも、好評みたい。
何部屋かを開放して、好きに楽しんでもらう事にしてあるんだ。食事やおつまみもそれぞれの部屋に用意してある。
飲み物も、酒からソフトドリンクまで色々。もうちょっと時間があれば、トレスヴィラジ産の果物でジュースが作れたのにー。色々とタイミングがあれだ。
今回は王都邸での祝賀会なので、食事とお酒とおしゃべりが中心。玄関ホールは開けてあるので、そこでダンスをするもよし。その為に、少人数の楽団も入れて……あれ? 人じゃない?
『人形に楽器演奏をさせてみました』
人形に陶器の白い仮面を被せているので、人形だとは周囲にバレていないらしい。いや、楽団員の顔をまじまじと見る人も、こういう場にはいないだろうけれど。
それにしても、色々と出来る幅が広がってるねえ、人形。ちなみに、楽器はレンタルしてきたらしいよ。
飲んで食べておしゃべりして。招待した客には楽しんでもらえたらしい。特に酒。出し惜しみせず、いい酒を用意したらしい。
本当なら領地で作る酒を出すべきなんだけど、うちの領地ではまだそこまで手が出せないんだよね。何せほんの少し前まで、餓死者が出るような場所だったから。
これからは、トレスヴィラジでワインを、デュバル領ではビールでも造るかねえ?
あ、フロトマーロの港が出来たら、サトウキビを手に入れてラム酒もいいんじゃない? お菓子にも使えるし。
早く港を造らなきゃ。
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