第76話 先送りって、大事よね
初代デュバル伯爵が残した手紙は、呪いの手紙でした。いや、マジでそうとしか思えない。
どうして私が名指し? と思ったけど、例の時空の歪みに飲み込まれた時に、私の事も見えたんだろうなあ。
って事は何か? この手紙、私が見つけるのが最初からわかってたって事?
そうなんだろうなあ。
「なんてこったい」
「レラ、いきなり手紙を放り出して、どうしたの?」
「そんなに怖い内容だったのかい?」
シーラ様とサンド様が心配そうにこちらを見ている。ええ、ある意味最恐の手紙でしたよ……
とりあえず、祭壇からこっちの流れを整理して話しておいた。
「では、あの祭壇は隷属魔法の受け渡し用のものだと?」
「ええ。それと同時に、初代が残したあれこれを映像……というか、自分が見た光景のような形で受け継がせる為のものでした」
もっとも、あのイメージが発動したのって、私だけな気がするけれど。その辺りは、受け継ぐ側の魔力量次第、とでも言っておこう。
私より多い魔力量の当主なんて、これまでにいたかどうかも怪しいからね。
「その時に、この文字の事も頭に入ってきたんです」
放り出した手紙を拾って、シーラ様達に渡す。読めなければ、ただの紙だから。
「これは……文字、なの?」
「見た事のないものだ」
ですよねー。二人が日本語を知っていたら、それこそびっくりだわ。
「実はですね、この手紙に、何故隷属魔法を解除してはいけないのかが書かれていまして」
手紙の内容をかいつまんで説明したら、段々二人の顔が険しくなっていく……怖い。
「という訳でして、彼等の暴走を止めるには、多分魔の森の中央へ行かないとならないかと」
「氾濫が起きようというこの時に?」
「いやいやいや、それが終わってからです! はい」
ペイロンでは、今まさに魔の森が氾濫しそうになっている。てか、森が防衛システムだっていうのなら、この氾濫って何なんだ?
それも、中央に行けばわかるのかなあ。
私の話を聞いて、何やら考え込んでいたシーラ様が、顔を上げた。
「レラ、他に方法はないのね?」
「手紙を読む限りは」
「研究所が解析しても、無理だと思う?」
「……わかりません」
ものは遺伝子だ。研究所は魔法や魔力に関する研究は国内でもトップクラスだけど、遺伝子の考えは知らないはず。
そこから説明が必要だし、どうして知ってるんだって事にもなる。あ、初代から頭に刻み込まれたとでも言おうか。
「研究所にも、協力を仰ぎます。でも、やはり始まりの場所には行っておきたいんです」
何があるかわからない。でも、今とは違う術式とか研究結果とかもあるかも。
それに。
「もしかしたら、魔の森の氾濫も、抑えられるようになるかもしれません」
「何ですって?」
「それは、本当かい?」
「えーと、多分?」
咄嗟に考えついた事なので、なんとも言えないんだけど。
森が研究所の防衛システムだっていうのなら、氾濫には何かしらの理由があるはず。それこそ、定期的に氾濫させないと、抱えている魔力が暴発するとかね。
だったら、それを解消すれば、森の氾濫を完全に防げるようになるかもしれない。ならない可能性も高いけど。
でも、森の中央にある研究所を調べれば、今の代では無理でも次の世代、またその次の世代には出来るかもしれない。だからこそ、やっぱり中央には行くべきなんだ。
私の説に、二人は無言のまま。ああ、この静かな空間は胃に来る。
「……とりあえず、氾濫が終わったら考えましょう」
良かったあああああああああ。ここで完全に拒絶されたら先はないけど、何とか先送り程度にはなったから。
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