第114話 は! そうだった!

 呼び方が変わると、当然周囲の目も変わる訳でして。


「あらあ? いつの間にレラ呼びに変わったのー?」

「昨日までは、ローレル嬢呼びだったわよね?」

「まあまあ、コーニーも母上も、婚約者同士なんだからいいじゃない。兄上、その拳はしまって」

「何か腹立つ」


 静かに怒れるヴィル様の隣で、サンド様が不気味な笑みを浮かべているのは何故なんだろう。


 いや、ちょーっと呼び方変わっただけじゃない? そんな大層な変化は……


「そろそろ調査に出ようか、レラ」


 ……うん、ちょっと心臓に悪いかも。




 とはいえ、何度も呼ばれればそれなりに慣れる。黒騎士……もとい、ユーインからの「レラ」呼びに慣れた頃には、やっと樹海の調査を終えた。


「明日は私の誕生日~……」


 ええ、長期休暇の半分近くを使い切りましたとも。その間、一度も森に入れず。


 おかしい! こんなはずじゃなかったのに!!


「はあ、樹海を越えてみたら、また凄い山だねえ」


 遠目からもなかなか雄大な山脈だったけど、近くで見ると小さな山の向こうにまた山って感じ。


 絶壁が目の前にそびえ立つ……という感じじゃないのね。何と言うか、樹海の延長線上で徐々に標高が高くなっていってる。


「一応、樹海はここまでって事でいい?」

「そうだね。さて、山の方は……」


 ニエール、自分の収納バッグをごそごそあさってる。何が出てくるのかと思えば……


「ドローン?」

「何? そのどろーんって」

「いや、ニエールが手にしてるそれ……」


 プロペラ部分はないけれど、ドローンっぽい物体だ。下向きの丸い筒が四つ付いていて、中央に四角い箱状の本体がある。


「これね、レラから頼まれていたものの小型模型なの。あ、ちゃんと飛ぶよ? 見てて」


 ドローンもどきに魔力を注入すると、音もなくふわりと浮かぶ。そのまま、上空へと上がっていった。


「おお……」

「何と……」


 隣のユーインも驚いている。まあ、研究所で作られるものって、大抵の人は見て驚くんだよね。


 撮影機能もちゃんと搭載しているらしく、ニエールの手にある端末に映し出されていた。


「ニエール、これで山の高さも測れる?」

「まあね。調査用だから、その辺りは一通り機能としてつけておいたの。山の頂上が見える場所まで上がれれば、わかるよ」


 ドローンもどきは、ぐんぐん高度を上げている。映る光景も、手前の低い山の山肌からその頂上へ。


 更にその奥にある山を越え、さらに奥へ。


「手前のいくつかの山は、四千越えだね」


 こちらでの長さや高さの単位はリルト。前世でのメートル法とほぼ一緒。だから、手前の山々は四千メートルの高さって訳か。


「ただ、奥にかなり高い山がいくつかあるから、そこが問題かなー」


 ニエールの端末を覗き込む。確かに、奥の方の山は手前からどんどん高くなってるね。


 これ、下手したら八千メートル超えるんじゃね?


