第123話 茶会怖い

 偽苺、教室の一件でまたしても反省室行きだってさ。


「学習しないな……」


 今は夕食前の部屋での一時。好みのコーヒーを入れてまったり中。


 そういえば、あの偽苺、屋根裏部屋にこだわっていたね。何かあるのかな。


「隠されたアイテム……はないね。改装の時に全部取っ払ったし、何か力のありそうなものはなかったよな」


 ヤバい人形はあったけど。あれも浄化済みだから、問題なし。


 って事は、屋根裏部屋そのものに、何かある?




 考えてもわからないので、保留にしておいた。翌日も教室に突撃かますかと思った偽苺は、来なかったね。


「昨日の彼女、今日は来ないんだ」


 何げなく呟いたら、ランミーアさんが反応した。


「反省室から出してもらえないのよ」

「そうなの?」

「寮監の先生だけでなく、教養学科の先生達まで揃ってお説教したそうなんだけど、まるっきり話を聞かないそうなの」


 あー……大分思い込み強そうなタイプだもんなー。


 多分、髪を染めている辺りからも、ここは彼女が考える乙女ゲームの世界ではない。そして、偽苺はヒロインポジでもないだろう。


 何でそんな事を考えたんだろうね。男爵家の娘だから? 乙女ゲームって、前世もろくにやらなかったけど、普通の子がイケメンを落とすゲームじゃなかった?


 大抵頑張ってステータスを上げて、それに見合った相手を落とせるってやつ。ゲームによっても違うのかもしれないけど。


「何にしても、平穏なのはいい事だと思うわ」

「そうね。特に、ハニーチェルさんは付きまとわれないか心配だもの」

「そうよね。彼女が狙っているのって、どう見てもシイニール殿下だもの」


 教室の入り口で、大きな声で連呼してたからねー。思わずチェリと顔を見合わせて、ちょっと笑う。


 その第三王子、チェリとの事はどうするつもりなんだろう? 私的には、もう第三王子は捨てて、違う人との結婚を考えてほしいのだけれど。


 政略だからねー。難しいよなー。




 偽苺は、「突撃」からの「説教」経由で「反省室送り」を繰り返している。そろそろ退学の文字も見え始めたんじゃないかなー?


 そして、第三王子はというと……


「目の前で溜息吐くの、やめてもらえませんか?」


 こっちの幸運まで裸足で逃げそうだわ。


 またしても私だけ指名して、庭園のガゼボに拉致ってきてるくせに。私も、皆と一緒に食堂で昼食を食べたかった……


「溜息だって、吐きたくなるよ。何なの? あの女子生徒」

「さあ?」


 私に言われましても。まあ、周囲の人がいくらか情報を持ってきてくれたけどねー。特に隣のクラスの女子が。


 偽苺こと、エヴリラ・リッピ・セニアン。セニアン男爵家の娘だけれど、何故か四年生の今年から学院に編入している。


 家族構成は両親と兄と弟。兄は一年から学院に入学して、六月に卒業済み。弟はまだ入学年齢に達していない。


 下級貴族だからか、マナーが足りていない部分多し。ただ、成績は良くて、特に教養学科はかなりの高得点だとか。


 個人的に付け加えるなら、いつから甦ったかは知らないけれど、前世の記憶を持った転生者。いやー、色々盛りだくさんだな。


 にしても、また、男爵家の娘……ねえ?


 それはともかく、目の前でぐずぐずしている三男坊を、いい加減どうにかしたい。


 ただなあ、チェリとの政略結婚に関しては、王家派閥が動いているので下手な介入は出来ないんだよねー。


 とはいえ、こうも目の前でうじうじされると、そろそろ私の忍耐力が切れそう。


「殿下、この際、やはり意中の相手に告白して盛大に散ってください」

「……何度も言うけど、どうしてフラれる前提なのかな?」

「え? だって、相手はランミーアさんかルチルスさんですよね? どちらにしても、家格が足りませんよ」


 二人の名前を出した時の三男坊の態度。そうか、相手はルチルスさんか。


「……何でしたら、私が代理で相手にお気持ちを伝えてきましょうか?」

「それはやめてくれ!」


 お? 自分で告白する気はあるのかな?


