第74話 出たよ
目の前に浮かんでは消える、いくつものイメージ。
二人の研究者。あれは、魔法実験? 粗末な格好の男女を連れてきて、何かを投与している。
彼等は魔法を使うけれど、一人が暴走させてしまった。悩む研究者達。
場面がいきなり変わって、岩だらけの場所から緑豊かな大地へ。
奴隷達を連れて移動中、身なりのいい人を狼の群れから助ける。
その結果、領地をもらい、この地へ……
って、これってデュバルの祖先?
イメージの次は、言葉がいくつも浮かんでいく。隷属、暴走、抑える、顕性、森の中央。
これって……そういう事なの?
「……ラ、レラ!」
「え?」
気がつけば、あの山の頂だ。私は、兄ちゃん達に抱えられていた。こっちを心配そうに覗き込むシーラ様。
「大丈夫なの? いきなり倒れるから心配したわ」
「私……」
どうやら、ほんの少しの間気を失っていたらしい。じゃあ、あれは夢?
そうだ! 最後のイメージ!
起き上がると、祭壇に手をやる。確か、ここに魔力を入れて……
「出た! って、え?」
「レラ、一体どうしたんだ?」
「え……これは、どういう事なの?」
出てきた文字には、どうやらデュバルの家訓のようなものが書かれている。その中に、こんな一文があった。
領民に使っている隷属魔法は、決して解除してはならない。
……どういう事? 何故、領民に隷属魔法なんて使ってるの?
「ん? これ……」
家訓として浮かび上がった文字の一番下、小さく書き足されていた一行。
そこには、日本語で「初代の肖像画の裏」と書かれていた。
山頂から移動陣でデュバルの領主館へ戻った。何だか、あのイメージを頭の中に直接送り込まれた影響か、足下がフラフラする。
「本当に大丈夫なの? 少しどこかで休んでいく?」
「大丈夫です、シーラ様。あ、でもちょっと探したいものが」
「探したいもの?」
あの最後の一行は日本語だった。なら、あれを読めるのは私だけ。
というか、あれを書いた人も日本人だよねえええええ!? どういう事!?
いやまあ、私という転生者がいるんだし、あからさまに転生者が残したよね? しかも日本人だよね!? ってものもあったし。ドラゴンのアレな曲とか。
「えーと、うちの初代の肖像画です」
「肖像画……」
「見たいの?」
見たいというか、その裏を確かめたいというか。
シーラ様達には怪訝そうな顔をされたけれど、先祖の事を知りたがるのは普通の事と捉えられたらしい。ザインじいちゃんが肖像画がかけられている回廊へ案内してくれた。
「手入れが行き届いておりませんので、こちらも埃だらけのようですが……」
「わー、本当だ」
鎧戸の閉まった回廊は薄暗いので、魔法で明かりを出して進む。手前から新しいみたい。
でも、一番新しいので私の曾祖父に当たる人の肖像画ってのは、ダメなんじゃね? 王都の屋敷には飾ってある? そうなんだ。
「初代様は一番奥でございますね」
「結構いるんだね」
「デュバル家は建国王の頃からの忠臣と聞いているよ」
わー。今となっちゃ、嘘のような話ですねー。どう考えてもあの実父が忠臣とか、信じられんわ。
ちなみに、実父は移動陣が置かれた部屋に兄ちゃん達二人と放置中。このままスワニール館に連れ帰るそうな。
私が襲爵した事をお披露目したら、アスプザットの領地かデュバルの領地か、もしくはペイロンで建設中の療養所にでも入れようかという話になってるんだって。
療養所って……初耳なんですけど。
「あら、ニエールがレラから提案を受けたって言っていたけれど」
……言ったっけ? 覚えていないなあ。でも、療養所そのものがこっちの考え方からは外れるから、多分私が会話の端々でぽろっとこぼしたんだろう。ニエールって、そういうのを拾い上げるのが得意だから。
基本、自宅療養なんだよね。病院もなくて、治療院が細々とある程度。開業医は金持ちの為の存在だし。
そういう意味では、魔法治療を行える研究所が療養所を作るのは、理にかなっているのかも。
まあ、それは置いておいて。今は初代の肖像画ですよ。オーゼリアの建国当時からある家って事は、少なくとも五百年以上の歴史はあるのか。だからそれなりに当主の数があるんだね。
「あ、あれかな?」
やっと回廊の一番奥に到着。周囲の肖像画と比べると、ちょっと小さくて画風もかなり古い。
痩せてひょろっとした男性が、立った姿で描かれている。これかー。
「よっと」
「ちょっと、レラ?」
「何をしてるんだい」
いきなり肖像画を取り外せば、そう聞かれるのも当然か。でも、用があるのはこの裏……あった!
