第65話 少し残念
職員専用の食堂は、なかなか広くて快適でした。
「空いているな」
「こちらは開放しないのね」
「来客に開放すると、あっという間に埋まって職員が飯食う場所がなくなるからな」
そんな大人達の会話と共に入る食堂は、確かに見知った職員があちこちいる。
学院祭の間って、どの職員も見回りだなんだでかり出されて大変なんだって。お疲れ様です。だから静かに休める場所として、ここが確保されてるんだね。
無事昼食を取る事が出来て、こちらも助かったー。
その後もあれこれ見て周り、シーラ様達は途中で切り上げて帰るという。
「もう二人の出し物も見たし、他はいいわ」
親の本音としては、そんなもんだよね。ちなみに、ロクス様が何も出ないのは、監督生だからだって。そういや、去年も何も出ていなかったっけ。
ヴィル様と黒騎士も、一緒に帰るそうな。そういや、今日はやけにおとなしいね、黒騎士。
四人の乗った馬車を、コーニーと二人で正門まで見送りに行く。シーラ様、サンド様の順に馬車に乗り込み、外にいるのはヴィル様と黒騎士。
「レラ、何かあったらすぐに教えろ」
「ヴィル様?」
何かって……何が? 首を傾げていると、黒騎士まで変な事を言い出す。
「特に実家関連で呼びだしなどを受けたら、全て断ってください」
「実家? ペイロンでもアスプザットでもなく?」
「デュバル家からのものです。呼び出しを受けたりなさらず、必ずアスプザットか私に連絡を」
黒騎士の隣で、ヴィル様まで頷いてる。いつの間に、そんな仲良しになったの二人とも。
コーニーと顔を見合わせると、彼女も訳がわからないという様子だ。
「デュバルで、何かあったんですか?」
「何かあったというか……」
「これからあるかもしれないというか……」
煮え切らないなー。どういう事よ? ちょっとイラッとしていたら、馬車の中からシーラ様の声がかかった。
「デュバル家から何か言ってきても、無視しなさい。無理矢理連れて行こうとするなら、ある程度の実力行使は構いません。学院の中でも、王都のどこかでも、後始末はこちらでします」
待って、シーラ様。本当に、何が起こるっていうんですか? 実力行使って、要は魔法を使って攻撃OKって事ですよねえ?
「だから、連絡だけはちゃんとなさい」
「……わかりました」
そう答える他ない。実家関係って、もしやダーニルが原因?
学院祭も無事終了し、日常が帰ってきた。いつもの毎日なのに、何か物足りなくなるのは、学院祭が楽しかったからかな?
何だかんだ言いながら、準備も楽しかったしねー。
でもまあ、こんな平凡な日常こそ、愛すべき日々だと思うんだ。なので、思わず教養学科の休み時間に、思わず呟いてしまった。
「平和だ」
「ローレルさんたら、いきなりどうしたの?」
「んー? 何となく、平和な日常を実感しただけー」
ランミーアさんは、ルチルスさんと顔を見合わせてる。そんなに変な事、言ったかな?
……言ったな。普通、この年で平和だなあとか、言わないものだ。別に前世でも今世でも、戦争は経験していないのだけど。
まあ、魔の森で魔物相手に狩りは経験してますが。
「えーと、ほら、私、ペイロンで育ったから」
「あ……そ、そうよね。あそこ、魔物とか出て、大変だものね」
「そういえば、最近もう一人のデュバル家の娘さん、見ないわね」
「ちょ! ミア!」
ん? もう一人の娘って、ダーニルの事? ランミーアさんは失言だったとばかりに、ルチルスさんに責められている。
「どういう事?」
「え……あの、学院祭からこっち、隣のデュバル家の方、学院をお休みしてるらしいの」
何故か、ルチルスさんが申し訳なさそうに言う。別に責めてませんよ? 怯えないでね?
にしても、ダーニルが学院をお休みねえ。ちらっと教室内を見回すと、そういや褐色王子も見かけない。まだ休んでるのかな?
ダーニル=実家という図式が頭にあるから、つい学院祭でのシーラ様の言葉を思い出してしまうよ。
んじゃあ、これから実家関係で、何か来るのかな?
そんな事を考えた事すら忘れて、その日一日のカリキュラムを終えてから寮に戻ると、入り口で止められた。
「ローレル・デュバルさん。実家からお手紙が届いていますよ」
あれ? もしかして、フラグ立てた?
屋根裏部屋に入って、手紙を見る。確かに、封蝋にある紋は実家のだ。
一応、魔法で簡単にスキャンして、異物が入っていないか確認する。紙だけだね。しかも、何も施されていない。
封を切って中身見ると……何だこれ?
『お前の結婚が決まった』
その一文だけ。ひっくり返しても、裏を見ても何もなし。しばしテーブルに置いて眺めた後、通信機を取り出した。
繋げた先はアスプザット家。この時間、運が良ければシーラ様かヴィル様がいるはず。
『レラ? 何かあったの?』
結果、シーラ様に繋がりましたー。私からとは使用人に告げられてるだろうけど、開口一番それとは。
「えーと、本日実家から手紙が寮に届いていまして、中身を見たら私の結婚が決まったってあるんです」
『そう……』
シーラ様がすんごく怒ってるのが伝わってくる。これ、通信機越しで良かった。静かに怒るシーラ様は、凄く、怖い。
『手紙は取っておいて。あと、何か言ってきても無視していいわ』
「了解でーす」
『まあ、これ以上何もさせないけれど』
シーラ様、最後の一言、マジ怖いっす。
手紙を受け取った三日後、寮に帰るとまたしても手紙……ではなく、実家から伝言が届いたという。
「こちらです」
手渡された一枚紙には、日時と場所が書かれていた。
「その日時にその場所へ行くように、との事でしたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
部屋に戻って、早速アスプザット家に連絡連絡ー。今回はヴィル様も在宅だった模様。シーラ様と一緒に通信機で聞いていたみたい。
「という伝言が、寮に届いたそうです」
『そう……』
通信機から、バキッという音が聞こえる。怒りのあまり、手にした扇をへし折ったな、これ。
『あー、レラ? もちろんだが、伝言に従う必要はないからな?』
「わかってまーす」
行きませんよ、何があるかもわからないのに。最悪、のこのこ行ったら既成事実作られましたーなんて事になりかねないしさ。
その前に、相手を家ごとぶっ飛ばしそうだけど。シーラ様にも、実力行使OKって言われたし!
『とりあえず、相手の家名もわかったから、対処はこっちでしておく。下手に動くなよ?』
「わかってますって」
『コーニーにも伝えておくからな?』
「信用されてない!?」
酷いやヴィル様。
『母上に実力行使の許可を受けた時、嬉しそうにしていたのはちゃんと見たぞ』
あれー? おかしいなあー?
まあ、大人側があれこれやってくれるというので、ここは我慢しておきましょう。
でも、ちょっとくらいは暴れたかったなー。
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