第64話 大成功!
ゴン助をおとなしくさせた方法を教えた後、コーニーとヴィル様から説教を受けた。解せぬ……
「まだ納得していないわね?」
「だって、相手は黒大熊だよ? 生半可な手段を使ったら、こっちがやられるじゃん」
魔物とのやり取りは、基本命がけだもん。コーニーだって知ってるはずなのに。
「そういう場合は、黒大熊を従える事を諦めなさい。どんどん淑女から遠のくわよ!?」
いっそそれでもいいような気がしますう。絶対に言えないけど。さっきの倍以上の説教が来ちゃうから。
あれこれ回った後、お昼前には総合魔法の出し物の時間。
「じゃ、用意もあるし、そろそろ行くね?」
「行ってらっしゃい」
「頑張ってね」
コーニーとシーラ様に見送られて、その場を離れる。サンド様? 顔見知りの保護者に捕まって話しかけられてるよ。
ヴィル様と黒騎士は、女子学生に囲まれて身動き取れないみたい。コーニー達に目線でヘルプを訴えたけど、シーラ様が「自分でどうにかなさい」と一言。シーラ様は長男にも厳しい方です。
総合魔法の出し物は、去年と同じで即席の円形闘技場……に似た試合会場だ。
去年は学院祭の一番最後の出し物だったんだよなあ。夕暮れ時に幻影魔法が映えて綺麗でした。
そして、今年は昼前最後の出し物。この時間帯決めたの、誰なんだろうね? ちょっと気になるわー。
「普通、昼前のこんな時間にやる演目なんて、誰も見向きもしねえよな」
「だね。昼食場所を探すのに気が向いてるから」
「誰だよ、俺らの演奏をこの時間帯にした奴」
周囲でも、そんな声が上がってる。総合魔法って、実は嫌われてるの? まあ、あの熊がやってる授業だもんなあ。
周囲の教師陣から、うさん臭がられても仕方ないか。
「皆! 演奏する時間帯など関係ない! 我々はこれまでの練習の成果を見せるだけだ!」
おー、六年生首席男子の言葉で、ぶつくさ文句言っていた連中が黙った。彼等にとっては、これが最後の学院祭だっけね。
控え室内では、あちらこちらで班に分かれて最終確認をしている。もう愚痴やら文句を言う生徒はいない。
何となく、全員で一つの作品を作り上げようという熱気が感じられた。いいねえ、こういうの。
『まもなく、総合魔法科による演奏が始まります。会場は、模擬試合会場です』
お、アナウンスが入ったね。とはいえ、確かに時間が時間で皆昼食の事で頭がいっぱいだろうから、見に来るのは身内だけかなー。
でもいいや。
「準備はいいか!?」
「おおー!」
首席の人の声に、室内から全員が答える。ノリがいいなあ。
控え室にて、それぞれの班に分かれ、順番に廊下に出て行く。もうここから出し物は始まっている、そう意識して。
整列したまま会場に入り、それぞれ指定の位置に立つ。ここでは二回練習しているので、その時の班の場所を記録、魔法で表記してもらったんだ。いわゆるバミリってやつ。
上から見てもわからないけど、この距離で見ると地面とほんの少し違う色になってるんだよね。そこに書かれている番号が、班の番号に対応している訳だ。
私達は二の一番。二学年の一班って意味。
「これ、わかりやすくていいね」
「ありがとうございます」
今日ばかりは第三王子に褒められても嬉しい。といっても、例によって例のごとく、提案は私で三日で作り上げたのは熊だけど。
まあ、研究所の力も借りたそうだから、一人で仕上げた訳じゃないんだってさ。
でも、設置は熊一人。労働お疲れ様っす。
全員が位置につくと、指揮者が一人前に出る。円形だから四方八方に客がいる訳なんだけど……客席、結構埋まってるね。
で、その中でも貴賓席というのがありまして。貴族学院の貴賓席といえば、当然王族の為の席だ。
そこに向かって一礼。私達も一拍おいて一礼。指揮者は貴賓席に背中を向けるようにこちらに向いた。
さあ、演奏の始まりだ。
最初はドラゴンのあれ。特徴的な出だしの部分を一年生の班が奏でる。それに続いてメインのメロディーを五年生と四年生が、ハーモニーを三年生と二年生が、六年生はリズムを刻み、それらが会場に流れていく。
本来だったらチープになりそうな電子音に似た音なんだけど、何せ数が多いからね。それなりの厚みになっている。これはこれで面白いなあ。
