第83話 あれええ!?
重傷者の数、本当に多かった。死者が出なかったのが、凄いと思うくらいに。
負傷者の多くは、広場の簡易治療所で手当を受けていたけれど、重傷者はまとめてヴァーチュダー城の表で面倒を見ていた。
で、今は分家の人達の治療に来てる。
「何だあ? 俺らは最後でいいんだぞ?」
「もうおっちゃん達で最後だよ」
「おお、そうか」
嘘だけど。最後は黒騎士だよ。元気そうなじいちゃんやおっちゃんも、腕や足をなくしている。毒は受けていないみたいだね。
今回、研究所の職員にも重傷者が出ていて、そっちを最優先で治療した。あの時、広場で結界を張ったり槍を持ってきたりしてきた人達だ。
脳筋達のように鍛えていればそれなり延命も出来るけど、普段内にこもりがちな研究員はそうじゃないから。
これを機に、体操くらいは導入するべきかねえ? 後で伯爵や熊に相談してみようっと。
朝からずーっと治療治療で、昼食の休みを挟んだくらい。現在時刻はおやつの時間。
ここまでに、数十人の欠損患者を治したよ。凄くない? 前なら、二日か三日はかかっていた人数なのに。
そして、誰も私の色変わりについて何か言ってくる人はいなかった。見れば元気ってのはわかるしね。ピンシャンしてるなら、髪や瞳の色が多少変わっても、どうという事はないらしい。
ここが脳筋の里で、良かった。
さて、最後に残ったのは黒騎士の治療のみ。重傷者が収容されているエリアを出ると、ちょうどシービスが通りがかった。
「あ、シービス。黒騎士って、今部屋だよね?」
「ええ、ユーイン様でしたら、今朝の客間でお休みになっておりますよ。先程、包帯やシーツを取り替えてきました」
「わかった。ありがと」
治療の途中で耳にしたんだけど、黒騎士のあの怪我、近場にいた研究所職員をかばって負ったものなんだって。
かばわれた方も結構な重症具合だったけど、手首から先だけで済んだのは、黒騎士のおかげだって泣いてた。
なんかね、直撃コースだったらしく、黒騎士がかばわなかったら、多分頭から粘液を被っただろうって状態だったそうな。だからあんだけ泣いてたのか。
騎士……それも、侯爵家嫡男なんて雲の上の存在にかばわれて、自分の命は助かったけど相手に重症負わせたなんて知ったら、庶民は腰抜かすどころじゃないからね。
まあ、黒騎士も黒騎士父も、そんな理由で相手を処罰なんてしないだろうけど。黒騎士に至っては、処罰するくらいなら最初からかばわないよなー。
相手が誰でも、身を挺して守る。そういうのは、好き。
いやー、学院でろくでもない貴族を多く見たせいか、何かすがすがしささえ感じるよ。
客間を前にして、何か妙な緊張を感じるわー。いつも通り、いつも通り。
息を一つ吸って、扉を叩こうとした私の肩を、誰かが叩いた。
「うぎょわよええええ」
「何事!?」
振り返ったら、コーニー。
「お、驚かさないでよ!」
「驚いたのはこっちよ!」
う……ごめんなさい。
「どうしたの? 部屋の前で悩み込んで。……ここ、ユーイン様の部屋よね?」
「うん。他の人の治療が終わったから、最後に黒騎士のところに来た」
「聞いたわ。腕と、目を負傷されたそうね」
「うん、でも、大丈夫。ちゃんと治すから!」
意気込んだのはいいんだけど、やっぱり扉を前にすると、緊張する。あれか、今朝目覚めた時の姿を思い出すからか。
肌は包帯で覆われていたとはいえ、ほぼ上半身裸だったわよねー。そんな格好の異性と、丸四日一緒にいた訳かー。
何かあったとかではなく、見ちゃったって思いの方が強いのかも。
「レラ……もしかして、入りづらいの?」
ぐずぐずしていたら、コーニーにバレたー。
「一緒に入ろうか?」
「ありがとう! コーニー大好き!!」
「はいはい。フェゾガン様、アスプザットのコーネシアとデュバルのローレルです。入ってもよろしくて?」
『どうぞ』
一瞬、コーニーがこっちを見てにこっと笑った。うん、やってしまえば簡単なんだよね。なんでこんなに緊張してたんだか。
部屋の中は朝と何も変わっていない。黒騎士も、寝台に横たわったままだ。
「ああ、フェゾガン様はそのままで。レラが治療しますから、すぐ楽になりますよ」
「申し訳ない……助かります」
寝台の脇に立って、まずは全身スキャン。あ、黒騎士は毒にやられてる。これ、熱が出てたでしょうに。
あとは……ん? 足も少し痛めてるね。筋かな? 後はなくした腕と目、あと皮膚も少し火傷のような症状が出ていた。
それらを、いっぺんに治していく。ちょっときついかな? とも思ったけど、特に苦しんでいる様子はない。
おっちゃん達? あの人達は筋肉で全てを片付ける人達だから。
「よし、これで終わり!」
腕も目も、痛めた足も皮膚も綺麗に治った。いやー、魔力量増えて良かったわー。色は変わったけど。
「お疲れ様。フェゾガン様、目の包帯だけでも、お取りしましょうか?」
「いえ、自分で出来ます」
そう言うと、頭の後ろに手を回して、目を覆っていた包帯を取っていく。大丈夫ってわかってるのに、何かドキドキするね。
包帯が消えて、閉じていた目を開けた瞬間、コーニーと私の口から驚きの声が上がった。
「え!?」
いや待って。だって、どうして?
「どうか、したのですか?」
あまりにも私達が驚いているから、黒騎士も何かあったのかと不安そうだ。いや、特に何かあった……あった、な。
なんと、黒騎士まで色変わりを起こしていた。元は緑と青の中間のような、エメラルド色と言われるような色だったのに、今は私より少し濃い目の水色だ。
髪の色は、変わっていない。目の色だけ変化したんだ。
「コーニー」
「何? レラ」
「これ、多分私の影響だよね?」
「おそらくね」
「どうしよう?」
「そういうのは、本人が目の前にいるんだから、本人に聞きなさいよ」
そうなんだけど、そうなんですけど!
これ、黒騎士父に怒られたりしないのかな……あ、その前に。
「魔力! 何か変化はないですか?」
「え?」
「レラ、その聞き方じゃ、わかりづらいわよ」
「あ……えーと」
何て言えばいいの? 瞳の色が変わってるから、多分魔力が増えてると思うんですけど、とか?
あ、その前に、本人に瞳の色がどう変わったか、教えなきゃ。鏡鏡。
「これ、どうぞ」
客間の備品の一つ、手鏡。それを持ってきて差し出した。
「あ、ありがとうございます……」
何が何やらわからないといった様子の黒騎士は、おとなしく手鏡を受け取る。覗き込んだ黒騎士は、一瞬驚いた様子だけど、さして騒ぐ事はなかった。
「まさか、自分に色変わりが起こるとは、思ってもみませんでした。それで、魔力に変化が、と仰っていたんですね」
「ええと……はい」
「そういえば、ローレル嬢も、髪と瞳の色が以前と違いますね? 体調に変化はないのですか?」
些細な事だけれど、シーラ様達と同じ事を聞いてくる黒騎士に、ちょっと驚く。
本当に、化け物扱いしたのは実家関連の人達だけだったんだね。色変わりが起こりやすい家系だというユルヴィル家出身の実母ですら、私の容姿を受け入れなかったって聞いてるけど。
「私は大丈夫です。くろ……フェゾガン様は、大事ないですか?」
危うく黒騎士って言うところだった。隣のコーニーが、軽く肘打ちしてくる。
「特には……ああ、治療をしていただいたせいか、体が軽く感じます」
「そうですか。それは良かった」
多分、毒の影響で熱を出していたから、重怠く感じてたんだと思う。
これで、治療関連は終わりかな。最後の最後に大きなサプライズが来ちゃったけど、良しとしておこう。
魔の森周辺の復興はこれからだし、その辺りは分家の人達が中心になると思う。
伯爵やシーラ様達は、多分王都でのあれこれに忙しくなるんだろうな。
何せ、森を焼いたのが白騎士団の団長と団員だ。荒れない訳がない。
ふと、客間にあるカレンダーが目に入る。そっか、私の誕生日、もうじきなんだ。
さすがに今年は氾濫があったから、パーティーはないだろうな。ちょっと寂しい気もするけれど、楽だからいいや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます