第59話 誰だ出てこい!

 本日、学院祭で演奏する曲決めです。すぐ近くにはニコニコ顔の第三王子とその側近候補の同級生。うちの学年の上位陣もいる。


 良かったよ、総合魔法を選択している学生全員で会議、なんて事にならなくて。


 例え、全学年の上位陣が揃っていたとしても。


「なんで他の学年まで来てんの?」

「そりゃお前ぇ、今回の学院祭では総合魔法全学年でやるからな」


 どうも、去年私達の学年だけだったのは、他の学年でこの授業を選択する生徒が少なく、またどの学年の生徒もやる気がなかったから、だって。


 それでいいように使える私がいる一年生に白羽の矢が立ったのか。熊め。


 去年の学院祭での幻影魔法が高評価で、それならと今年は総合魔法を選択する生徒が他の学年でも多かったらしい。


 人数多いし、やる気のある学生がいるなら全員でやっちゃう? と軽ーく決まったそうな。再度言おう、熊め!


「まあ、曲決めはこのくらいの人数でねえと、決まるものも決まらねえから。なので上位陣だけって訳だ」


 それでも、教室の中には結構な人数がいる。一応、最高学年である六年生が会議を主導してくれるから、いっか。


「それでは、曲決めの会議を開始します」


 議長? を勤めるのは六年生の総合魔法首席。ヒューモソン伯爵家の次男だそうで、派閥は王家派。


 その彼を睨んでいる同じ学年の男子。もしや、首席を取られて恨んでる?


「彼はカラハーガ伯爵家五男のイーソン卿。ヒューモソン家のツフェアド卿とは学院に入って以来のライバルだそうだよ。実家もヒューモソン家は王家派、カラハーガ家は貴族派と対立しているしね」

「え? 何故それを私に?」

「あれ? イーソン卿を見ていたから、気になったのかなって思って」


 その前に、二人の名前とか家とか派閥とか、私がわかっていないと何故知っている!?


「あのー、なんで私が彼等を知らないって、ご存知なんですか?」

「んー。知っているようには見えなかったから……かな?」


 それだけ? それだけで、あの情報をさらっと言えるの?


 第三王子、怖い。




「親しみやすい曲の方がいいんじゃないか?」

「かといって、安易な曲ではつまらないんじゃないかしら?」

「そこは編曲次第じゃないかな?」

「誰もが知っている曲の方がいいと思うな」

「今一番流行の曲がいいと思うわ」


 会議で出る意見には、なるほどと思うものばかり。そうだよなー。誰も知らない曲とか演奏しても、わかんないよなー。


 完全に他人事として見ていたら、いきなり第三王子がとんでもない事を言い出した。


「そういえば、ローレル嬢が魔道具で作った曲、とても良かったね。あれは、どういった曲だったの?」


 ぐほ! 思わぬところからの攻撃に、備えがまったくなかったよ! そういや第三王子、魔道具でもご一緒でしたね……


 でもさ、向こうでは何も言わなかったくせに、何故この場でそれを言うのかなあ? 絶対狙ってるよね!?


 ニコニコ顔の第三王子が、段々化け物に見えてくるわ……


「あれはそのー、子供の頃に聞いた曲を思い出しながら作ったものでー」

「へえ? どこの、何て曲かな?」

「覚えてないです」


 嘘でーす。前世で聞いてた曲でーす。とあるゲームの音楽で、作中でもオルゴールの曲として出てくるのだ。サントラにも入っていて、大好きな曲なんだよね。


 だから、魔道具で使ったのにー。まさかこんなところでこんな聞かれ方をするとは。


 散々覚えていない、曲名も知らないと言っているのに、第三王子は追求の手を緩めない。


「幼い頃に聞いたのなら、ペイロンの曲かな? 違う? あれ? 覚えていないんだよね? ペイロン伯なら覚えているかなあ?」


 勘弁してー。いつの間にか、会議に出ている生徒の視線までこっちに集まってるし。熊もニヤニヤとしてる。こっち見んな。


「とても綺麗な曲だから、あれを演奏してはどうかと思うんだ」

「いやいやいや、あれは短いので演奏には向きませんて」

「なら、長くなるよう編曲すればいいんだよ。どうかな?」


 第三王子に聞かれて、議長が考え込んじゃったよ。やめてー。考える必要ないからー。有名どころの曲、使っておこうよー。


「一度、その曲を聴いてみてはどうか?」

「なら、魔道具科から借りてきましょう」

「殿下推薦の曲だ、さぞや素晴らしいのだろうなあ?」


 最後の一言だけ余計だよ、どっかの五男坊。自分が勝てない悔しさを、派閥争いに広げんな。


 あっという間に魔道具科に提出した私のオルゴールが会議の場になっている教室に持ち込まれた。


 提出した魔道具って、学年修了するまで学院側が預かってるんだよね。学期末試験に提出しなければ、こんな事にはならなかったのに……自分のバカ。


 公開処刑のように、教室の中央で私の作ったオルゴールが鳴らされる。通常のものとは違い、ゼンマイも何もなく魔力で動くオルゴールが、ちょっと切ないメロディーを奏でる。


「ほう」

「これは」

「いいんじゃないかしら?」

「でも、ちょっと寂しい感じがしない?」

「それがいいんじゃない」


 いや、学院祭でやるんなら、もっと明るくて元気がある曲の方がいいと思うなー。行進曲みたいなやつ。


 意見を言おうにも、何となく言える雰囲気じゃなくてだね。空気が読める元日本人としては、何も言えずに終わってしまったわい……




 結局、短い曲をいくつか繋げて編曲してはどうか、という案が選ばれ、曲の一つは私のオルゴールからと決まってしまった。


 私、反対したのに……大体、この国は王政なんだから、民主制の多数決なんて必要ないでしょうよ。


 でも、それだと王族である第三王子の一声で決まるって事だよな。やっぱり逃げられない……


「どうしたの? ローレルさん。浮かない顔をして」


 夕食の席で、いつものように同席しているランミーアさんに聞かれた。


「いえ、ちょっと、選択授業でね……」

「そういえば、聞いたわよ! 今年の学院祭の総合魔法、音楽の演奏なんですってね。しかも、その曲にローレルさんの曲が選ばれたんだとか」


 いや待って。ついさっき決まったばかりの話をどうして知っているのかは置いておいて、私の曲ってなんだ?


「ランミーアさん、私の曲って?」

「え? ローレルさんが魔道具で作った曲を演奏する事になったって聞いたけど?」

「それ、私が作曲した訳じゃないからね? だから私の曲って言い方は間違いだから」

「そうかしら? まあ、細かい事は気にしないでよ」

「いや、気にするよ? それに細かい事でもないからね?」


 いくら言っても、ランミーアさんは気にしない気にしないと取り合わない。


 それでも否定しようとしたら、ルチルスさんが私の肩をぽんと叩いた。


「ローレルさん、無駄だからやめた方がいいわ」

「ルチルスさん……」

「ああなると、ミアって人の話を聞かないから」


 つまり諦めろと? なんてこったい。




 学院祭の為の会議は何度か行われ、演奏曲は全部で五曲、どれも短めか、クライマックス部分を切り取って編曲して繋げていくという事になった。


 今日の会議では、決まった曲を全部聴いて流れを掴もうというもの。


 自分が提出する事になったオルゴールの曲はまだしも、他は馴染みのない曲名ばかりだ。なので、ちょっと楽しみ。


 ちなみに、曲を聴くのは研究所経由で販売した再生機。これは録音機能はないけれど、録音された媒体を再生する事が出来る。


 小さいスピーカーも内蔵されているので、これ単体で録音内容が聴けるというもの。


 媒体は、レコード形式にしてある。本当は魔力結晶の方が扱いやすいんだけど、媒体そのものが高額になるっていうんで、こっちにした。


 あのレコード本体にも魔物素材を使ってます。いやあ、本来なら廃棄するしかないタイプの魔物の骨が、こんな形で役に立つなんてねえ。


 一曲は現在歌劇で一番人気の歌を音楽のみで。二曲目はオーゼリアでは知らぬものはいない程の人気曲の一部を。


 三曲目はちょっと古いけれど、これも人気の歌劇からで、よく合唱曲に使われる曲なんだとか。


 そして四曲目。


「これは約百年前に作られた曲だけれど、知る人ぞ知る曲なんだ」


 そう言ってヒューモソン伯爵家の次男がもってきたレコードからは、大変懐かしい曲が流れました。


 誰だ! 百年前にこっちに転生し、ドラゴン探すゲームのオープニングをしれっと自分の曲として出したのは!


 聞こえてきた途端、噴き出すのをこらえるのが大変だったよ!

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