「……大分奥まで、山が続いてるよね?」

「だよねえ。これ、本当に穴なんて開けられるのかなあ?」


 無理……とは一概に言えないけれど、かなりの難工事になるんじゃないかなあ。


 四千メートルくらいなら、何とか山岳鉄道を作って行き来をするって手もあるだろうけれど……この山脈に長くてデカいトンネルを通そうっていうのは、かなり厳しそう。


「とりあえず、高さを測って、後は地質調査だっけ?」

「うんそう。樹海は終わったから、後は早めに終わるかなあ」


 ともかく、明日は私の誕生日なので、パーティーがあるから調査はお休みだよー。


 あ、ニエール一人でやるのかな? それなら、後でドローンもどきの映像、見せてもらおうっと。




 バースデーパーティーは、今年もやりました。もちろん、ペイロンで。


 本来こういう時に使うのはスワニール館なんだろうけど、あそこは基本、狩猟祭の時しか開けない。


 なので、ヴァーチュダー城でのパーティーです。私が十歳になった時から、毎年の事だ。


「とうとう十六歳かー」

「何かあるの? 十六歳だと」

「んー、別にー?」


 コーニーには、曖昧に言って誤魔化す。ただ、前世での結婚出来る年齢になったんだなって、思っただけなんだよね。


 オーゼリアでの成人年齢は十五歳で、婚姻もこの年齢から可能になる。だから、去年から結婚出来る年になってるっちゃあ、なってるんだよねー。


 それに、(仮)とはいえ、今の私には婚約者がいたりする。ちょっと前まで結婚するつもりなんて、なかったのにねー。変われば変わるもんだ。


 今年のプレゼントは、皆揃いも揃ってアクセサリーでした。


「何で?」

「これから数が必要になるからだよ」

「少しは装う事も覚えろよ?」

「社交界に出ると、毎回同じアクセサリーでって訳にはいかないからさ」


 サンド様、ヴィル様、ロクス様からのお言葉。納得出来るような、出来ないような。


「レラは数持ってないでしょ?」

「だから、私達で贈ったのよ」


 むう。コーニーとシーラ様まで。


「コーニーだって、そんなに持ってないでしょ?」

「私は王都でいくつか買ってるわよ?」

「え? そうなの?」


 知らなかった。


「社交界にデビューしてからは、ちゃんと装う事も考えてるもの」


 えー? 何か裏切られた気分ー。いや、コーニーが正しいんだけどさ。


「まあ、そういう訳だ。これを機に、レラももう少し考えるようにな」

「はーい」


 伯爵にまで言われちゃ、そう答えるしかない。


 ちなみに、サンド様とヴィル様、ロクス様の連名で髪飾り、ネックレス、ブレスレット、指輪、イヤリングがワンセットのものを。金に青玉をあしらったものだ。


 コーニーからは単体で髪飾り、シーラ様からはブレスレット、伯爵からは指輪、ルイ兄からはイヤリングをもらっている。


 どれも金と翠玉をあしらっている。


「私からは、これを」


 そう言ってユーインが差し出してきたケースには、金と藍玉をあしらったもの。


 これ、石が大きくないか?


「あら、素敵ねえ」

「早速つけてみれば?」


 シーラ様とコーニーに言われて、今付けているものから付け替えた。毎度おなじみ、自分で採取した黒真珠で作ったネックレスだったから、問題なし。


 髪飾りとイヤリングも黒真珠だったので、髪飾りは青いリボンに、イヤリングはネックレスを邪魔しない小粒の白真珠に変えた。


「どうかな?」

「よく、似合っている」


 な、何だかカップルのような会話じゃないかね?


 あ、婚約してる相手だったわ。


 他の人からのプレゼントも、似たり寄ったりの内容でした。こうやって貰う以上、お返しもそれなりに考えないとねー。


 その辺りは、王都邸にいる家令のレダーに丸投げだー。


 本当、付き合いってのは金がかかる。そろそろマジで、森に入って魔物を狩らないと、お金がなくなるんじゃないかな。




 一夜明けた翌日も、調査はお休み。というか、ニエールに付き合って、一度報告をという事になった。


「地質調査はまだですが、あの山に穴を開けるのは賛成しかねます」


 ニエールの意見に、伯爵もサンド様もシーラ様も渋い顔だ。


 ガルノバンとの陸路は、欲しいんだろうなあ。このままだと、海路しかなく、向こうから来る船が着く港を持ってる家だけが栄えるから。


 ペイロンとしては、それは面白くないってところかな。間にデカい山脈を挟んでいるとはいえ、一応国境を接しているから。


「レラは、どう思う?」


 うーん。あれだけデカい山脈にトンネルを掘るとなると、維持管理が大変じゃないかなあ。


 もちろん、掘削工事も難航するだろうし。落盤、怖いよね。


「もう少し低い山なら、まだ他の手もあるんですけど……」

「どんな手だ?」

「えーと……以前ニエールに話した鉄道というものです」


 四千メートルくらいなら、山岳鉄道を通す事が出来る。でも、それ以上の高さとなると、ちょっと自信がない。


 高山での工事は、労働者にも負担だろうし。


 ん? 今何か引っかかった。何だっけ?


「二人がそう言うのなら、ペイロンでは無理かもなあ」

「閣下、デュバル領ではどうでしょう?」

「へ?」


 ニエール、何言い出すの?


「まだ調査をしてないので確証はありませんが、ペイロンよりもデュバルの方が山の高さが低いんです。それなら、レラが先程言っていた鉄道も、通せるかもしれません」

「ふむ……」


 えー? デュバルに山岳鉄道通すの?


 その前に、あの領って今、どうなってるんだ? ジルベイラに任せっきりで、現在を知らないんだよね。


 休暇の間に、一度行ってみようかな。

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