第92話 プチ女子会?

 夏が終わった……狩猟祭が終わったからね。


「今年の休みは、氾濫の対応で終わった気がする……」

「あら、レラの誕生日も狩猟祭もやったじゃない。それに、襲爵だってしたでしょ? 盛りだくさんだったと思うわよ?」


 そうだっけ? でも、夏休みの思い出的な事を聞かれたら、氾濫対応としか出てこないんだよなー。


 王都に帰るまで、あと十日程。本日はコーニーと一緒に研究所に来てます。


 森がまだ封鎖状態なんだよ。何でも、氾濫の後は調査が入って、通常の森に戻った事が証明されないといけないらしい。


 その調査団の陣頭指揮を取っているのは伯爵。それに熊とクインレットのおっちゃん達が続いている。


 要するに、ペイロンでも腕利きが集まってるって訳。当然成人したばかりの私は仲間はずれでーす。ちぇー。


 なので、同じく仲間はずれ組のコーニーと、ニエールのところに遊びに来たんだ。ニエール、また寝てないとか、ないよね?


 研究所も、以前と同じ状態に戻ってる。氾濫の時は、ここも大変だったからねえ。


「あら、コーネシアお嬢様とレラじゃない。どうしたの? あ、森が封鎖状態だから?」

「ニエール、出会い頭に挨拶すっ飛ばしてそれかい」

「えー? だって、この時期二人が研究所に顔を出すって、森に入っていない時だけじゃない?」


 否定出来ない。隣のコーニーも笑ってる。


 ニエールは、目の下に隈を作ってるのは相変わらずだけど、いつもよりは薄い。それなり寝ているんだな。


「それで? 今日は何しに? 何か新しい術式でも思いついた!?」


 ニエール、言ってる最中にどんどん興奮していくの、やめてね。でもまあ、当たらずも遠からず。


 自分で考えついたものではなく、例の大きな鳥の置き土産だ。


「実は、ちょっとしたものを作ってほしくてね。必要な術式はこっちで提供するから」

「お!? 何々!?」

「前にも言ったけど、上空高く上がれる乗り物を」

「はい?」

 本当は、上空六千メートルまで上がれる乗り物を、だね。




 気密性を高くして、高山病にならない工夫をした、重力操作で浮く乗り物を作る必要がある。


「そういえば、氾濫の後に新しい術式と一緒にそんな話、してたね。王都との行き来用?」

「違うよ」

「荷物運び用?」


 だから、どうしてそう実用的な話しか出てこないんだよ。夢がないなあ。それもこれも、今まで私が提案してきたものが、実用的なものばかりだったせいか。


「魔の森の中央に行く為」

「はあ!?」


 コーニーとニエールの声が揃った。やっぱり、驚かれるか。前回話した時は、使用目的まで言わなかったもんね。


「理由はちょっとぼかすけど、魔の森の中央に空から入る必要があるんだ」

「なんで、深度十に?」

「そこに、目的の場所があるから……かな?」


 魔の森の中央にある研究所に行って、領民を死なせずに隷属魔法を解除する方法を探す為……とはさすがに言いにくいなあ。


 内容がデュバル家に関わるものだから、二人には言っていいものかどうか判断付かないし。あとでシーラ様に言ってもいいか、聞いてみようっと。


 ニエールは何やら考え込んでいる。多分、頭の中で必要な術式を引っ張り出しているんだな。


「一番重要な術式はもう渡してあるし、他にもいくつか提案があるから、何とかなると思う」

「それはありがたいけど。レラ、その乗り物、いつまでに作ればいいの?」

「出来るだけ早く」

「それだと……即答は無理かな。熊が森に入ってるから」


 そうか。熊は研究所の責任者だもんな。出来るだけ早く、となると、他の仕事を全部止めてかかりきりにならなきゃいけない。


 そうなると、止まる仕事の事とかの調整、しないとだもんね。


「熊って、行ったっきりしばらく帰らないんだっけ?」

「そう。閣下と出てるから、森で野営だよ。ついでに野営セットを試してくるって言ってた」


 転んでもただでは起きない熊だな。別に転んでないけど。


「じゃあ、とりあえず必要な術式とあれこれを置いていくね。目を通すだけ通しておいて」

「わかった」


 ああ、ニエールの目がギラギラしてる。熊の許可を得る前に、多分手を付けるな。こっちとしてはありがたいけど。


 周囲の人に、催眠光線の術式、教えておこうっと。




 研究所から戻る道すがら、コーニーがぼそっと呟いた。


「どうしても、深度十に行くの?」

「うん」

「森を突っ切って行くんじゃないのね」

「そこまで時間、かけてられないから」


 もうじき、王都に帰る。そうなったら、簡単に森に入る事は出来ない。ただでさえ、まだ深度五をうろちょろしてるくらいなんだから。


 深度十となったら、許可が下りないでしょ。


「レラ、一人で行くのは駄目よ?」

「わ、わかってるよ?」


 見抜かれてるー。ニエールが乗り物の大きさをどうするかはわからないけど、大体三人くらいまでなら乗れる大きさを提案しておいた。


 でも、行く時は一人で行くつもり。研究所の情報は、他の人に知られないようにした方がいいと思うんだ。


 なので誤魔化したんだけど、コーニーのあの顔は、納得していないな。


 出発までには、何とかしないとなー。



 結局、森の調査は私達がペイロンにいる間は終わらなかった。伯爵も熊もずーっと森に入りっぱなしで、顔すら見てないよ。


 熊は学院での授業、どうする気なのかね?


「学院が始まるまでには、王都に帰るつもりなんじゃない?」


 ヴァーチュダー城でのおやつの時間。シーラ様とコーニーとでまったり時間を堪能しております。コーニーの意見に、シーラ様も同意してる。


「間に合うのかねえ?」


 熊もニエール同様、興味のあるものを目の前にすると周囲が見えなくなるタイプだ。


 私達は明日、馬車で王都に戻る予定。割と日程的にはギリなんだけどなあ。


「移動陣を使うだろうから、ギリギリまで森にいると思うわよ」


 そうだった……シーラ様が言うように、熊は王都に帰るのに移動陣を使うんだった。


 私達が使えないのには、二つ理由がある。


 一つは移動陣の使い方が隠されている事。移動陣を敷いた場所からペイロンまでの片道移動しか出来ないとされている。


 この設定を崩す訳にいかないから、貴族であるアスプザット家や私は馬車移動なのだ。貴族の馬車って、目立つからね。


 もう一つは、単純に移動ついでにあちこちの領主に顔つなぎを兼ねて挨拶していく必要があるから。


 貴族と言っても、全員が全員王都にいる訳ではなく、領地から出ない家もそれなりにある。


 私が学院に入学する為にペイロンから王都に戻った時にも、伯爵と一緒にあちこちの家に挨拶回りしたもんなあ。


 あの時は入学前の未成年だったから、子供とみなされて面倒な晩餐会とか昼食会には出ずに済んだけど。


 今回は、逃げようがない……


 まあ、そんな訳で私は馬車移動一択という訳だ。




 ペイロンから王都まで、馬車でも飛ばせば二日か三日くらいで到着するんだけど、あっちに寄って挨拶、こっちに寄って挨拶と寄り道が多い為、一週間近くかかってる。


 時間がかかったせいか、大変疲れました……いや、これ、社交疲れもあるのか。


 王都でお披露目はするんだけど、今回挨拶回りした家は基本王都には来ない家ばかりだからね。しっかり襲爵の挨拶をしてきましたとも。


 デュバル領と接していなくても、王都までの街道沿いにある領地とはそれなり付き合っておかないと駄目だってさ。


 まあ、この先街道を作り替えたり、鉄道を走らせたりと考えると、友好的な方が都合がいいよねって話。


 あー、機関車の方もしばらくストップかー。とりあえず、中央の研究所に行く方が先だ。


 ニエール、頼んだよー。

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