第60話 ぼっちで出るの、決定……
衝撃の一夜が明けて翌日、またしてもダーニルに絡まれました。選択授業の教室への移動時、人通りの少ない階段に連れ込まれちゃった。
なんでこいつ、校舎の目立たないところを知ってるんだろうね?
「ちょっと! あんた、あんまりいい気になってると、後で痛い目に遭わせるからね!」
はて、ダーニルが遭わせる痛い目とは。物理? それとも魔法? それとも貴族的なアレ?
最後はまだしも、物理も魔法も私より弱いくせに、何言ってるんだ?
「ちょっと!! 聞いてるの!?」
「え? 聞いてないよ?」
「きいいいいいいいい! あんた、これ以上ユーイン様に近づいたら承知しないんだからね!」
ユーイン……あ、黒騎士か。あれ? ダーニルって……
「第三王子狙いじゃなかったの?」
「な、何故それを!?」
いや、バレバレだし。むしろ、あれで周囲にバレていないとでも思ってたとか? そうだとしたら、そっちの方が驚きだよ。
「ふ、ふん! まあいいわ。なら、私の壮大な計画を教えてあげるわよ」
「いや、いらんし」
「聞きなさいよ!」
何だよー、聞いてほしいだけじゃん。
「いーい? 私はそのうちシイニール殿下の妃になって、王子妃になるのよ。それで、ユーイン様を近衛騎士として側に置くの。最高でしょ?」
「聞いて損した」
「何ですってええええ!?」
いや、普通に伯爵家の庶子が王子妃になるなんて、無理でしょ。しかも評判の悪いデュバルの娘だもの。逆立ちしたって無理無理。
何かまだ喚いているダーニルを置いて、選択授業に向かう。今日は騎獣だ。ゴン助、いい子にしてるかな?
騎獣科でも、学院祭には参加してましたね、そういえば。
「という訳で、今年は君も参加しないかね?」
「総合魔法だけで間に合ってまーす」
「む! 我が騎獣科も、評判はいいのだよ?」
わかってますけど、ゴン助を学院祭に出すのは厳しいのでは?
騎獣科がやるのは、そのものずばりな騎獣レースだ。他の騎獣がゴン助を怖がって実力を出せるとは思えない。
「という訳で、諦めてください」
「そんな……折角黒大熊を手に入れたというのに……」
「いや、手に入れたのは学院で、先生個人じゃないでしょー?」
「それでも! 見せびらかしたいじゃないか!」
教師はそれはどうかと思うよ? この学院、指導に関しちゃ腕のいい先生が揃ってるんだけど、性格的な面では個性的という言葉を越えちゃってる人が何人かいるんだよね。
騎獣科のこの先生もその一人らしい。なんでも、無類の魔物好きなんだとか。
で、先生自体は子爵家の人なんだけど、同じ魔物好きのライバルが伯爵家にいるそうで。
そのライバルに、ゴン助を見せびらかしたいらしい。己の欲を優先すると、学院祭における騎獣科の出し物が大変な事になりかねませんよー。
「まったく、駄目な大人だねえ、ゴン助」
「ゴン……ゴンゴン」
「え? 出てもいい? いやいや、レースなんだから無理だよ。他の魔物達が君に遠慮して、ちゃんと走れないでしょ?」
「ゴン! ゴンゴンゴウン」
「自分だけで走ればいい……って独走かい」
レース会場を、ゴン助だけで走るのかあ。それって意味あるの? しかも、その場合乗るのは私だよね……総合魔法以外に、面倒ごとはごめんなんだけど。
とりあえず、ゴン助からの申告って事で、騎乗科の教師に話してみた。
「ふむ、黒大熊一頭での出走か……いいかもしれない!」
「え? いいんですか?」
「レースという括りにはならないかもしれないが、それならいかに速く走れるかを見せればいい」
ある意味、スプリントレースって事かな? でも、ゴン助が本気出したら、相当速いんだけど。
黒大熊って、足の速さでも有名な魔物だから。だから狩る時はまず足を狙う。
「先生、ゴン助はかなり速いですよ?」
「……本気で走ったら、どのくらいかな?」
「多分、この騎乗用のグラウンドを他の騎獣が一周している間に、二周出来るくらい?」
人を乗せるなら、そのくらいかな。単体なら三周分か四周分くらいいくと思うけど。
他の騎獣達も速いんだけどさ、黒大熊はそれ以上に速いんだ。
