第119話 仲良しさんが増えましたー

 狩猟祭も中日折り返しまで来た。今日は狩猟祭女子の部ですよー。


「レラ、コーニーも、頑張ってね。でも、無茶はしないでほしいわ」

「大丈夫よ、チェリ。私もレラも慣れているから」

「うんといい獲物を捕って、チェリに捧げるね」


 あれからすっかりハニー嬢とは打ち解け、コーニーと一緒に女子でキャッキャウフフしてました。


 その結果、お互いを「チェリ」「コーニー」「レラ」と呼び合う仲に。


 最初、チェリ様って呼ぼうとしたら、本人に拗ねられてしまったのよ。


 何せ向こうは王族の血が入った公爵家だ。身分が段違いで上だもん。なのに。


『そういう事をいうのなら、私もレラ様って呼ぶんだから』


 って拗ねられてしまった。美少女に可愛らしく拗ねられたら、そりゃOKしない訳にいかないよねー。即陥落しましたとも。




 本日の女子の部、参加者は前年よりも増えている。総勢二十五人。大半は秋から学院に入る年齢の女子だけど、それでも増えたのはいい事だ。


 あと、コーニーと私より年上の女子も参加するようになった。昨年結婚したばかりの伯爵夫人だって。


 天幕社交でも見た覚えがないから、別派閥か狩猟祭には招待されないような家の出身かな?


 ともかく、見た感じそこそこ出来そうな伯爵夫人だ。強敵、現る。


「レラ、今年は何を狙うの?」

「うーん、チェリに捧げるって言っちゃったから、鹿かなあ?」


 あれは肉も毛皮も角も使える。毛皮で上着を作るのもいいし、角で細工を作るのもいい。肉はおいしく頂きます。


「じゃあ、私はキツネを狙おうかしら。チェリのマフラー用に」

「いいね。じゃあ、お互い頑張ろう」

「ええ」


 開始の角笛の音に合わせ、馬を駆る。ペイロンで訓練された馬は、どの子も賢くて乗り手の指示によく従う子ばかりだ。


 私に宛がわれたのも、そんな一頭。


「よーし、頑張って鹿を仕留めようね」


 私の言葉が理解出来たのかどうか、馬は一声大きくいなないた。




 狩猟祭では、攻撃魔法は使用禁止となっている。その分、探索や幻覚などの術式は大目に見られているんだ。


 去年も使ったな、幻覚魔法。今年は婚約者がいるからいらないかと思ったのに……


「デュバル女伯爵、ご一緒しましょう!」

「いやいや、私と行きましょう。弓の腕には自信があります」

「ぜひ、この私をお使いください。見事獲物を仕留めてご覧にいれましょう」


 バカなのかな? ギャーギャー騒ぎながら付いてくるから、獲物が逃げちゃうじゃないの。


 私に付きまとうって事は、大した家出身じゃないな。それに、次男三男は家でも扱いが軽い。


 という訳で、まとめて煙幕からの幻覚魔法で追い払っておいた。狩りが終わったら、シーラ様にチクってやる。連中の姿はちゃんとカメラで収めたからな。


 狩り場は広い。ちゃんと狩猟場として保全されている場所なので、獲物の数も揃っている。


 鹿は……よしよし、もう少し西だな。


 男性達の本日の狙いは大猪らしい。南の方で猟犬が追い込んでいるのが聞こえる。獲物がかち合わなくて良かった。


 馬の足音を消し、そっと鹿の気配に近づく。うん、なかなかいい面構えの牡鹿だ。角も立派。体格もいい。よし、あれを仕留めよう。


 こちらの音や空気が漏れないよう、周囲に結界を張ってから矢をつがえる。よーく狙って……今だ!


 矢には強化と倍速の術式を使ったから、弾丸のように飛んで鹿の頭を貫く。まず一頭。


「幸先いいね」


 チェリに捧げる獲物は手に入れた。鹿は貸与された収納バッグへ。


 さて、次は何を狩ろう?




 結果、鹿を二頭、ウサギを四頭、キツネ二頭仕留めて今年も優勝をかっさらいましたー。はっはっは!


 他の参加者に対する忖度? 知りませんねえ? 序列への配慮? 何の事かなあ?


 ペイロンは弱肉強食なんですよ。


 女子の部優勝賞品は、何と本物の金細工のティアラ。これ、夜会で使える代物だわ。


 使っている宝石は真珠に銀珊瑚。魔の森産の品ですね。真珠、まだ取れるんだ。


 表彰式では、簡単なインタビューもされる。これも、導入したのは去年から。評判が良かったんだってさ。


「去年に続き、二年連続での優勝、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「本日の獲物は、どなたかに捧げますか? やはり、婚約者のユーイン卿へ?」

「いいえ。一番の鹿は、シェーヘアン公爵令嬢ハニーチェル様に捧げます!」


 会場、どよめきました。うん、女子から女子へ、獲物を捧げるのは初だろうからね。


 ちなみに、インタビューを受けるのは優勝者のみ。表彰台に上がる人全員にやればいいのに。これは来年への課題だな。


 女子の部準優勝は、あの新妻伯爵夫人だった。コーニーと競っていたみたいで、ウサギ一匹の差だったそうな。やっぱり、腕良かったんだなあ。


 表彰式が終わり、スワニール館に戻る途中、コーニーと合流した。


「負けちゃった」


 言葉の割りには、残念感がないね。さっぱりとしているよ。


「あの人、いい腕してたんだね」

「そうね。まさか、レラ以外の人に負けるとは思わなかったわ」


 聞けば、コーニーはあの女性……シャウマー伯爵夫人と少し話したらしい。


「シャウマー……」

「うちの派閥でも序列は低めよ。ただ、王家派閥である事に誇りを持っている家だから、夫人は結婚の際に苦労したんですって」

「伯爵夫人は、貴族派閥の家出身?」

「いいえ、無派閥の小貴族家出身ですって」


 なるほど。派閥の繋がりのない、弱小の家から嫁を貰うと貴族の家としてはうま味がないって思われたんだね。


 でも、それでよく結婚出来たな。


「何でも、学院卒業から二年で周囲を黙らせたんですって。元々弓の腕は良かったそうだけど、卒業後さらに磨いてあの腕前にしたって言ってたわ」


 えー、それは結婚する為に狩りの腕を上げたって事でよろしいか? シャウマー伯爵のお父さんは、大の狩猟好きなんだってさ。


 で、狩猟の腕を上げれば結婚の許可が下りるだろうと考えたらしい。実際に許可が出たから、読みは間違っていなかった訳だ。


 あれか? 王家派閥って、脳筋しかいないのか?




 スワニール館に戻り、獲物を解体するところに預け、着替えてから談話室でプチ女子会。


 準優勝を勝ち取ったシャウマー伯爵夫人も招いてみた。断られるかなー? とも思ったけど、そんな事はなく笑顔で受けてくれたよ。


「実はコーネシア嬢やローレル嬢の事は、学院時代に見て知っていたんだ」

「まあ。でも、年齢的に確かに一緒に通っていた時期がありますよね」


 シャウマー伯爵夫人リューナ様は、御年二十歳。二年前に学院卒業って事は、ヴィル様の一つ下? それなら、確かに私とも一年被ってるわ。


「特にローレル嬢の場合、寮に入ったその日から話題になっていたからなあ」

「……何かやりましたか?」


 覚えがありすぎて、どれだかわからない。


「いや、あなた本人が、ではなく。元寮監がやらかしたな」


 あー、あれか。屋根裏部屋を割り振られた件ね。本当に最初の一歩だったわ。


「正直、私や友人はルワーズ女史が嫌いだったから、更迭された時には拍手喝采したものだよ」

「そうなんですか?」

「ああ。家や出身地で生徒を差別する人でね。ただ、表向きは人のいい仮面を被っていたから、実際差別された生徒でないと彼女の嫌な面は知らなかったと思う」


 猫被っていたんだな。化けの皮が剥がれて、何よりですよ。


「レラは、本当に大変な目に遭ったのね……」

「いや、そんな事は……」


 チェリが大変気の毒そうな顔で見てくるけれど、屋根裏部屋なのを逆手に取って、好き放題してるだけなんだけどなあ。


「チェリ、学院に入って寮に行ったら、一度レラの屋根裏部屋を見に行くといいわ。きっととてもびっくりするから」


 コーニー、変な事を吹き込むんじゃありません。純粋なチェリが真に受けるでしょ。


「そうなの?」


 ほらあ。


「ふふふ、私も、噂の屋根裏部屋を一度見てみたかったな」


 ぐ……夫人までそんな事を。そりゃ、見せるくらいはどうって事ないですけどねー。


 ちょっとやさぐれてたら、チェリが不思議そうに夫人を見ている。


「……シャウマー夫人は話し方が独特なのね」


 そういや、気にしてなかったけど、ちょっと男性的な口調だね。言われたシャウマー夫人は、顔を赤らめている。


「その……これが素なんだ。我が家は代々騎士の家系でね。幼い頃から女でも騎士の訓練を受ける。本当は、弓よりも剣の方が得意なんだ。それで、訓練の間は男女の区別はしないという事で、こういう話し方に……」


 なるほど。そういえば、シャウマー夫人は背筋が伸びていてとても格好いい。ハンサム女子ってやつ?


「リューナ様、学院時代女子に人気があったでしょ?」

「え? どうしてそれを知ってるんだ?」

「特に、年下女子からキャーキャー言われていたと見る!」

「ええええ? が、学院で見ていたのか?」


 いえ、ただの推測です。


 その日のプチ女子会は楽しくて、すっかりシャウマー夫人とも打ち解けた。おかげでお互いに愛称で呼び合う事が決定。


 さすがに年上のお姉様のシャウマー夫人を呼び捨てにするのも気が引けたので、愛称のリナに様を付けてリナ様と呼ぶ事にした。


 照れてるリナ様、可愛い。




 晩餐会では、右にシャウマー伯爵、左に第三王子。目の前にいるのはラビゼイ侯爵だ。席決めた人、狙ってる? まあ、伯爵なんですが。


 食事中の歓談で、シャウマー伯爵から話を振られた。


「妻と仲良くしてくれていると聞きました。ありがとう、デュバル女伯爵」

「いいえ、こちらこそ。奥様とはこれからも親しくさせていただきたいと思っております」


 本音だよ? そのうちシャウマー家に遊びに行くって約束、取り付けているからね。女子三人で訪問させてもらいますよ。


「そうそう、ガルノバンから来た公爵令嬢とも、仲良くやっているようだね」


 ラビゼイ侯爵の言葉に、隣に座る第三王子の肩が揺れた。動揺しすぎ。まだまだだね、第三王子。


「ええ、ハニーチェル嬢とは、とても親しくさせていただいています。お互いに、愛称で呼ぶ程ですよ」

「ほう。それは令嬢も喜んだだろう。何せ、一人異国に来ているのだからねえ」


 侯爵、容赦ねえな。でも、私もその話題には乗っておく。だって、チェリは一つも悪くないもの。


「ええ、少しでも令嬢の心の支えになれれば、と思っております。秋からの学院も、楽しみにしているんですよ」

「そうかそうか。……おや、殿下。顔色が優れないようですが? 具合でもお悪くなさいましたか?」

「い、いや……何でも、ない」


 ちらりと左隣を見たら、第三王子の顔色が悪い。えー? この程度でー? 耐性なさすぎない?


 本当、このボンクラ三男坊にチェリはもったいないのでは?


 でもそうなると、誰が相手にいいかって事になる。王族って観点から行けば、陛下の甥に当たる公爵家令息が二人いたはず。


 ただ、そちらはヴィル様よりも年が上だから、チェリとはちょっと年齢が離れるんだよね。


 じゃあ王家派閥の誰かって考えると、一番に出てくるのはヴィル様。年齢も一応、五歳くらいの差だから、許容範囲と言えば、許容範囲。


 とはいえ、こういうのは私が考える事じゃないからね。成人して当主をやっているとはいえ、まだまだ経験不足なので。


 いや、経験積んでも、やっぱりこういう事には参加したくないや。

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