「その……彼女は、シェーヘアン公爵令嬢とも親しいようだから、私からの告白は受けてくれそうにないし……」

「チェリの事がなくても、多分受けませんよ?」

「君は、もう少し私に配慮があってもいいんじゃないかな?」


 だからね? 配慮してほしいのなら、人選間違ってるんだってば。何回言えば理解するのかなあ?


 この三男坊も、学習能力がないのかしら?




 いつまでも指名で拉致られるのは嫌なので、その日の夕食後、ランミーアさんとルチルスさんを部屋にご招待ー。


 いや、ルチルスさんだけでもいいかなって思ったんだけど、彼女だけ呼び出す口実が見つからなかったから……


 ちなみに、チェリはコーニーと一緒に上級生のお姉様方とサロンでおしゃべり。


「いきなり呼んじゃって、ごめんなさいね」

「そんな、いいのよこれくらい。あ、今日のケーキは何かしら?」

「ここに来ると、いつもおいしいお菓子がいただけるんだもの」


 ランミーアさんもルチルスさんも……いやまあ、以前購入しておいたものが、まだ収納魔法に残っているからいいんだけどね。


 時間経過なしって、改めて凄いよなあ。それはともかく。


「仮定の話なんだけど」

「もしもってやつね」

「まあ、何が聴けるのかしら?」


 二人とも、いきなり切り出したのに、ノってくれるから好き。


「今、王族に結婚を申し込まれたら、どう答えますか?」

「謹んでご辞退申し上げます」

「聞かなかった事にします」


 うん、二人とも即答だね。


「理由を聞いても?」

「王族でしょ? 無理無理無理。うち、しがない子爵家よ? 貧乏までは言わないけど、子爵として体面保つのが精一杯の家よ?」

「うちも無理。爵位も家格も何もかもが足りないもの。大体、王族なら王家派閥のお嬢様がお妃様になるんじゃないかしら」


 そういや、王太子の婚約者であるシェーナヴァロア嬢は王族の公爵家出身、ベーチェアリナ嬢は王家派閥よりの中立派出身。


 ランミーアさんとルチルスさんの家は、どちらも無派閥だっけ。


「それに、シイニール殿下にはハニーチェルさんがいるんじゃないの?」


 え? それ、バレてるの?


 顔に出たらしく、ランミーアさんが笑った。


「隣国の公爵令嬢が、いきなり留学、しかもシイニール殿下がいらっしゃる組によ? 誰だって政略結婚が組まれたんだって思うものだわ」

「そうよね。ハニーチェルさん、いい人だから、シイニール殿下も幸せになれるんじゃないかしら」


 二人の表情には、悔しさのようなものは少しもない。心の底から二人の結婚を祝福してるよ。


 ははは、三男坊、やっぱり目はないじゃないか。




「ですって」

「最悪だ……」


 翌日、性懲りもなく私を拉致ったので、三男坊にはしっかりと昨日の二人の態度を教えておいた。


「事前に調べてあげたんですから、感謝してくださいねー」

「僕は、やめてくれって言ったよね?」


 私も、こういった形で会うのはやめるって、言わなかったっけ? これでも婚約者持ちなんだけど。


 いくらガゼボの周囲に見えないよう、側近候補が付いてるとは言ってもね? ユーインが聞いたら気を悪くするじゃないか。


 ちゃんとそう、言ったよね? なのに、何回人を拉致れば気が済むのかなあ!? そろそろゴルァアアしてもいい?


 まあ、目の前で頭抱えてるから、今日はやめておいてやろう。


「大体、チェリとの話があるんですから、余所に目を向けている場合じゃないでしょうに」

「わかってるよ! ……ただ、公爵令嬢の事は、ちゃんと父上に話している」


 へー。ボク、あの子をお嫁さんにしたくないー、他の子がいいのーってか? 陛下は、それを受け入れているのかね?


 一回、アスプザットにその辺りを問い合わせた方がいいのかなあ?




 大人組は、行動が早かった模様。


「レラ、今日のお茶会には王妃陛下がいらっしゃいます」


 マジですかー。本日の社交行事は、アスプザット邸でのお茶会です。今回は内々ではなく、割と厳選したメンバーだって聞いてたんだけど。


「ええと、私も参加……なんですよね?」

「当たり前ですよ。ああ、今日はコーニーは別のお茶会に呼ばれていますからね」


 そうなの? 母親が開く茶会には出ず、他の茶会に顔を出すとはこれ如何に。しかも、シーラ様のお茶会に私は参加だ。


 内心首を傾げていたら、シーラ様が苦笑した。


「レラ、あなたは女伯爵、コーニーは我が家の娘です。その差を、きちんと理解なさい」

「はい……」


 つまり、私は既に派閥の一員だけれど、コーニーは親が派閥の一員だという事。この違いが、なかなかどうして重いんだな……


 本日の招待客は、王家派閥からラビゼイ侯爵家のヘユテリア夫人、中立派のロプイド侯爵夫人、そして王族のローアタワー公爵夫人。これに、王妃様が加わる。


 ヘユテリア夫人以外のお二人は、対面するのは初めて。でも、彼女達ではなく、令嬢達なら何度も顔を合わせている。


 ロプイド侯爵夫人の娘、ベーチェアリナ嬢は第二王子の、ローアタワー公爵夫人の娘であるシェーナヴァロア嬢は王太子の婚約者だ。


 シェーナヴァロア嬢に関しては、来年の六月に挙式を控えている。


 こんなメンツでお茶会って……


「遅くなってしまったわね」

「お待ちしておりましたわ、王妃陛下」


 主賓は、最後にやってくる。全員が立って一礼。にしても、この中にいるの、胃が痛くなりそうなんですが。


 さすがは国のトップとも言える女性陣が集うお茶会。流行の話から各地方の天候まで、話題が幅広い。


「それはそうと、シイニール殿下におかれては、何やら周囲が騒がしいようですね」


 切り出したのは、ローアタワー公爵夫人。王族公爵の夫人として、王家のあれこれにも関わっているとは聞いている。


 だからこそ、令嬢が未来の王妃として王太子妃に選ばれたんだとか。


 公爵夫人の言葉に、王妃様は眉をひそめる。


「ええ、恥ずかしながら、あの子はどうも王族としての自覚が足りないようで」


 おうふ。そんな事、こんな場所で言っちゃって大丈夫なんですか? 王妃様。


「レラ、学院では、あなたにも迷惑をかけているようね?」

「いえ、それ程でも……」


 模範回答集が欲しいって、今日ほど思った事はありませんよ……


「そうそう、レラはハニーチェル嬢とも、親しくしているのよね?」

「え? ええ」

「学院での令嬢の様子は、どうかしら?」

「日々、楽しんで学ばれているようです」


 これは本当。ガルノバンには女子が通える学校がないそうで、令嬢は家庭教師に教わるだけなんだって。


 だからか、皆で一緒に学ぶ場である学院は珍しいらしく、何事も新鮮に感じて楽しんでいる。


「そう、良かったこと」

「せめて、学院での暮らしを楽しんでもらえればと思いますわ」

「本当に」


 あ、これ、三男坊終了のお報せなのでは……


「実はね、陛下があちらの国王陛下にお手紙をお送りしたのです」

「まあ」

「どのような内容か、伺ってもよろしいのでしょうか?」

「ええ、もちろん。実は、シイニールはあちらに出そうかと思いまして」


 はい、三男坊終了ー! ガルノバンに政略結婚の駒、婿として出される事が決定しましたー!


「王妃様、お返事は何と?」

「残念ながら、あちらの国王陛下には年頃の姫君がおられないのですって」


 お? じゃあ、もしかして婿入り話は破談?


「ですので、王家の血を引く令嬢を幾人かご用意くださるそうなの」


 ダメだったー。


「まあ、それは……」

「ほほほ、殿下も、さぞや寂しくお思いでしょうね」

「では、ハニーチェル嬢は、あちらにお返しになられるので?」


 ヘユテリア夫人、ズバッと聞くなあ。


「令嬢は、こちらで別の方との縁をと思っています。ねえ? シーラ」

「そうですわね」


 んんん? ここでシーラ様を名指しするって事は、相手はヴィル様!?

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