第68話 試験って、大変だよね……

 平和だ。実父が突撃してきた後、シーラ様から「もう大丈夫。迷惑をかけたわね」と連絡があった。


 いやいや、迷惑かけたのは私の実父ですから。シーラ様としては、大人同士で早くに解決しておけば良かったという事らしいよ。


 何でも、調査にちょっと時間がかかったって言っていたけど、何を調査してたんだろう?


 ダーニルも、あれ以来姿を見ない。取り巻きの子達はたまに見かけるけど、それぞれ別のグループに入ったようだ。


 ダーニル派閥、崩れた? いや、派閥って程の規模じゃなかったけど。


 それと、たまに第三王子がこっちを心配そうに見ている事がある。何か知ってるのかな?


 でも、突っ込んで聞くと大やけどしそうなのでやめておく。危険は回避すべきなのだ。


 私は、危機管理が出来る子である。




 学院祭が終わると、次に来るのが学年末試験。学期末と違って出題範囲が広いから、学生にとっては大変厄介な試験でもある。


 学年末なので、当然この試験を落とすと進級出来ない。つまり、留年。それが嫌なら、長期休暇を目一杯使って補習という地獄行き。


 貴族学院で留年とか、一生の恥だよね。大体周りにいる人達は、その後の社交界でも顔を見るメンバーな訳だし。


 あいつ、留年したんだぜ。と、それこそ死ぬまで、下手したら死んだ後までずーっと言われる訳だ。恐ろしや。


 まあ、だからこそ補習を受ける方を選択する人しかいないんだが。でも、補習は教師に不人気で、こっそり恨まれるそうな。怖ー。


 という訳で、勉強は頑張ってます。主に、教養学科。選択の方は、騎獣はゴン助のおかげで無試験でもOKが出た。


 なんかね、今年度から学院祭での成果も評価に加える方針になったんだってさ。


 おかげで、総合魔法も演奏に参加した生徒は全員進級OKになっている。残る選択授業は弓と魔道具と錬金術。あれ? 結構あるな。


 昼食時。例によって例のごとく、お友達が個別食事会に行ってしまった私とコーニーは一緒のテーブルについてる。


 ロクス様の姿がないのは、監督生の仕事があるからだって。昼休みまで仕事とは、お疲れ様です。


「とりあえず、弓は何とかなるはず。授業の中で大分的に当てられるようになったし」

「良かったじゃない。攻撃手段が増えて」

「うん……うん? いいのか?」

「いいって事にしておきなさいよ」


 まあ、魔の森で私が弓を使う事はないと思うけどねー。弓使うくらいなら、魔法で追尾させた鏃をそのままぶち込むよ。ペイロンヒヒを倒した時、似たような手を使ったし。


「それはそうとレラ」

「何?」

「学院祭以降、ユーイン様から何か誘われたりした?」

「ううん、特には」


 今の今まで忘れていたよ、存在を。どっちかっていうと、実父の厄介さに辟易していた時間の方が長かったような……


 でも、なんでここで黒騎士の名前?


「だって、もうじきレラの誕生日でしょう? 期限がくるじゃない」

「期限……?」

「もう忘れたの? ユーイン様が、レラを口説く期限よ」

「あ」


 そういや、そんなのもあったね。記憶の彼方に行ってたわ。それよりも。


「魔の森の氾濫、どうなったんだろう?」

「何も聞いていないわ」


 コーニーに情報が来ていないって事は、未成年組は関わらせないつもりかな?


 夏の休暇でペイロンに帰ったら、もう全部終わったとか言われたりして。でも、氾濫ってそんな簡単なもの?




 学年末試験、騎獣は学院祭でのゴン助の活躍があった為、試験なし。私も教師もにっこにこ。


 総合魔法も既に合格してるから試験なしでも良かったんだけど、熊の意向で私は受けさせられた。解せぬ。


 内容は、一人幻影魔法。幻影魔法って、集団魔法じゃなかったの? 五人以上だよね?


「本来はな。でも、レラなら出来るだろ?」

「出来るけどさ。何を出せばいいの?」

「適当に」

「適当かい」


 んー、じゃあ、ちょっと時期には早いけど、花火の幻影でも出してみましょうか。


 こっちでは、火薬の研究が進んでいないから、花火はないんだよね。魔法で再現出来るかも知れないけど、今はちょっと手が出せない。


 あ、ニエールに振ったら……彼女が過労死しかねないから、やめておこう。機関車製造のめどが立ってからだな。


 黒のスクリーンを作ってバックに置き、その前で花火を幻影として再現。お、結構綺麗に出来るなー。


「ほう。こりゃなんだ?」

「花火」

「……って、何だよ?」

「何だよと言われても、花火は花火だよ」


 それ以外に、説明のしようがないわい。火薬ないしさ。熊がブーブー文句言ってるけど、知らない。


「ついでだ。魔道具の方は何出す?」

「んー」


 期末ではオルゴールを出した。去年の収納魔法に比べるとショボい気がするけれど、魔力で動くオルゴールだから魔道具でいいのだ。


 その考えでいけば、魔力で動く時計も十分魔道具と言えるでしょう。


「仕掛けのついた時計で」

「ほう? で、どんな仕掛けをつけるんだ?」

「三時、六時、九時、十二時に人形が出て来て鐘を鳴らす」


 大型のものでよくある仕掛けだよね。ああいうの、好きなんだー。なので、卓上サイズで再現してみようと思う。


 役に立たなくてもいいんだよ。楽しければそれで。




 総合魔法と魔道具は終わったので、最後に残る錬金術の試験を受けないとね。


 錬金術は基本実技の試験。でも、ペーパーもあるよ。筆記試験の方は事前に終えていて高得点を取ってるから、本日の実技で合格すればクリア。


 課題は、下級傷薬。切り傷や擦り傷なんかを、傷跡一つ残さず治す薬、だそうな。意外と凄いものが出来るんだね。


 でもこの薬、さすが二年の学年末試験の課題と言わざるを得ない。去年の学年末や今年度の期末の薬に比べると、作り方が段違いに面倒。


 まず、一年の学年末に作った魔力減衰薬も二年の期末で作った解毒薬も、基本材料を混ぜるだけだったんだ。


 そして今回の下級傷薬。とうとう温度管理が入ってきました。


 適宜処理した薬草類を、それぞれ一定の温度内で煮て薬効成分を抽出、決められた順番に混ぜ合わせて最後に術式を使って薬効固定。


 この温度管理で躓く人多数。うん、そうだろうね。温度計とにらめっこになるもんな。


「先生ー。温度管理、魔法を使っていいですか?」

「構いませんよ。結果が出せれば、過程は問いません」


 意外と大胆な事言う先生だな。周囲の生徒達もぎょっとしてるよ。でも、魔法の使用許可が出たから、ガンガン使う。


 周囲からの視線を感じるけど、気にしない。使っていいって言われたんだから、皆も使えばいいんだよ。


 温度管理の魔法、難しいけどね。


 おかげで下級傷薬は無事仕上がりましたー。これはさすがに出来上がらなかった生徒が多数出たみたい。先生が呆れてるよ。


「錬金術では、温度管理は重要です。今、この段階できちんと身につけておくべき技術ですよ」


 確かにね。でも、ここって貴族学院だから、生徒は全て貴族。錬金術を実際に生業にする人は少ないと思う。


 選択した学生も、興味本位や他に選択したい授業がなかったから来たってのが殆どじゃないかなー?


 私はやってみたかったから選んだけど。おかげで周囲とはやる気の差が大きいよ。


 それでも半数の生徒は成功したんだから、優秀優秀。ついでに温度管理の術式も、覚えない? 熊に聞けばきっと教えてくれるよ? スパルタだけど。




 学年末試験の結果。学年で総合五位。とりあえず、上位十位以内には入ったからいいや。


 教養学科は満点まではいかないけれど、ほぼそれに近い点数をたたき出し、弓でも何とか中位グループに引っかかった。


 総合魔法は合格点に加えて幻影魔法の加点が大きく、学年首位に。魔道具は二位。錬金術も首位。


 その結果、去年よりも順位が上がったというね……まー、上位十人に入れば、シーラ様に怒られる事はないでしょ。


 さーて、やっと夏の長期休暇だー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る