「……手紙?」
「まあ、そんなところにそんなものが」
「レラ、いつどこで、肖像画の裏に手紙があると知ったんだ?」
「えーと……さっきの山頂で?」
嘘は言っていない。あの浮かび上がった文字の最終行に小さく書かれた一文で知った訳だから。
でも、シーラ様もサンド様も、私がふらついた時に知ったと思ったらしい。
「やはりあの山頂で祭壇に触れた時、何かあったのね?」
「何があったんだ? それにあの浮かび上がった文字……隷属魔法を解除するななどと……」
「そ、それは落ち着いたら、お伝えします」
まずはこの手紙の内容、確認させてー。
とりあえず、スワニール館まで帰ってきました。多分、あれで爵位継承の儀式は終了だと思うから。
てか、あんな妙なもん仕掛けるとか。まあ、ご先祖様も転生者っぽいから、ああいう方法を使った……のかな?
実父はまたあの部屋に戻し、サンド様とシーラ様、それに私の三人でちょっとティータイム。
兄ちゃん達は、ヴァーチュダー城へ戻ったらしい。で、見つけた手紙はどうもここで読めという事らしいよ。
何が書かれているかわからないから、人前で読みたくないんだけどなあ。でも、シーラ様もサンド様も、興味津々だ。
それにしても、あの祭壇の家訓らしきものといい、我が領に隷属魔法なんてものが使われているなんて、まったく知りませんでしたよ。
研究所で聞いたのと、歴史の勉強で知った程度だけど、今より昔は割と普通に奴隷が使われていたんだとか。
そのうち魔法技術が進んでくると、奴隷の労働力を当てにしなくてもよくなっていったから、廃れたらしい。人権的考え方からじゃないんだ……
ただ、そうは言っても他人を奴隷にして好きに使う、という欲にかられる人は一定数いるそうで、隷属魔法復活を唱えている人達もいるそうな。
主に、貴族派の家に。王家は隷属魔法禁止派で、当然ながら王家派閥の家も同じ意見。
なのに、国内で唯一隷属魔法が残っているのが、王家派閥のデュバル家とはこれ如何に。
「一応、新たな隷属魔法を使わないという事では、意見が一致しているんだよ」
「じゃあ、我が家のは古いものがそのまま残っている……と?」
「そうなる。なにせ古すぎて、誰も解読出来ないと言われた程だよ。しかもデュバルの隷属魔法は特殊でね。親から子へと継承するんだ」
それはつまり、奴隷の子として生まれたら、そのまま奴隷になるという事? 酷くね?
「えーと、我が家の家訓的なものって、王家もご存知なんでしょうか?」
「そうでしょうね。王家もバカじゃないわ。いくら他家の領地内の事とはいえ、隷属魔法が使われ続ける事の不利益くらい、わかってるもの」
あー、あの領は隷属魔法を使い続けているのに、どうしてうちじゃダメなんだとか、言い出す人はいそう。
にしても、解除しちゃダメーって祭壇に書かれているからって、バカ正直に解除しなかったご先祖達って……
まあ、解除しない方が自分達のメリットになるからかね? でもあの家訓には「領民を保護するように」とも書かれていたのに。
どう考えても、実父とかは保護に動いてないよね?
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