これで諦めてくれるかと思ったら、教師のスイッチが違う方向に入っちゃった。
「素晴らしい! さすがは黒大熊だ! ぜひとも、出走してくれたまえ! あ、枠は別口でちゃんと取っておくよ」
「ええええええ……」
逆効果だったらしい。
昼食時、食堂でテーブルに突っ伏していると、頭の上から声がする。
「今度は何があったの? レラ」
「コーニー」
「レラがしょぼくれてるのは、似合わないなあ」
「ロクス様」
本日、ランミーアさんとルチルスさんは個別食事会に招かれているので、昼食は別。中立派も大変だのう。
それで一人飯でもと思っていたら、コーニーとロクス様が見つけてくれたらしい。
「それで? 食事もせずにどうしたの?」
「騎乗科の授業でね」
「黒大熊が暴走したとか?」
「ゴン助はそんな事しないよ」
「ゴン助?」
コーニーとロクス様の声が揃った。あれ? ゴン助の名前、教えてなかったっけ。
「黒大熊の名前。ゴンゴンって鳴くから」
「それでゴン助……」
「まあ、レラらしいよ」
らしいというのがどういう事なのか、ちょっと小一時間問い詰めたいところだけれど、今はそんな気力がない。
「暴走したんじゃないなら、どうしたっていうの?」
「……学院祭で、騎獣科がレースやるでしょ? あれに、ゴン助と一緒に出る事になった」
「え? 黒大熊って、かなり速いよね? 勝負になるのかな」
「ゴン助、一頭での出走です……」
「え?」
コーニーとロクス様の声が重なった。こんなところまで仲良し兄妹なのねー。
「一頭でって、どういう事?」
「それじゃレースにならないんじゃないか?」
「えーと、レースというか、速く走れるところを見せるというか」
うまく説明出来ないなあ。スプリントレースだって言えればいいんだけど、他に競う相手、いないし。
今気付いたけど、これレースじゃなくて、どっちかっていうとエキシビジョンじゃないかな。
どっちにしても、ボッチで出走とか本当迷惑。
総合魔法科で演奏する曲が決まって、第三王子の伝手で編曲を依頼し、出来上がるのを待つ間、チーム決めが行われております。
まあ、誰が誰と組んでやるか、どのパートを演奏するか、だね。
「では、学年単位で班分けを行う事でいいか?」
議長の言葉に、特に反論はなかったのでこれで決定。まあ、他学年と組んでもいいけど、やっぱり慣れ親しんだ相手との方がやりやすいし。
具体的な班分けはそれぞれのクラスに戻ってから、となったけど、そこで一つ、質問が出た。
「やりたくない生徒、もしくは周囲の足を引っ張る生徒が出た場合にはどうしたらいいですか?」
質問したのは、五年生の生徒。てか、どこでもそういう問題は出るんだね。
「やりたくないのなら出場させなければいいし、足を引っ張る連中も同様だ」
発言したのは、六年生次席のどっかの五男坊。それに反論したのは、六年生首席であるどっかの次男坊。
「待て。学院祭は学院生にとって、それまでの学院で学んだ事を披露する場でもある。足を引っ張るというだけで欠席させるのは――」
「やる気のない奴や、能力のない奴らのせいで、演奏が台無しになってもいいのか!?」
「結果そうなったとしても、それは今の我々の偽らざる姿だ。それを披露するのもまた学院祭だろう」
「綺麗事を! 学院祭での評価次第で、その後の進路が決まる生徒もいるんだぞ! お前だって他人事ではないだろうが!」
次男も五男も、家は継げないもんね。そして、総合魔法科にいるくらいだから、どちらも魔法は得意。
狙うは白嶺騎士団かな? でも、あの団長がいるんじゃねえ……先は明るくないかもよ?
二人があれこれ言い合った結果、明らかに演奏を乱すと判断された生徒に関しては、上級生判断で演奏から外すという事になった。
我が学年からは、若干名外されそうな生徒がいるねえ。褐色姫とかダーニルとかその取り巻きとか。
私のせいじゃないからねー。八つ当たりや逆恨みはするなよー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます