第143話 天幕面接
森で狩りをしたり、研究所で飛行機の改良を手伝ったり、機関車の試運転の日を決めたりしていたら、あっと言う間に私の誕生日になった。
「時間が過ぎるのが早い……」
「何年寄り臭いこと言ってんのよ……」
パーティーの為の支度の間には、何故かデュバルから送られてきたエヴリラがいる。彼女も、支度を手伝うらしい。
「そのついでに、パーティー出てもいいってジルベイラさんに言われたんだー」
嬉しそうだねえ。何でも、パーティーと名が付くものに出たのは、王太子の結婚祝賀パーティーが初めてだったんだってさ。
「うちは貧乏な少領男爵家だもん。余所から招待受けるような家じゃないしね」
王太子の結婚では、国中の貴族が集められたからね。あれに出席する為の金策、大変だったんだってさ。
「どうやら兄嫁の実家筋の家まで頼ったらしいのよ。本当、恥を方々に撒き散らしてるわうちのクソオヤジ」
文句いいつつも、ドレスを整える手元はしっかりしている。聞けば、商会で仕事をしていた時に、商会長の夫人や娘の支度の手伝いまでしていたそうだ。
「男爵家の娘が?」
「ええそう。そろそろ資本主義の波が来ているのかもね」
ああ、従来の権力構造が変わるって訳か。こうして見ていると、とてもそうは見えないんだけどなあ。
「よし、出来た!」
「おお。化粧の腕、いいねえ?」
「まあね!」
「あの色に髪を染めていた人とは、とても思えない」
「うぐ! ひ、人の黒歴史を……」
黒歴史なんだ、あれ。
パーティーは、盛況だった。
「誕生日おめでとう、レラ」
「リナ様! ありがとうございます」
「ふふふ、今年はこちらにも招待いただき、光栄です」
去年に知り合ったリナ様なので、今年は私の誕生日からお招きいたしました。このまま、狩猟祭まで滞在してもらう予定なんだー。
旦那様のシャウマー伯爵は実直な人らしく、サンド様からの評価も高いとか。これはシャウマー伯爵家、派閥内の序列が上がるかも?
一通り挨拶だなんだを終えて、親しい人とおしゃべりの時間。
「では、女子限定で人材を募集すると?」
「ええ。今のところ、学院生を対象に考えています」
実家に問題を抱えていて、まともな結婚も就職も出来そうにない人、加えて成績優秀だとなお良し、ってところかな。
コーニーの学年でも、成績優秀はまだしも進路に困っている女子がいないかどうか、探してもらう予定。
「レラ、その募集は、既に卒業している女子ではダメか?」
「え? いいえ?」
どういう事? もしかして……
「実は、私の友達に出戻りの子がいるんだが……」
リナ様の同輩でしたー。
何でも、親が決めた相手と結婚したはいいけれど、わずか一年で返された人がいるそうな。
「たった一年で、離婚ですか?」
「ああ、それも、子が出来ないという理由だったんだが……」
「ええええええ……」
再度言おう。たった一年で? これが三年子なきは……ならまだ……いや、それでも文句はあるが。それを一年とは。
大体、不妊は女性の側だけの問題じゃないのに。男性不妊だってあるんだぞー。この世界では、まだまだ広まってないけど。
私の反応に苦笑したリナ様だけど、何かまだ言いたい事があるっぽい。水を向けてみよっかな。
「リナ様、まだ何か、離縁に理由が?」
「その……あちらの家の姑とうまくいかなかったらしく……」
おおう、異世界でも嫁姑問題はあるのか。
「大分酷い嫌がらせをされたらしい。で、離縁理由がそれだろう? 再婚相手も見つけられないどころか、もう結婚などしたくないと言ってるそうでな……」
この国、結婚離婚はそこまで簡単じゃないけれど、絶対出来ないという訳でもない。
ただ、今回のように表向きの理由が理由だと、確かに再婚相手を見つけるのは難しいよなあ。
既に跡継ぎがいる家の後添い……なら有りだけど、その場合相手が高齢って事もよくある話。
ただ、リナ様の同輩って事は私よりも年上だよね? 実質年下の、それも女に雇われる事に不満に持たれると、困るんだよなあ。
現場はジルベイラに任せてるから、早々トラブルも起きないと思うけど。
「リナ様、その方、私に雇われる事に対して忌避感を持つような方ですか?」
「いや? ただ、実家に引きこもり状態なので、引っ張り出すのが大変かもしれないんだ」
さすがにその理由では、ヒッキーになっていても何も言えない。
「では、当事者がやる気を出したら、もう一度お話しをいただけます?」
「ありがとう! 絶対にやる気を出させてみせるよ!」
リナ様、無茶はなさらないでくださいね?
