第58話 丸投げしたはずなのに

 コーニーの社交界デビューは大成功だったらしい。


「良かったね」

「ええ、本当に」


 嬉しそう……というよりは、一山越えてほっとしている様子のコーニー。デビューは準備も大変だし、結果次第ではその後の社交界人生が決まるとも言われてるそうだからねー。


 コーニーの同級生も、大体同じデビュタントボールでデビューしている。


「おかげで右を見ても左を見ても見知った顔ばかりよ」

「仲がいい人ならいいけどねえ」

「……来年、大変そうね」


 ええ、本当に! ただでさえダーニルがいるしな!


「え? 彼女、社交界デビュー出来るの?」

「へ? そりゃ、実父がさせるんじゃない?」


 私の返答に、コーニーが変な顔してる。何で?


「レラ、基本的な事だけど、普通、どの家も庶子は社交界に出さないものなのよ」

「そうなの?」

「庶子がいたとしても、表には出さないわ。当然学院にも入学させないし、その前に入学許可が下りないのだけど」


 そういえば、入学式の時にそんな話を旧寮監から聞いたっけ。ダーニルの場合、実父が裏から手を回して許可を取り付けたって話。


「という事は、ダーニルに社交界デビューの話はない、と」


 それはそれで、向こうが騒ぎそうだなあ。八つ当たりしてこなければいいけど。


 ん? あれ? もしかして、私とダーニルを入れ替えようと思ったの、そこにも関わってくるのかな?




 コーニーがデビューしてから、週末は寮にいない事が多い。アスプザット邸に戻って、週末の社交行事に参加する為だ。


 当然他の同学年生徒も同様で、週末の寮人口ががくっと減っている。


「なるほど、この時期週末に人がいなくなるのはそういう理由だったのね」

「そうよ。学生のうちは、週末の行事だけの参加なの。来年は、いよいよ私達の番ね!」


 ランミーアさん、鼻息荒いなあ。デビューなんて、しなくていいならしたくない。


 でも、先を考えるとそうも言えないんだよなあ。


 追い出されてとっくに関係は切れてる家だと思ってたけど、まさかそこを自分が継ぐ事になるとは。


 家の存続云々だけなら拒否するけど、領地も含まれるから領民がいるんだよね。さすがにそれを放り出して逃げる程、図太くなれない。


 何せ人の命が関わってる。この国の平民は、本当に領主ガチャに失敗すると人生詰むから。


 しかもそのガチャ、自分で回せないんだぜ。運を天に任せるとはこの事か。


「ローレルさん? 難しい顔をして、どうしたの?」

「え? ううん、何でもないの」


 笑って誤魔化す。ランミーアさんが不服そうな顔をしているけれど、何を考えていたかなんて、言える訳ないからね。




 二月は舞踏会シーズンだったりデビュタントボールがあったりするけれど、学院生としては学院祭の準備に入る時期だ。


 といっても、月末からだから、実質三月からだね。


「去年は代表を決めて集団魔法をやったな」

「今年はどうするの?」

「今年はこの学年で連携魔法をやってるから、クラス全員で連携魔法をやろうかと」


 ほほう? 集団魔法と連携魔法の違いは、人数にある。集団が五人以上、連携が四人以下。


 集団も連携も、人数が増える方が規模が大きくなって難易度が上がる。つまり、去年の方が人数は少なくとも難しかったという訳だ。


 ただなあ、今年、総合魔法のクラス全員でとなると……ねえ。


「ダーニルや褐色姫もやるって事だよね?」

「転科の申請はされてないからな。もっとも、今の時期に転科するなんぞ、そうない話だけどよ」


 転科するなら、せめて去年のうちだ。ゴン助に追い回されて走っていたあの三人のように。


「いっそやりたい人だけ募集したら?」

「却下だ。そうしたらお前、逃げるだろうが」


 バレたか。面倒そうだから、逃げられるなら逃げたい。


「まあ、最悪ダーニル・デュバルと転入生は資格なしとして出場停止になる可能性もあるし、あんま気にすんな」

「資格なし?」

「だってよ、あの二人が周囲に合わせて連携魔法、成功させられると思うか? 今でさえもたついてろくに出来てねえのによ」


 あー……ダーニルは人に合わせるような性格じゃないし、褐色姫は人に合わせるってのがどういう事か、根本から理解していないから。


 って事は、去年私に預けられたあの三人は、まだましな方だったって事?




