第78話 研究所での出来事
「うおおおおおおおおお!」
妙な声を上げつつ、スワニール館のある領都からヴァーチュダー城への道を激走する。
移動陣を使えば一瞬なんだけど、なんとスワニール館からヴァーチュダー城へ行く移動陣、使用停止になってました……
シーラ様、手回し早すぎ!
という事で、自力でヴァーチュダー城へ行かなければならなくなったんだけど。
ふっふっふ。こんな事もあろうかと、移動手段を開発しておいたのだよ!
いや、本当は森の中での移動用に作ったんだけどね。ただ、木が多い森って、徒歩移動以外だと進みづらいっていうか。
せっかく作った乗り物が使えなかったのよねー。ちなみに、今爆走させているのは、スクーター型の乗り物。
車輪はなく、地上から二十センチくらい浮いている。そこに後方から推進力を与えて動かしているんだ。
摩擦がないせいか、凄いスピードアップが楽。そして振動が少ない。乗り心地はいいんだけど、出したスピードがヤバかった。
「こ、これ、魔法で障害物とか先に探知しないと、絶対事故る!」
準備不足の為、ヘルメットはなし。結界張ってるから、こけても怪我はしないけど。
「うおおおおおお! 待ってろよ魔の森いいいいいいい!」
絶対、氾濫は押し込めてやるからな!
さすが魔法の乗り物。馬以上のスピードを出したスクーター型乗り物でヴァーチュダー城近辺に辿り着いたのは、スワニール館を出てから一時間弱。
直線距離だとそうでもないけど、道なりに進むと確か馬を飛ばしてほぼ一日の距離だったはず。それを一時間内で到着とは。
「城に行ったら即バレするから、まずは研究所かな……」
あっちなら、事情を話せばきっとわかってくれる! ……はず。何せ魔の森の氾濫ともなれば、研究所も総力を挙げて対応するはずだから。
そこに、魔力量が豊富な私がいるのは、喜ばれると思われる。それに、研究所の連中って、貴族の世界のあれこれについては関係ねえって立場だし。
貴族の家出身の人も、多いんだけどね。
スクーターの速度を落として、そーっと研究所の裏手に回る。表の方は、何やら騒がしいよ。
通りかかった研究員を捕まえて、話を聞いてみよう。
「ねえねえ、表の騒ぎって何?」
「ああ、森に仕掛けられた魔道具の件で、皆怒ってるんだ。ただ、一部が解析させろって騒いでて……」
ニエールだな。捕まえた研究員にはお礼を言って、こっそり表の方に回ってみる。
「だから! 誰が仕掛けたかを知る為にも、解析はするべきなんですよ!!」
「それは君が構造を知りたいだけだろう! そんな事に力を使うよりは、今は森の対処に当たるべきだ!!」
「そんな事してたら、道具に残っている残存魔力が薄くなるじゃないの! 個人特定出来なくなるわよ!!」
「何だと!?」
あ、やっぱりニエールだった。どうやら、森を襲撃したのは魔道具で、回収したそれから使用者もしくは制作者を割り出したいらしい。
魔道具って、制作者と使用者の魔力が残るからね。ただ、それも時間経過と共に薄れていくから、解析は時間との闘いになる。ニエールの言は正しい。
それに対して、解析は後回しで目の前の対処をすべきってのも、間違っていない。何せ森の氾濫はもう目の前で、なるべく早く対処しないといけないから。
という訳で、その両方を成立させられるアイデアを出そうじゃないの。
「ちょっと待ったああああ!」
「え? レラ?」
「君は!」
「どっちの言い分も正しいから、ここは両立させようよ」
「はあ?」
ニエールも言い合いしていた相手も、何言ってんだこいつって顔でこっちを見てる。
いや、あんたら、そんな呆けてる時間、ないよ?
「大丈夫。手はあるから。ニエール、前に頼んだもの、確か出来てるんだよね?」
「以前……あ! 幕型結界発生装置の事!? 数は揃ってないけど、試作品が出来てるわ」
「よっし! あと、盾型は軽量化出来た?」
「そっちはもっと数が少ないし、あんまり軽く出来なかったの……」
「まーいーや、どうせ貸す相手は脳筋達だし、全部持ってきて」
「わかった!」
ニエールが背後にいる仲間に、早口で今言ったアイテム達を持ってくるよう指示を飛ばす。
「で、森の方は私も参加するから、これから届くアイテムで大分負担は軽減されるはず。あとは、治療得意な人手え挙げて!」
皆素直に「はーい」って言って手を挙げてくれる。よしよし。
「その人達は、城の方で指示に従い治療班を結成、班長決めて臨機応変に動いてね。あとあんた」
「え? ぼ、僕かい?」
「あんたは何が得意なの?」
「その……結界生成が……」
「んじゃ、同じように結界作るの得意な人!」
これも何人か返事と共に手を挙げた人がいる。そこそこの人数だな。
「んじゃあ、これから来る道具を使って――」
「発生装置、お待ちー!」
言ってる側から来たよ。見た目は四角いブロックから二メートルくらいの細長い棒が出てるだけの代物だけど、これはその場に置いて結界を作れる道具なのだ。
ただ、棒の周囲二メートル程度しか作れないので、そこを考えて使わないとならない。
「発生装置と結界得意な人の数がちょっと合わないねえ」
合ってたら、一人一つずつ担当してもらおうと思ったのに。
「レラ、得意じゃない連中でも、二人三人合わさればなんとかなるはずよ!」
「お? 本当に? じゃあそれでいこう」
この場で簡単に担当を割り振っていると、城の方から何か聞こえてくる。あ、熊だ。
「レラ! てめえ! シーラ様からおとなしくしてろって言われたろうが!」
「言われたよー。でも、こんな大変な時に、遠くで震えてろって言う方が無理ー」
「無理じゃねえよ!」
「じゃあ、無駄に死人をたくさん出してもいいっての!? 研究所だって、研究員だって犠牲になるかもしれないのに!?」
「……それをどうにかすんのは、俺らの仕事だ」
「私だってもう少しで成人だよ! しかも、成人前に家を継いじゃったよ! 確か、貴族の家の当主って、成人年齢前でも一人前って見られるんだよね!? だったら、私は子供じゃなくて一人前の貴族家当主だ! 隣の領で騒動が起きてるってのに、黙って見てられっか!!」
この時期に私をデュバルの当主にしたのは、ペイロンとアスプザット両家の意思だ。だったら、この結果も受け入れてもらいましょうか。
……シーラ様や伯爵が、私の事を心配してあれこれしてくれているのはわかってる。
でも、こんな時に蚊帳の外に置かれるのは、嫌なんだ。後で絶対、悔やむから。
熊とのにらみ合いは、私が勝った。
「……後でケンドやシーラ様に怒られるの、覚悟しろよ?」
「わかってる」
「俺は救護班をまとめるので精一杯だ。……やれるな?」
「任せて!」
さっき集めた治療が得意な人達を熊に預けて、ちょっとしたアドバイスもしておく。あれだ、トリアージってやつ。
手当の緊急度に従って、優先順位をつけるあれ。熊には以前、考え方を話した事があったから、すぐに理解してくれた。
本当、能力は高いんだよなあ。熊だけど。
私はニエールに用意してもらった二種類の結界発生装置を持ち、森の入り口の広場へ。もちろん、結界担当の研究員も一緒。
ニエール達少数の研究員は、残って研究所の維持と例の襲撃用魔道具の解析に当たる。
絶対に、守るんだ。
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