でも、バツイチ女子か……その辺りも、掘り起こしたら人材の宝庫だったり、するんじゃね?
「という訳で、訳ありで離縁された女子、心当たりないですか?」
パーティーの翌日、森に入るのはお休みになっているので、シーラ様に直接尋ねてみた。
「離縁された方? 例の、人材云々かしら」
「そうです」
その場で、昨日リナ様から聞いた話をざっくりと伝える。
正直言うと、バツイチ女子は家庭教師とか、高齢男性の後添えとか、それくらいしか行き場がないんだよね。
実家に帰っても、代替わりしたら追い出される事もあるっていうし。ある意味、実家に問題がある女子よりも切羽詰まった事情があるかもしれない。
考え込んでいたシーラ様が、ふと何かを思い出したようだ。
「そういえば、いたわね」
「本当ですか!?」
「ええ、でも、レラよりかなり年が上よ?」
「え……」
それは、どのくらい上なんでしょうか?
「王家派閥の中なんだけど、同じ伯爵家へ嫁いだ方が、子を為さずに夫が身罷ってね。家は弟が継いだのだけれど、妻である彼女は実家に帰されたの」
死別か……それもバツイチに加えちゃっていいのかね?
「伯爵家の方なら、雇うのはちょっと躊躇しますね」
「でも、家格から言えばデュバルよりも下よ? 領地で領主館を任せるのに、いい人材かもしれないわ」
それもあったー。なるほど、一度は他家の女主人として生活した経験があるのなら、領主館を任せられる。
現在、そっちの仕事もジルベイラが兼任してるからね……これは急務かも。
「そう聞くと、ぜひ雇いたいと思うのですが……」
「何か、問題でも?」
「いえ、あちらの方が働いてくれるかどうか」
同じ爵位の、しかも小娘に雇われて領主館の管理をする。それを受け入れてくれる人でないと、困るんだよなー。
「それなら問題はないと思うわ。今年の狩猟祭、その方も招待しているから、天幕で顔合わせをするのはどう?」
「ぜひ」
苦手な天幕社交に、こんな使い方があったとは。他にも、出戻りやら行き先が決まらない女子を何人が紹介してもらえるそう。
あっという間に、天幕社交の場が面接会場になる事が決まりましたー。
狩猟祭は、天候に恵まれてスタートした。
「レラ、こちらが話していたトシェルク伯爵家のルミラ様。ルミラ様、こちらはデュバル女伯爵です」
「ルミラ・パロキアです。お初にお目に掛かります」
「デュバル女伯爵ローレルです。お見知りおきを」
ルミラ様は、穏やかな表情の控えめな女性だ。第一印象通りなら、ぜひとも欲しい人材です。
少し話しただけだけれど、私との相性も悪くないと思う。シーラ様の方をちらりと見ると、軽く頷かれた。
今回の面接、事前にデュバルで働く意思があるかどうかは、シーラ様が確認してくれてる。
「ルミラ様、夏の間にでも、ぜひ一度デュバル領に遊びにきてくださいませ」
「まあ、ぜひ」
今回、デュバル領に誘うのが面接通過の合図。まず私、そして領ではジルベイラが面接を担当します。
他にも、シーラ様が厳選してくれた人達と顔を合わせたんだけれど、ちょっと引っかかる面があったので、ルミラ様以外は招待までいかなかった。
何かね、話の端々にユーインの名前が挙がるのよ。警戒して当然だよね?
何の為にうちの領で働くと思ってんだ。うちはそんなに甘くはないのだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます