第130話 なれそめ?

 大使館のお披露目は無事終了。予期せぬ個人的アクシデントがあったりしたけど、全体で見れば大成功だ。これからの、ガルノバンとの付き合いはうまく行きそう。


 今夜はデュバル邸に戻る予定だったんだけど、変更してコーニーも一緒にアスプザット邸へ来た。


 もちろん、話題の中心であるチェリとロクス様もね!


「さあさあさあ! いつからそんな事になっていたのか、全て話してもらうわよ!」

「私は事前に聞いていたけれど、やっぱりびっくりした」

「コーニー、ずるい」

「仕方ないでしょう? 普段からロクス兄様にエスコートしてもらうところを、ヴィル兄様に変更になった、なんて言われるんですもの。聞き出さない手はないわよ」


 それは確かに。って事は、コーニーが知ったのも割と最近? 質問したら、頷かれた。


 二人してチェリを見ると、隣に立つロクス様が困ったような笑みを浮かべている。


「二人とも、それは玄関ホールで話す事じゃないよ。着替えて、落ち着いてからでいいんじゃないかな?」

「ロクス様、逃げないですよね?」


 確認、大事。


「逃げないよ。そんな事したら、二人してチェリを責めるだろう?」


 人聞き悪いですね! 責めたりしませんよ。ちょっとあれこれ聞きまくるだけで。


「ともかく、三人とも着替えておいで。父上達もいらっしゃるだろうから。ユーイン卿も、いらっしゃいますか?」

「同席させてもらおう」


 そういえば、シーラ様達もお披露目には出席していたんだよね。会場では顔を合わせる事がなかったけど。


 何せ人が多くてな……でも、こんな事は初めてだ。多分、今までは社交に不慣れな私を気遣って、なるべく側にいてくれたんだと思う。ありがたや。


 アスプザット邸には私専用の部屋もあって、いくつか服も置いてある。その中から部屋着に着替え、室内履きで居間へと向かった。


 部屋着っていっても、今まで着ていた夜会用のドレスじゃないってだけで、十分外に着ていけるようなワンピースなんだけどねー。


 途中、同じように着替えたコーニーと出くわしたので、一緒に部屋に向かった。


 居間には、既にくつろいだ姿のサンド様とシーラ様、ヴィル様、ロクス様とユーイン。チェリはまだかな? 彼女も、今夜はアスプザットにお泊まりだ。


「遅くなりました」


 最後に入ってきたチェリは、目が潰れそうな程の幸せオーラが出ております。まぶちい。


 全員が揃ったので、早速事情聴取……じゃなかった、なれそめを聞く。


「その……なれそめと言われても……」

「ここで、毎回顔を合わせてただろう? それで、いつからともなく」

「はい! 告白はチェリからですか!? それともロクス様から?」

「レラ……どうして君はそういう……」


 あら珍しい。ロクス様が頭を抱えている。いつも余裕ありますって顔しか見せてこなかったのに。


「いいぞ、レラ。たまにはこいつを困らせてやれ」

「兄上……」

「ヴィル、弟が困る姿を見て喜ぶものではありませんよ。大体、あなた自身はどうなっているの? 我が家の嫡男だという自覚は、ちゃんとあって?」


 おっとヴィル様やぶ蛇。弟をからかいたいのに、隙がなくて出来ないから、こういう時に突きたいんだろうなあ。


 でも、話が自分の結婚になっちゃったから、逃げるのはヴィル様になったというね。


「チェリは? ロクス様のどんなところが好き?」

「え? ええ?」


 照れて真っ赤になるチェリ、可愛い。


「そうよねえ。我が兄ながら、ロクス兄様は腹黒だから。あ、でも家族には優しいわよ? あの人、身内認定した人は全力で守る人だから」


 コーニーの意見には賛成。そういう辺り、ヴィル様とロクス様は似ている。さすが兄弟。


 コーニーもそういうところあるから、血筋だね。それがアスプザットのものなのか、ペイロンのものなのかは悩むけど。どっちの家もそういうところ、持ってるから。


 私とコーニーに詰め寄られて、チェリがぽつぽつと話し始めた。


「あの……最初は、慣れないお茶会に疲れていた時に、お庭に案内してもらったのがきっかけなの……」


 お茶会は、アスプザット邸で開かれていたお見合いパーティーだな。お茶会という名目で、午後のみやっていたから。


 確かに、見知らぬ相手に毎週遭うのは疲れただろう。もう少し、チェリの体調を考えてスケジューリングするべきだったなあ。


 私がやった訳じゃないけれど、シーラ様に伝える事は出来たから。


「それで、お庭の花の種類を尋ねていたら、どんなお花でも教えてくださって」


 どうやら、ロクス様を最初に意識したのは、その知識の豊富さにだったようだ。


「ロクス兄様、花の種類まで詳しかったのね……」

「モテる男は違うねえ」

「あら、ヴィル兄様は、花の名前なんて、三種類程度しか知らないわよ?」

「妹は辛辣だねえ」


 ともかく、そこから何となく意識しはじめ、自分の気持ちに気付いたのは、冬休みの頃だったそうな。


「……もしかして、参加している人に悪いって言っていた、あの辺り?」

「ええ……」


 なるほど。あの辺りでもう、ロクス様にロックオンしていた訳か。そりゃ目がないってわかる他の参加者に申し訳ないって考えるのも、当たり前かも。


「ただ、あの時はまだ私一人の想いだったから、はっきり言えなくて……」

「では、いつから両想いに?」


 ここ大事。すっごく聞きたい!


「それは……その……」

「二月の舞踏会シーズンだよ」


 脇から、ロクス様が援護してきたー! でもそうか。舞踏会か。あれはその昔、独身者達のお見合いだったって言うからね。


 ペアを組んで踊って会話して。お互いの距離が縮まった訳か。くう! 甘酸っぺえええ。


「わ、私の事より、レラのなれそめを聞きたいわ」

「私?」

「そうよ。ユーイン卿とは、どこで出会ったの? 私、まだ何も聞いていないわ」


 チェリに反撃されて、思わずコーニーと顔を見合わせる。チェリのような、ドラマチックな話は何もないんだけど……


「えーと、王都で迷子になったところを、送ってもらったのが出会いなんだけど……」

「まあ! 本当に!?」


 ……何故、そこでそんなに感激するの?


「二度目は……学院?」

「もしかして、あのリネカ・ホグターの騒動の時? ユーイン様が、ヴィル兄様にレラを紹介してくれって言った」

「多分、そう」

「まあ、まああああ!」


 ねえ、何で? この話のどこに、そんな感動する箇所があるの?


「では、その再会を切っ掛けにお付き合いに発展したの?」

「いや、それはまた別で……」

「ユーイン様が所属する黒耀騎士団で、ペイロンに魔物を狩って鍛えようという話が出たそうなの。で、その為の根回しの為に、成績優秀者の為の舞踏会で、レラにダンスを申し込んだそうよ」

「んまあ!」


 そういやあの舞踏会、卒業生も参加出来るって知ったの、大分経ってからだったよ。ただし、在学中の六年間、ずっと成績優秀者で居続けるってのが条件だそうだけど。


 アスプザットの兄妹は全員、その条件を満たしそうだね。上二人は既に満たしているし、コーニーも大丈夫でしょう。


「それで、ユーイン様がペイロンにいらっしゃった日に、レラに求婚したの」

「そうだったのね……なんて情熱的な方でしょう」


 いや待って。それ違うから。あれは大分非常識な行動だったから! そこ、頬を染める場所じゃないのよ!?


「その時に、婚約を?」

「いや、それは……」

「急な求婚に、我が家の者達も驚いてしまってね。一年かけてレラを口説き落とすようにって、お母様に言われてしまったの」

「何て素敵……」


 素敵か?


「それで、翌年、ペイロンでは魔の森が氾濫してね」

「まあ……我が国でも、ありましたわ。魔の森を担当している侯爵家が、甚大な被害に見舞われました……」


 魔の森の氾濫は、森に接している国には等しく起こる事だという。ただ、ペイロンの場合は白団長がやらかしてくれたせいで、大分厳しくなったけど。 ガルノバンも、被害が甚大だったとは。


「その氾濫の際に、ユーイン様は大怪我を負われてね」

「まあ! 大丈夫なのですか?」


 チェリに問われたユーインは、ちょっと苦笑気味だ。


「問題ありません。レラに、治療してもらいましたから」

「まあ」


 う……いやまあ、ペイロンの人達を守ってもらったし? 特に研究所の職員の事、身を挺して守ってもらったし?


 それに……


「あと、その氾濫でレラが魔力を使いすぎてしまってね。危ない状態だったの」

「ええ!?」


 いや、大丈夫。今、目の前でピンシャンしてるでしょう?

「そのレラを救ってくれたのも、ユーイン様なのよ。何でも、相性のいい魔力同士は、受け渡しの効率がいいんですって」

「聞いた事があります。魔力が枯渇して瀕死の相手に、自身の魔力を渡す術があるのだとか……でも……あの術は……」


 チェリが真っ赤だ。もしかして、受け渡しの際にはなるべく肌を合わせていた方がいいって、知ってる?


 だから、あの時ユーインと同衾って形になったんだよなあ。思い出すと、さすがに恥ずかしい。


「お二人は、強い絆で結ばれているのですね……」

「え?」

「そうそう、そうなのよ! なのに、レラったら自覚がなくて困るわあ」


 そうなの!? いや、コーニーの顔には笑いが含まれている。からかってるな!?


 そのうちコーニーに相手が出来たら、からかい返してやる! 覚えとけよ!!

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