第142話 試乗

 森での宿泊は、一泊のみ、ユーインと一緒に限り許可された。酷くね?


「じゃあ森での夜明かしはなしにするか?」

「やでーす」


 酷くね? 伯爵の意地悪ー。




 森の魔物は、本当に大分変わってる。深度五の奥の方で、やっと鬼ツノガイを見つけた。


「……てか、これ鬼ツノガイ?」

「違うんじゃないかしら?」


 今日はヴィル様、コーニーと一緒ー。すっかり深度四で見かけなくなった鬼ツノガイを探して、奥へ奥へと入ってきたところ。


 鬼ツノガイ……に似てるんだけど、色が違うのと大きさが違う。こっちの方が大きいよ?


「もしや、取れる真珠も大きいとか?」

「その前に、真珠が取れるかどうかを考えろよ」


 ヴィル様が酷い。いや、確かにその通りなんだけど。でも、取れそうじゃね? あの貝。


「殻を開けてみないとわからないけど、内側も綺麗なら、加工次第でアクセサリーに出来るかも」

「早速狩ってみましょうよ」


 コーニーもノリノリだ。欲しいよねえ? 新しいアクセサリー素材。私も欲しい。


 アクセサリーが無理でも、ドレスの装飾素材には出来るかもー。楽しみだ。


 鬼ツノガイは水に弱い貝でした。貝のくせにあるまじき生態だよな本当。では、目の前の推定鬼ツノガイは?


「まずはこれで眠らせてみる。食らえ! 催眠光線!!」


 魔物にも利くかどうかわからないけれど、ニエール用の催眠光線なのでかなり強力だ。


 結果、貝は全員お眠りあそばした。


「じゃあ、開けてみよっか」

「何が出るかしら?」


 寄生している木から地面に落ちた貝を拾って、ナイフでこじ開ける。お。


「あったー! 丸々した真珠ー!」

「こっちもよ! 貝の内側も、虹色に輝いて綺麗だわ」

「新しい素材に使えそうだね」

「ええ」


 本日の狩りは、女子に嬉しいものでした。




 新種らしき鬼ツノガイ、ちゃんと研究所に提出して色々調べてもらいます。


「あ、レラさん、ちょうど良かった!」

「え? 何?」


 研究所職員に「ちょうどいい」って言われると、ドキッとするよね。また何か丸投げしたものが返ってくるんじゃないかって。


「ニエールさんが呼んでるんですよ」

「そっちかあ……」


 彼女が呼んでるのなら、飛行機関連だな。


 こっちのチームが作っていて壁にぶち当たった案件。飛行機が、ある一定高度に達するとそこから上にいかないというもの。


 確かに重力制御の術式は私が提供したけれど、それを応用して飛ばす技術までは関わってないからさ。聞かれてもわかんなくて。


 なので、機関車が一段落したニエールを連れてきた訳だ。その彼女が呼んでるって事は、また何かでつまずいたか、壁を越えたから見ろというものか。


 どっちだろう。


「あ! 来た来た! レラー!!」


 ニエールが満面の笑み。よっし、後者だ! これは私としても嬉しい!


「ニエール、壁越えた?」

「壁? ああ、高度ね。うん、単純な問題だったよ」


 良かった良かった。


「でね? これ以上高く飛ばす場合、試乗するのが職員じゃ危なくてさ」

「うん?」

「レラ、乗って試してみてね」


 そういう事ー!?


 という訳で、研究所の裏手にある広場に皆で出て来た。ヴィル様とコーニーも、そのまま一緒にいるよ。


 あ、鬼ツノガイと真珠は職員に渡してくれたんだ? しっかり研究してこれからに備えてくれたまえ。


 養殖の為に必要なら、眠らせたまま持ってくるから、必要数を教えてねー。


「じゃあ、これね」


 ニエールが持っている収納バッグから、飛行機を取り出す。飛行機っていうか、特大ドローン?


 そういえば、前世でもあったよね? 空飛ぶバイクだか一人乗り用空飛ぶ車だかで、ドローンっぽいやつ。まあいっか。


「これが、試作機?」

「そう! 今は一人乗りだけれど、いずれは五、六人くらい乗れる大きさにしたいよね!」


 そして自分も乗りたいんだな? でも、試乗は私に譲るんだ。ニエール、いいところあるなあ。


「あれ、落ちたらたまったもんじゃありませんよね?」

「し! 黙ってろ」


 あれー? 何か聞こえてきたよー? ニエールー? 何で顔を背けるのかなあ?


「ねえニエールうう? 今さっき聞こえた内容、どういう事かなあ?」

「な、何の話かなあ?」


 嘘が下手なんだから、こっち向きなさい。まったく。


「別に罰するとかないよ。私なら、高いところから落ちても生きてるだろうし」


 何せ防御用の結界がありますから。子供の頃から使い続けているので、熟練度はなかなかのものなのだよ。


 簡単な操縦方を聞いて、実際に飛んでみる。


「レラ、危なくないのか?」


 ユーインは心配顔だ。


「平気でしょう。爆発とかしないだろうし」

「爆発!?」


 やべ、言うべきじゃなかったわ。


「本当に、大丈夫だから。むしろ、周囲に人が集まってる方が危険だし。ニエール、皆を中に入れて」

「わかったわ。さあ、皆さん、おとなしく建物の中に入ってくださーい。ウィンヴィル様とコーネシアお嬢様もですよー。はいはい、ユーイン様もねー」


 扱いが雑だけど、この場で危険性を一番理解しているのはニエールだからね。


 さて、まだ試作機だからか、メーターとかに手作り感が溢れているよ。コードも飛び出したままだし。大丈夫かよ。


 スイッチを入れて、魔力を注入していく。魔力は、操縦者が常に供給するタイプらしい。そのうち魔力結晶を使った貯蔵タイプに切り替えてもらおう。


 魔力が四機ある重力制御装置に充填されると、目の前のランプが青に切り替わる。そこから、ゆっくりペダルを踏み込んだ。


「おお! 本当に浮かんでる!」


 感想としては、そこが一番だね。高度は徐々に上がり、目線が上がっていくのも楽しい。


 あっという間に研究所裏手に広がる樹海を越えて、周囲が見渡せるようになった。


 あ、森も見える。……なんだ? あれ。


 樹海の木々の高さを超えた辺りから、魔の森を囲うように薄いベールのようなものが見え始めた。


 ベールは地上四、五メートルくらいの高さから、ずっと上まで続いている。これ、もしかして結界?


「なるほど。地上を行くか、上空六千メートルから入るか、二つに一つって訳か」


 うちのご先祖様は森の中を行くのは不可能と考えて、上空から行けって指示したんだな。


 まあ、確かにあの森を抜けて深度十は辛かろうよ。この飛行機を作り上げるのも大変だけどねー。


 高度を上げて困る事。横からの風が強えええ。


「うお! 流されるううううう」


 この飛行機、文字通り飛行しているので、風の影響受けまくりなのだ。座席から吹き飛ばされそうになるしなー。


 という訳で、とっとと結界を張りました。気温も下がってきてるし、呼吸もしづらかったからね。


 それと、結界の形をちょっといじって、空気抵抗を少なくするようにしてみた。聞きかじり、チラ見しただけの知識でも、結構使えるもんだなあ。


 とりあえず、飛べるのはわかった。後は形状とかを考えてもらって、魔力のみで浮き上がるんじゃなく、風の力も取り入れるようにしてもらおっかな。


 ゆっくりと高度を落としていくと、下には心配そうな人達が集っている。あれ? 伯爵とシーラ様もいるよ。


「ただいまー」

「お帰りレラ! どうだった!?」

「うん、色々改善してほしい箇所があるから、後で報告書を書くよ」

「よろしく!」


 結界……は面倒なので、搭乗者を保護するガワがぜひ欲しいところ。あとは風に負けない姿勢制御と翼かな。




 その日の夕食は、話題が飛行機の話一色となりました。


「ほう、そんなに高く上がれるんだな……今度、乗せてくれないか?」

「お兄様、立場を弁えてください」

「はい……」


 シーラ様、伯爵が飛行機に乗るくらい、許してあげて。


「私も乗ってみたい。レラ、次に試乗する事があったら、ぜひ代わってくれ」

「ずるいわよ、ヴィル兄様。私も乗ってみたいわ!」


 アスプザット兄妹も、飛行機に興味津々の様子。


「面白いものを作ったんだねえ」

「それが出来上がったらガルノバンとも簡単に行き来出来るのかしら?」


 ロクス様とチェリは、ほのぼのムードです。いやあ、甘酸っぺえなあ。


 二人を眺めてニヤニヤしていたら、隣のユーインが深刻な声で聞いてきた。


「レラ、あれは二人乗りに変えられないのか?」

「今のところは無理だと思うよ?」


 搭乗人数を増やす前に、クリアしなきゃいけない課題は山ほどあるから。


「そうか……残念だ……」


 そこまでショックを受ける事? 大丈夫だよ、落ちても結界張っておけば多分無事だし。爆発はないだろうし。


 ……大丈夫だよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る