 学院祭では、本当に連携魔法で「見せる」魔法を披露する事になった。その発表がなされた途端、総合魔法の教室内は騒然とする。


「先生! 去年みたいなのを、僕らもやるんですか?」

「面白そうだったけど、難しいよね……」

「あんなの、私達に出来るの?」


 不安になる生徒が多い中、何故かダーニルがふんぞり返っている。


「ふふん、やっとあの教師も私の実力に気付いたようね」


 ……あったっけ? 実力。少なくとも、授業内で行われる実技試験では、毎度失敗してるんだけど。


 連携魔法も、四回か五回に一回、やっと成功する状態だとか。ちらりと見たら、褐色姫は呆然としてる。


 こっちは自分の特性、よくわかっているらしい。連携魔法は苦手と、顔に書いてある。


「今回の学院祭には総合魔法全員での参加だ。他の学年も合流するから、人数は多いぞ」


 お? 去年は他の学年は別の何かをやったんだっけ?


 選択授業には、総合魔法の他に「魔法」という科目がある。どこがどう違うんだよと思わないでもないけど、カリキュラムは確かに違うらしい。


 ちなみに、コーニーとロクス様はこの「魔法」の方を選択してるんだって。二人して熊から逃げたな……私は指名だったのに。


「という訳で、本日の授業も連携魔法だ。各自、四人以下で組めよー」


 そして相変わらず上位陣は放置中。


「集団魔法が使える奴らにとって、連携魔法は簡単なものだからな」


 ニヤニヤする熊。確かに集団魔法よりは楽だけどさー。何なら一人で四人分くらいの術式組んで起動出来るけどさー。


「とはいえ、毎度ぼーっとしてんのもあれだろ。学院祭でやる連携魔法、どんなのがいいか考えておけや」


 おい熊、それ丸投げって言わないか?




 とりあえず、各学年からアイデアを募集するらしい。


「去年の幻影魔法の評価が良かったからね。今年はあれと同等もしくはあれ以上を、と思っている教職員は多いんだって」


 第三王子からの情報でした。教職員情報まで持ってる辺り、さすが王族というべき?


 でも、去年を上回るものを、連携魔法で……ねえ。


 ちらりと周囲を見るも、皆うんうん唸っている。アイデアなんて、そう簡単に出るもんじゃないよねー。


 しっかし、大人数で連携魔法かー。四人以下のグループに分かれるんだろうけど……ん?


 去年はいわゆる紙芝居的なものを、スクリーンに映すように幻影魔法で見せた。


 じゃあ、今年は音楽でもいいんじゃね? 確か、この国にもオーケストラ的なものはあるんだし。


 何せ歌劇があるから。オーケストラは歌劇とワンセットなイメージ。


 そういった音は無理でも、それこそ電子音みたいなのを一グループずつ鳴らして、全体でまとめれば面白くなるんじゃないかなー。


 レトロゲームの音源を演奏する感じ。そういや、前世ではゲーム音楽もフルオーケストラで演奏してたっけ。


 よし、後で熊にこっそり提案してみよう。




 授業の後、こっそり提案したにも関わらず、何故か私が責任者にされたんですが? どういう事?


「言い出しっぺがやるに決まってんだろが」

「いや、私音楽の事とかさっぱりわからんし」

「じゃあなんであんな事、提案してきたんだよ?」

「誰かが面白く整えてくれるかなって思ったからだよ!」


 まさか自分が押しつけられるなんて、思う訳ないじゃん!


 ぐずぐず言っていたら、熊が面倒臭そうに言い放った。


「んじゃ、他に任せられそうな奴、見つけてこいや」

「よっしゃ!」


 丸投げしていいのなら、心当たりはある! こういう時の王族だよね!


「という訳で、王子殿下にお願いします!」

「ええ? そう来るか……」


 教養教室での放課後、寮に帰る前の第三王子を捕まえて、熊に押しつけられた責任者を、彼に頼んだ。


「いやあ、こういうのの責任者って、やっぱり王族の方がやるべきだと思うんですよ」

「心にもない事を言ってるって顔をしているよ。でもまあ、確かに人をまとめる練習にはなるね」

「快く引き受けていただき、感謝します」


 これで引き受けてくれなかったら、いつぞやの冬の休暇、先触れなしでアスプザット家に来た事をチクチク言ってやろうかと思った。


 いやあ、引き受けてもらえて本当に良かったよ。第三王子なら、音楽にも明るいだろうし。そうでなくとも、得意な人間が側にはいるだろう。


 ええ、ただの偏見です。


「責任者は引き受けるけど、ローレル嬢にも手伝ってもらうよ?」

「え?」

「当然だよね? 元々は君が任された仕事なんだから」


 うぬう。さすが王族、一筋縄ではいかんか……

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