編曲がうまいからか、最初の曲から二曲目は途切れる事なくスムーズに移った。
三曲目、四曲目と演奏し、再びドラゴンの曲へ。そしてあの最後を奏で終わった後、少し余韻が残ったところで、とうとうオルゴールの曲へ。
これも、ゲームの曲なんだよなあ。勝手にパクってすみません……でも、ちょっともの悲しい感じのメロディーは、この演奏の締めくくりにはちょうどいいのかもしれない。
最後の一音を奏で終わり、数拍待ってから指揮者が貴賓席を向いて礼を執った。それに合わせ、私達が礼をした途端、会場中からの割れんばかりの拍手が。
あ、端では肩を抱き合って泣く男子生徒の姿が。女子は割と笑顔でお互いをたたえ合ってるよ。
最後は観客席に向かって礼をし、整列して退場した。この整列しての入退場方法も、私がアイデアを出した。
こっちって、こういう整列して行進とか、学校でもどこでもあまりしないんだよね。かろうじて騎士団がパレードの時とかにするだけだってさ。
で、揃った行動は端から見て綺麗だから、やってみてはどうかって言ってみた。
最初は懐疑的だった生徒達も、十人程選んでちょっと練習して歩かせたら、上級生達がまず食いついたんだ。
で、そこから彼等が中心になってどう動けば観客に綺麗に見えるか、魔法で盤上遊戯の駒を使って動かしながら相談しあったっけ。
退場にまで拍手が続いているから、成功したと思っていいでしょ。去年も一応並んで入場はしてるんだけど、人数少なかったから今回程綺麗には見えなかったんだよねー。
ともかく、一番の出し物が無事終わって良かった良かった。
「凄かったわ! 総合魔法の演奏!」
「あれは誰が言い出したものなの?」
待っていてくれたコーニー達と合流すると、コーニーとシーラ様に質問攻めにあいました。おおう、気圧されるうううう。
「二人とも、落ち着きなさい。どうせレラだろう? でも、あの入退場は美しかったねえ」
ありがとうございます、サンド様。そして色々とバレてるううう。
「去年の幻影魔法もレラの提案だったろう? ああいう繊細なものをジアンが考えつくとは思えないしな」
サンド様、厳しい一言。まあ、本当の事だから反論はしない。何せ熊だしな。
演奏は制服でやっていたので、今回お着替えはなし。そのまま会場を後にし、昼食を取る為食堂へ。
学院祭、実は屋台も多く出てる。ただし、やっているのは学生ではなく本職の人達。
いつもの数倍の人間が学院の敷地内にいる訳だから、当然食堂だけでは足りなくなる。
なので、普段は王都の下町なんかで屋台を出している人達を集めて、屋台を出させてるんだってさ。
一部の勘違い連中からは「敷地内に庶民を入れるなんて!」って反対もあったそうだけど、それなら王都そのものが半分以上庶民だが? と論破されたらしい。
なので、学院祭は普段触れられない庶民の味に触れる機会でもあるそうな。私とかアスプザットの人達は、ペイロンで慣れてるけどねー。
森から出てすぐ、広場奥にある食堂で食事する事もあるし。あの食堂、森に入る庶民向けだから、値段は安く味も庶民向け。
凝った料理は出ないけど、速い、安い、旨いの三拍子が揃ってる。そして量が多い。
なので、私やコーニーが注文する場合は、小盛りを頼むんだよね。もっとも、ほぼ顔パスなので言わなくても小盛りにしてくれるけど。
食堂は、普段はテーブルを出していないテラスにも席を作って対応していた。それでも満席だよ。繁盛していていい事だね。
「困ったわね」
「お? 侯爵様達じゃねえか」
「あ、熊」
「誰が熊か!」
満席の食堂でどうしたもんかと思っていたら、通りがかったのは熊。でも、シーラ様もサンド様も何も言わず微笑んでるだけだよ? 二人にも、熊は熊だって認識されてるんじゃないかな?
「こんなところで何やって……ああ、食堂、一杯なのか」
「そうなの」
「んじゃあ、職員用の方に行くか? あっちなら、学生は入れねえから空いてるぜ?」
マジで!? 熊もたまには役に立つね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます