第80話 第一陣
装置の設置でも思ったけど、森の様子がいつもと違う。何と言うか、気味が悪い。
ちなみに、ここにいるのを知っているのは、コーニーとロクス様だけ。あとは一緒に入ったおっちゃんじいちゃん達と、黒騎士。
伯爵にも、シーラ様にも何も言わず来てまーす。後で知られたら、説教倍増しだな……
私がやるべき事は、なるべく多くの魔物を狩って、収納に入れていく事。ここの魔物はゲームのように、倒したら消えるってやつじゃないから。
その分、魔物素材で潤ってるんだけどね。
今回は、研究所が大盤振る舞いをして、魔物討伐に参加する人には漏れなく収納バッグを貸し出してるそうな。しかも、容量最大のやつを。
持ち逃げとか、されんのかね? ちょっと心配。
「さて、ではやりましょうか」
「了解です」
ここまでの道すがら、黒騎士にはこれからやる事を説明しておいた。
「んじゃ、穴を掘って、偽装工作ー」
「穴は私が掘りましょう」
広範囲にわたって深い穴を掘り、その上に草地を偽装する。氾濫って、魔物がもの凄いスピードで走り抜けるっていうから、前を見ていない可能性が高い。
物語なんかでも魔物の大量湧きとかは、強い本能だけに支配されていて仲間が死んでも止まらない、って描写は多いしね。
それを見込んで、罠を張ってます。
あとは結界の術式を使って一方向に魔物を誘導、一網打尽にする作戦。
「穴はうんと深くしてください。幅も広く」
「わかりました」
黒騎士も魔法が使えるのは、大変ありがたい。しかも、結構なスピードで穴を掘ってるよ。深さは……今のところ二階の建物分くらい?
その十倍以上の深さでお願いします。
穴を掘ると当然土が出る。その土も、有効利用させてもらった。固めると、いい壁になるんだよね。しかも、魔の森の土は魔力によく馴染む。
なので、壁の表側に硬化魔法を、中心部には硬化魔法マシマシの部分を作っておいた。
高さも周囲の木々くらいにはしてあるので、これを飛び越えるのは至難の業だろう。ふっふっふ、激突していくがよい。
さすがにこの深さには結界発生装置を設置していないし、自分で張り続けるのも疲れるからね。なるべく、魔力は温存する方向で。
罠や壁が出来上がる頃、地響きが近づいてきた。てかこれ、もう地震じゃね? 立ってるのも大変だよ。
ちょっと気を抜いたら、倒れかかった。
「ローレル嬢!」
「あ、ありがとうございます」
すんでの所で、黒騎士が抱えてくれた。起き上がった私の目に映ったのは、こちらに突進してくる大量の魔物達。
今更だけど、空を飛ぶタイプの魔物が含まれていなくて、本当良かった。
魔物の先頭集団は綺麗に落とし穴に落ちていく。後続も、何も考えずに落ちていくのを見て、ちょっと遠い目になりかけた。
さすがに後方の方は異変に気付いたらしく、仲間の上を跳んで向かってくるのが出てくる。氾濫でも、知恵を使うやつらか。深層の魔物だな。
深度七より深い場所には、人間並の知恵を持つ魔物が出るって聞いた。やつらは集団でこちらを引っかき回し、欺し、陥れる。
罠もよく使うので、深度七まで進むと罠解除の講習が必須になったよ。
そうして跳んできた連中は、容赦なく攻撃して落としていく。さすが深度七より奥にいる魔物、魔法が通りにくい。
だが、そんな私には秘策がある。ペイロンヒヒを狩った時の鋼鉄の鏃だ。これを魔力で射出すると、面白い程魔物が落ちる。
ついでに魔力消費も抑えられる。一石二鳥だ。
黒騎士は、壁の隙間で剣を使い戦っている。落とし穴で大分数を減らしているからこそ、出来る事だね。
さて、戦闘開始から体感で一時間くらい。とうとう魔物が来なくなった。
「氾濫は、終わりですか?」
