第125話 お見合い? 合コン?

 伯爵家くらいになると、男爵家、子爵家の娘が行儀見習いで侍女として入る事はある。


 でも、同い年の女子が入るってのは、聞いた事ないなあ……シーラ様が預かっている遠縁の侍女も、ヴィル様より数歳上くらいだし。


「えーと、そう願う事情を聞いても?」


 とりあえず、何か裏があるだろうから、まずはそれを聞いて見ない事にはね。


 しばらく俯いていたルチルスさんは、意を決したように顔を上げた。


「……ミアが、結婚話をしていたでしょう?」

「そうね」

「実は、私にも出ているの」

「え」


 それは、日中にあった三男坊の話ですか?


 嫌な汗が背中に流れる中、何も言えずにいると相手が察してくれた。


「殿下の事じゃないわよ?」

「そ、そう……」

「第一、聞かなかった事にしますって言って、その場から去ったし」


 本当に言ったんだ……それで、改めてショックを受けて、総合魔法をずる休みした……と? 三男坊、よえー。


 それはともかく、じゃあ、結婚話は実家から? そう聞くと、目の前で頷かれた。


「それも、父と同じくらいの年の人よ!? 酷くない!?」

「ええー」

「そりゃ、相手はお金はあるわよ。一生生活には困らないって言われたわ! でも、そうじゃないのよ!!」


 まあ、確かに。父親と同じ年のおっさんに嫁ぐとか、マジ勘弁って私だって思うわ。


「でも、いくら言ってもお父様は聞く耳持ってくれないし!」

「……失礼だけど、その、ご実家が相手の方に借金しているとか、ないよね?」

「! あるかも!」


 今気付いたと言わんばかりに、ルチルスさんがショックを受けている。うーん、これはどうしたものか。


 個人的にはルチルスさんを救いたい。おっさんのところに嫁入りとか、本人が希望していない限り、ふざけんなって思うし。


 ただなあ。余所の家の話に首を突っ込んで、本当にいいのってところがね……


 学院だけの繋がりだけだし、家同士何かがある訳じゃない。派閥も違うから、私が動くのが正しいのかどうか、判断が付かないんだよ。


「……ルチルスさん、この話、一旦預からせてもらっていい?」

「え? ええ。すぐに返事がもらえるとは、私も思ってないから」


 よし。なら、明日からすぐに動こう。あ、それと、もう一つ確認しておかないといけない事がある。


「結婚話って、学院を卒業してから……だよね?」

「多分……」

「なら、一応ご実家に、その辺りを確認しておいて」

「わかったわ」

「大丈夫、絶対に悪いようにはしないから」

「! あ、ありがとう! ローレルさん!!」


 まあ、最悪うちの領に来てもらうって手も、あるしな。




 ルチルスさんを部屋まで送って、屋根裏部屋まで戻ったら、扉の前に人がいた。誰だ?


「どちら様?」

「! あんた!」


 あ、偽苺。何しにここに来たんだろう?


「ここ、屋根裏部屋よね?」

「そうですが?」

「私に譲って!」

「はあ?」


 何言ってんだ? こいつ。


「ここでないとダメなのよおおおお!」


 知らんがな。


「無理ですお帰り下さい」

「そう言わずに!」

「無理です嫌ですお帰り下さい」

「ちょちょちょちょ、待ってってば!」


 絡んできてうざいです、この偽苺。しかも部屋に入りたいのに邪魔だし。


「あ、そこにやべー人形が浮いてる」

「え? どこどこ!?」


 今時こんな手に引っかかる奴、まだいるんだ。偽苺が指差した方に気を取られている間に、中に入って扉を閉めた。


「あー!! ちょっと! 開けなさいよ!! 欺すなんて卑怯よ!!」


 何とでも言え。あ、扉をガチャガチャやってるー。知らないぞー。明日から、しばらくトイレがお友達かもねー。


 にしても、やっぱり「屋根裏部屋」そのものが目的なのか。一体何があるのやら。


 それはともかく、結構深い時間だから、シーラ様に連絡するのは明日にしようかな。


 と思っていたら、通信機の呼び出し音がなった。えええええ。


「も、もしもし?」

『ああ、レラ? こんな時間にごめんなさいね』


 シーラ様だ! え……まさか、こっちの事情が見えてた……とかは、ないよね?


「いえいえ。ちょっと、こちらも連絡しようかと迷っていたところです」

『そうなの? 何かしら?』

「あー……先に、シーラ様の用事をどうぞ」

『そう? 急で悪いのだけれど、次の週末、ハニーチェル嬢をうちに連れてきてほしいの』


 ヴィル様との、お見合いか! 早いな。


「わかりました。何か、彼女に伝えておく事はありますか?」

『いいえ。連れてきてくれるだけでいいわ。あとは、こちらでやります』

「わかりました」


 相変わらず、頼れる人だわあ。


『それで? 用事は何かしら?』

「実は……ですね」


 シーラ様に、ルチルスさんから言われた事を全部話した。それから、彼女の話を受けていいものかどうか、その場合派閥やアスプザット、ペイロンに迷惑がかからないかを相談した。


 私が話している間、通信機の向こうでは何か動いている気配がしている。多分、メモを取って使用人に渡しているんだろう。


『話はわかりました。一度、こちらで調べてみるわ。それまで、下手に動かないようにね』

「はーい」

『では、週末に』


 これで一安心。調査の結果次第で、どう動くかが決まるわ。




 三男坊、ショックがでかすぎたようで、今週の授業は全滅したらしい。よえー。


 つかさあ、無理だって散々言ったよね? 何でフラれる事に対する備えをしておかないのかなあ?


 あれか? 私の言葉なんぞ信用出来んとか思ったのか? まあ、結果は私の言った通りですが。


 ルチルスさんの方は、三男坊からの告白より、身近に迫った結婚話の方が問題らしいよ。


 普段通りに見せかけているけれど、ふとした時に見せる顔に悩みが滲んでる。


 三男坊も勘弁だけど、おっさんも勘弁だよなあ。相手がイケオジならワンチャンあるけれど、多分違うだろうし。


 ついでに、偽苺も扉の呪いが利いたようで、姿を見ない。平和って、尊いよね。


 そんな尊い日々を過ごし、やってきました週末。チェリを連れてアスプザット邸へ行く日です。


 とうとう、ヴィル様とお見合いかー。心なしか、馬車で隣の席に座るチェリが、緊張しているように見える。


 ……緊張? ちょっと違うかな。何かに、怯えている?


 学院からアスプザット邸まで、馬車でならすぐだ。チェリの感情の正体がわからないまま、来ちゃったよ。


 本日、二人とも私服で来てます。チェリはフリル多めでスカートはあまり膨らまさないタイプのドレス。上からマントタイプのコートを羽織っている。


 ドレスはスモーキーなピンクに濃い目のピンクのストライプ柄。マントは茶色。


 私はタイトまではいかないけれど、細身のスカートにブラウスとジャケット。アクセサリーにバロックパールの三連ネックレス。


 ジャケットは、マダム・トワモエルに頼んで、縁と袖口に共布でフリルを入れてもらった。なので、ちょっと華やかになっている。


 襟のないタイプだから、首回りから前、裾までぐるっとフリル。スカートと同じ生地で色は黒。ブラウスは白。アクセントに、赤い花のコサージュを胸元につけている。


 馬車から降りて、執事ヨフスの案内で邸に入る。これ、私は最後まで立ち会うのかな……


 向かった先は、邸の奥。ヴァーチュダー城と同じく、奥は家族や親族、親しい人しか入れない場所だ。


 つまり、最初からチェリは親族として歓迎されてる訳だね。少しは彼女の緊張と怯えが、解消されればいいけど。


 到着したのは、もっとも奥にある庭に面したサンルーム。そこに、アスプザット侯爵夫妻であるサンド様とシーラ様、長男のヴィル様、次男のロクス様、それに長女のコーニー。全員揃ってるね。


「ようこそ、シェーヘアン公爵令嬢」

「お招き頂き、ありがとうございます」


 そんな挨拶から始まった今回のお見合い、まずは向こうの家族と一緒に、という事らしい。


 どちらかというと、シーラ様とコーニーがチェリを構い倒している。いいのか? これ。


 まあ、目に見えて緊張感が薄れているから、いいのか。




 結局、この日はこれでおしまい。あれ? お見合いじゃなかったの?


「今日はこのまま泊まってらっしゃいな。寮への外泊届は、こちらで出しておきます」

「ありがとうございます」


 いきなりのお泊まりですかー。まあ、チェリも楽しそうだし、夕食を一緒にしながら本命のヴィル様との仲を深めるのもありだね。


 もちろん、私もお泊まりですよ。外泊届け、使用人の誰かが走ってくれるらしい。ご苦労様です。


 夕食も和やかに終わり、チェリは客間へ、私は自室へ。ここにもあるからね、私専用の部屋。


 隣はコーニーの部屋なんだけど、寝支度を終えた頃に扉がノックされた。


「コーニー」

「ちょっといい?」

「うん」


 ここに来ると、こうしてお互いの部屋を行き来するから。おかげで使用人の人達も慣れたもんだよ。


 一緒のベッドに入って、寝る前のホットチョコを楽しむ。寒い時期はこれだよねー。


「チェリの様子、どうかしら?」

「ヴィル様との相性?」

「そう。私としては、ヴィル兄様のお嫁さんになってくれると嬉しいんだけど」


 私が見た限りでは、相性は悪くなさそうだ。ただ、良くもないって感じ?


「……結婚しても、うまくはやっていけると思う。でも、それ以上はないかもね」

「貴族の結婚なら、うまくやれるだけでも合格点だと思うけど……」

「だよねー」


 ただ、出来たらチェリには愛し愛される相手と一緒になってほしい。ただの我が儘だな、これ。


 ヴィル様と結婚したら、長い時間をかけていぶし銀みたいな夫婦になれるかもしれない。てか、多分なる。


 それも、いいのかもね。




 それから、週末ごとにアスプザット邸へ行く事になった。ただ、最初の時のようにアスプザット家の皆さんだけ、とはいかない。


 他の王家派閥の家の男子も、招かれているんだよね……中には、いつぞや学院祭で総合魔法を統括した男子もいた。


 一回だけだけど、ルイ兄も来たよ。いや、あの人はダメでしょ。ペイロンは特殊過ぎる。


 常に男子はヴィル様以外にも二、三人いるようになっていて、そこに私とコーニー、それと王家派閥の家の女子も招かれるから、何か合コンみたいなイメージ。いや、私には婚約者がいますが。


 ユーインは、この場には招かれていない。どうも、黒耀騎士団の方が忙しいらしんだ。王都の外の小さい森に、頻繁に行ってるそうな。そんな手紙が私の手元に届いております。


 そろそろ、通信機を渡した方がいいかね?


 あ、三男坊が授業をサボったのは、ショックを受けた週だけでした。どうも、週末に王宮に呼び出されて、王妃陛下にお説教されたんだってさ。


 この辺りは、シーラ様情報。ああ、お茶会とかで、王妃様の愚痴を聞いてるんですねお疲れ様です。


 授業に出てくるようになった三男坊は、あからさまに元気がない。側近候補達が一生懸命元気づけようとしているけれど、のれんに腕押し糠に釘。


 彼等が側にいてくれるのも、国内にいる間だけなのにねー。そういえば、三男坊が隣国に送り出されるのって、いつなんだろう? やっぱり、卒業後?

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