第131話 誰も知らなければそれでよし

 二月の舞踏会シーズンも無事終了。いや、大変でした。


 学院では「ハニーチェル様とロクスサッド様の関係は!?」と詰め寄る女子達に囲まれ、舞踏会では色々な人と顔を合わせて社交三昧。


 いや、疲れましたとも。特に二月は週末にびっしり舞踏会スケジュールが入れられてるしー。


 それに、もう一つある。カルセイン卿だ。


 何故かどこに行ってもいるんだよね。いや、向こうも社交は必要なんだろうけどさ。


 王家派閥の舞踏会にもいたのを見た時は、誰が招待状を出しやがったと思ったもんだ。


 調べてみたら白騎士団繋がりで、派閥の端の方にいる家が手に入れた招待状で参加したらしい。本当、親子して同じ事をするな。


 顔を合わせても挨拶する程度で、決まって「ターエイドは元気か」と聞いてくる。


 もしや、ユルヴィルの祖父母が実兄の身を案じているとか?


「ないわね」


 シーラ様にぶった切られた。


「確かにあなた達の祖父、ラケラル卿はターエイドの事を案じてるでしょうが、だからといってカルセイン卿にこちらを探るような真似はさせないわ」

「どうして、断言出来るんです?」

「サンドがターエイドとクイネヴァンの現況を報せているからよ」

「はえ?」


 サンド様、そんな事をしていたんですか? お手数おかけします……


「でも、じゃあカルセイン卿が私に絡んでくるのって、何でだろう?」

「……こちらでも調べてみるけれど、なるべく二人きりにはならないようにね」

「はーい」

「レラ、もしもの事があっても、最小限にとどめなさい」

「……はーい」


 力を抑えるのって、難しいよね。




 チェリとロクス様の婚約は、夏に正式発表する事になった。週末、いつものようにアスプザット邸に帰ってきたら、シーラ様から聞かされた話。


「時間かかるんですね」

「ロクスだけでなく、ヴィルの関係もあるから」

「ヴィル様? あ! 縁組み……」

「じゃなくて。仕事の関係よ」

「はあ」


 仕事とな。


「ヴィルはこのまま王都に残って王太子殿下の側近になる話が出ているの。本人は嫌がっているんだけどね……殿下の方が離してくれなくて」

「うわあ……」

「で、ロクスはハニーチェル嬢と結婚するでしょ? だから、うちが持っている伯爵位を継がせて、そのまま領地運営をしてもらおうかと」

「ああ、それで仕事」

「ええ。でも、ヴィル本人が拒んでいるのよねえ」

「へ? 何でまた」

「領地の仕事をしない自分が、侯爵位を継ぐのはおかしいって言い出して」

「普通、それってロクス様が言い出す事では?」

「そうなのよねえ。あの二人、変なところでひっくり返っているから」


 ちなみに、ロクス様は伯爵位を継いで領地運営をする事に否やはないそうな。


 ヴィル様の態度にも、「兄上、大人になりましょうよ」と余裕の態度だって。ああ、いかにもロクス様っぽい。


 あの二人、爵位にはてんで興味がないもんな。普通なら、爵位を巡って骨肉に争いとか起こるところだろうに。


「ヴィルの相手もまだ見つからないし、コーニーの相手も見繕わないと」

「お疲れ様です」

「レラは、早々に決めてくれて助かったわ」

「ぐふ」


 こっちに流れ弾がきたー。


 まあ、そんな訳でまだヴィル様とロクス様の間で爵位をどうするかをもめているそうだから、夏まで婚約発表はお預け状態になるらしい。


 逆に言うと、夏までにはお互いに落とし所を決めろよ? という親からの無言の圧力でもあるんだって。


 二人とも、頑張れ。




 学院の授業は、相変わらず選択授業が楽しい。やりたい放題出来る部分があるからねー。


 特に総合魔法。熊が腹の立つ事を言ってくる事も多いけど、それなり自由度を上げてくれているのでよしとする。


「よしとする、じゃねえよ」

「いったいなあ。人の頭、ぽんぽん叩くな!」

「うるせえ。次の的、出せや」

「へーい」


 現在、総合魔法でやっているのは得意な攻撃魔法を見つける事。私は、その攻撃を当てる的作りに勤しんでいる。


 皆魔法の威力が上がっているのか、学院が用意した的はあっという間に使い切っちゃったんだよね。


 で、熊が目を付けたのが私。総合魔法の授業の度に、せっせと的を作っている。


「これでただ働きだもんなあ」

「むくれんな。成績に上乗せしてやるから」

「点数よりも金をくれ」

「お前はどこの守銭奴だ! まったく」


 モチベーションって、大事なんだよ? 点数程度でやる気が出るとでも?


「んじゃあ、的を作り終わったら、好きなだけ攻撃魔法ぶっ放していいぞ」

「本当に!? やったー!!」

「おい! 作り終わったら、だ!」


 熊の奴、ケチケチしおって。作りますよ作ればいいんでしょー。


 結果、全員が満足出来るだけの的を作り終え、最後に自分用に今まで作った的と同じ数の的を作った。


 で、ほぼ一瞬でその的を全滅させる。はー、すっきり。


「やり過ぎだばかやろう!!」


 熊からげんこつが来た。好きなだけやっていいって、言ったじゃん!


 まあ、後ろに控えていた他の生徒達が目をまん丸にしていたのは、正直申し訳なかった。




 社交をしつつ、学業にも精を出す。忙しいけれど、何となく充実してるなあと感じる今日この頃。学院祭がやって参りました。


 もうそろそろ、総合魔法でやるネタも尽きてきた気がするー。


「そう言わねえで、何か面白そうな出しもん、思いつかねえのかよ」

「生徒に丸投げするな」

「何言ってんだ。学院祭は生徒の為のものだろうがよ」


 むう。そう言われると、反論出来ない。


「うーん……じゃあ、人形を動かして劇をさせて、その音楽を全部魔法で演奏するってのはどうよ?」

「今までの全部を入れるってのか?」

「幻影は入れてないよ?」

「背景に入れろよ、そこは」


 ああ、なるほど。舞台美術の代わりか。あ、何か出来そうかも。


「人形はあえて顔を作り込まないで、全部黒で統一。顔の向きとか仕草で感情表現する方向で」

「出来んのか? そんなの」

「為せば成る。多分」


 あれだ、人形浄瑠璃みたいな感じで。ただし、こっちは影絵がモデルだ。


 影だけでも芝居が成り立つんだから、いけるいける。


「会場全体を暗くして、そこに幻影を出して際立たせる」

「いちいちそんな手間かけんのかよ」

「次までに、ミニチュアで作ってみる」

「おう。任せた」


 何かいいように乗せられた気がするけれど、面白そうだからいいや。




 厚紙で作った箱の中に、厚紙で作った人形を配置する。箱の中身が舞台だ。


 背景は、あらかじめ作っておいて紙芝居のように切り替えていく。切り替えが見えても、それも演出の一部としておけばいい。最初から、見世物だから。


 黒く塗った人形に、髪や服だけは色鮮やかにする。内容はどうしよう?


「いっそ、わかりやすい誰もが知ってるおとぎ話とかにしようか」


 そうすれば、字幕がいらないんだよなあ。赤ずきんなんかでも、出てくるキャラなんかで、どの場面かわかるし。


 ただ、この国でそこまでメジャーな話、私は知らないのが問題。


 わかんない事は、やはり人に聞くのが一番かな?


「という訳で、童話といえば『これ』という作品、ありませんか?」


 職員室に行って、いつぞや幻影のネタにする作品を聞いた先生達に、またしても聞いてみた。


「それを教師に聞いてくるとは……」

「自分が小さい頃読んでいたお話でいいんじゃないの?」

「ダメよ。この子、ペイロン出身じゃない」

「あ……」


 待って先生達。そこで黙り込まないで。哀れみの籠もった目で見ないでええええええ!


「ええと……『狼と娘』とか、どうかしら?」

「あれ、救いがないじゃない」

「どうせなら、『王女様と僕』とか」

「あれ、童話なの? 子供に見せられない箇所があるわよ?」

「他に思い浮かぶのは、『黒仮面』とか『銀色月夜』とか、言う事聞かない子供用のお話ししか思い浮かばないわ」


 この世界、楽しむ為の童話ってないのかな……いっそ、定番の話を出版したら、売れたりして。


 結局、先生達に聞いても決められなかったので、いっそ本……というか、観客に冊子を別で渡し、そこで話の流れを知ってもらおう。


 で、見せるのは影絵のような人形劇で、台詞なし、音楽のみ。これでどうだ!


 ぱっと思い浮かんだ童話をベースに、あれこれ混ぜ込んで話を作ってみた。教訓なんていらないんだ……


「って訳で、こんなのどうよ?」 

「ほう。つかこの話、どっから持ってきたんだ?」

「適当にあちこちからつぎはぎで考えた」

「おめえ……そんな事も出来んのかよ……」


 そこ、感心するところ? 元ネタからパクりまくっただけなんだけどなー。

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