「……いいえ、違う。このルートが使えないと判断して、別のところへ向かってる」
その証拠に、あちこちから魔物の悲鳴が響いてくる。割と近くで戦ってたんだね。
一旦穴に落ちた魔物や周囲に転がっている魔物を収納バッグに入れて、場所を移る事にした。
その際、落とし穴の復活と、壁の修復もしておいた。魔物は、何故か森の木々を押し倒したりはしない。
何頭かは木々を伝って森の入り口を目指していったけど、大型の魔物でも木をなぎ倒そうとはしないんだ。
森が防衛システムだっていうのは、本当なのかも。
やる事やって、余所へと移動してまた魔物を倒す。数が多くて、移動三回目くらいにはもうへとへとだ。魔力的にというより、体力的に。
負傷者も何人か出ていて、彼等を後方……森の広場まで下がらせたり、移動した先でも穴掘って壁作ってってやってたからかも。
膝を手を突いてゼーハーやってたら、黒騎士から提案が。
「ローレル嬢、いちど広場に戻りましょう。あなたには休息が必要です」
「でも……」
目の前には、まだ次から次へと襲ってくる魔物の集団がある。こんな中で、後ろに引き下がるなんて出来ない。
ぐずっていたら、アロメートのおっちゃんにぽかりと頭を叩かれた。
「おとなしく戻って休め! 体調管理も重要だぞ!」
「うう」
言い返せない。
「幸い、今は波が引いてる。これからまた押し寄せてくるらしいから、今のうちに休んでおけ」
「……おっちゃん達は?」
「俺らはおめえ、鍛え方が違うからよ」
そこで力こぶ見せびらかさなくていいから。背筋もいらないから。わかったよ、戻って休むよ。
よろよろしながら歩いたら、あっという間に体が持ち上げられた。
「うえええ!?」
お姫様抱っこ! しかも黒騎士に! 減った体力でも、暴れようというものです! 小っ恥ずかしい。
「暴れないでください。このまま運びますから」
「いや、でも」
「疲れているあなたを、歩かせる訳にはいきません。ここからだと、広場まで大分ありますよ?」
そういやここ、深度で言えば六よりの五だ。今の私の体力だと、移動用の魔法もちょっと使えそうにない。
スクーターに使ってる、ちょっと浮かせて推進力を付けて移動するやつ。あのスクーターが実用化しなかったのは、術式でどうにかなるからって面も大きかったっけ。
あれ? でも、あの術式、黒騎士に教えたっけ? 知らないとしたら、歩くか走るしかないんだけど。
と思っていたら、普通に使ってました。
「この術式、使えたんですね」
「去年森に入った時、教えてもらいました」
ヴィル様かな? 仲悪かったはずなのにね。本当あの人は面倒見がいいよ。さすが長男。
広場に戻ると、負傷者で一杯だった。
「重傷者が通りまーす! 道を空けてくださーい」
「これなら軽傷の範囲ですね」
「中傷ですが、重めです。気を付けて運んでください!」
治療班が大活躍だ。
「レラ!? どうしたんだ? 怪我でも――」
「いや、ただの疲労です」
広場で指示を飛ばしていたロクス様に見つかり、心配されたけど大事ない事を伝える。いや、本当に疲れただけなので。
体力もそうだし、気力も大分疲弊してるな、これ。森にいた時は自覚してなかったけど、広場まで連れ戻してもらった途端、どっと疲れが倍増しになった。
「大事ないならいいけど。ユーイン卿、このまま休憩所まで運んでもらえますか?」
「ああ」
黒騎士によるお姫様抱っこ。気付けば、周囲の視線がこっちに向いている。でも、これを拒否して自力で歩けるだけの体力はもうない。
ぐったりしたまま、広場奥にある休憩所まで運ばれました。気分は重い荷物だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます