第53話 けりがついたりつかなかったり
総合魔法の学期末試験の実技範囲に、連携して行う術式は含まれない。あれは学年末試験の範囲だってさ。
とはいえ、来年の試験までには出来るようにしておかないと単位が取れない。
まあ、あの三人が留年しようがどうでもいいんだけど。
「その場合、お前の評価が下がるからな?」
「何それ横暴!」
総合魔法の授業後、準備室にて熊に言われた。酷くね?
「当たり前だろうが。どの選択授業でも上位陣ってなあ、出来の悪い連中を引っ張る役目を負わされてるんだよ」
「勝手に負わせないでほしいなあ」
「諦めろ。学院の方針だ」
ちぇー。
「大体さあ、あいつら私の事をデュバル家の庶子だと思ってるんだよ? だから言う事聞きゃしない」
「最悪蹴っても殴っても言う事聞かせろ。後で治しゃいい」
忘れがちだけど、熊も立派に脳筋の里の人間だからなー。
「それに、あいつらがお前の言う事を聞かねえのは、何も庶子だと誤解してるからってだけじゃねえよ」
「どういう事?」
「あいつらは、貴族派の家のガキだ」
「ああ……」
なるほどね。敵対派閥である王家派の者の話なぞ、聞く気はないって事か。じゃあ、私を庶子だって言ったのは、本当にそう思ってるって訳じゃなく、貶めるのが目的って事?
「なんかムカつく。ここはやはり、ペイロン方式を取り入れるべきかな?」
「とりあえず、程々にしておけよ?」
「気が向いたらね」
多分、気が向く事はないだろうけど。
その場でとある事の許可を熊に取り付け、教室に戻る。放課後は、褐色王子を片付けないとなー。面倒臭い。
さてどうしたもんかと思ったら、褐色王子の方から来た。
「その……いいだろうか?」
主語を抜くと、非常に微妙な言葉だね、それ。
「お話しですよね? ここだと何ですから、食堂にでも行きますか?」
「妹も一緒でいいだろうか?」
褐色姫も来るのかー。って、よく見たら教室の入り口からこっちをちらちら見てるよ。
溜息一つ吐いて立ち上がる。コーニー、やっぱり私に社交とか無理そうだよ……
食堂に場所を移して、お話し合い。いや、それにしてもあちこちに見知った顔ばっかりあるんですけど。
そっちにはダーニルとその取り巻きが。向こうには第三王子と側近候補達が。さらに少し離れたところにはランミーアさんとルチルスさんの姿も見えるんだけど!?
ああ、ルチルスさんがげんなりしてるって事は、ランミーアさんに引っ張られたんだね。ご愁傷様です。
そしてなんと、すぐ隣にはコーニーとロクス様が。お目付役ですか?
「あら、こちらは気にせずお話しをしてちょうだい」
コーニーがカップ片手ににっこり笑う。ロクス様が苦笑しているところを見ると、ここに来ようと言い出したの、コーニーだな?
褐色双子がやりづらそうにしてるよー。
「それで、お話しとは一体なんでしょう?」
愛想笑いを貼り付けて、水を向けてみた。このままだんまりだと、進まないからね。
「その……妹共々、迷惑をかけたようで、許してほしい……」
色々言葉が足りない気がするけど、ここでそれをちくちく言っても始まらない。大体、教えるのは私の仕事じゃないし。
「わかりました。謝罪でしたら受け入れます」
「本当か!? 助かる!」
「では私はこれで」
「え?」
え? 話は終わりだよね? 「ごめんなさい」「わかりました」で終わりでしょ?
ごめんなさいは言われてないし、許してもないけど。
双子はまだ何か言いたそうだったけど、構わず置いてきた。これで静かになればいいけどなー。
コーニーとロクス様が俯いて肩を震わせていたように見えたけど、多分気のせい。
総合魔法の屋外実習場には、叫び声が響いていた。
「た、助けてくれええええええ!」
「いやあああああ!」
「きゃああああ!」
うん、叫ぶだけまだ元気があるね。例の三人が実習場の縁を走ってる後ろから、ゴン助がゆっくりと追いかけている。
前回熊に許可をもらったのは、これ。万一ゴン助があの三人に怪我を負わせた場合、責任持って治療するっていう条件で、ゴン助をここに連れてくる許可をもらったんだ。
まだ舐めた態度を取るので、ちょっとペイロン流の鍛え方を導入してみました。
ペイロン流その一。魔法を覚える前に心身を鍛えよ。筋肉は全てを解決する。
という訳で、現在三人には実習場を走らせている。最初は拒否したので、ゴン助を出した。
ただでさえデカい体に獰猛な顔が乗ってるから、脅し役としては十分。ゴン助に一吠えさせたら、三人とも素直に走り出したよ。
「おい、レラよ」
いつの間にか、隣に熊がいた。
「何?」
「あれ、大丈夫なんだろうな?」
「平気平気。もしかじられたとしても、すぐに治してやるから」
「いや、かじらんように躾けろや」
「躾けてはあるよ? でも、事故って事もあるから」
怖いよね、事故。気を付けていても、もらい事故ってのもあるしさ。
それにしても、体力ないなあ。これはしばらく走り込みだけで終わるかも。
その日の寮での夕食時、いつものようにランミーアさん、ルチルスさんと一緒に食堂に向かっていたら、後ろから声がかかった。
「ちょっと、総合魔法のデュバルって、あなたよね?」
振り向くと、三年生が四人と、その後ろに総合魔法で押しつけられた女子二人がいる。
これはもしや……
「総合魔法にはデュバル姓の者が二人いますが?」
にっこりと言っておく。いや、後ろの二人を見るに、多分私の事なんだろうけど。
「! ローレル・デュバルは、あなたよね?」
「そうです」
やっぱりー。なら最初からそう聞けばいいのにー。
上級生は腕を組んで顎をしゃくる。
「ちょっと、話があるんだけど」
「私にはありませんので失礼します」
「はあ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
何で上級生ってだけで、下級生が無条件で言う事を聞くと思うんだろうね? 不思議だわー。
「待ちなさいって言ってるでしょ!」
「待ちませんよ。食事時間は決められているんです。あなたに付き合って、夕食を食べられなかったら、責任取ってくれるんですか?」
「はあ?」
寮の規則は割と厳しめ。特に時間に関しては。朝食と夕食の時間は厳守で、守らないと食べられない。
見ず知らずの上級生の為に、夕食食いっぱぐれるなんて嫌だわ。
「あなたねえ!」
「寮内ではお静かに。寮監に怒られても知りませんよ」
「ぐ」
それにしても、さっきからキャンキャン言ってきてるのは一人だけか。他に三人もいるのに、黙って見ているだけってのは潔いのか、単に口開くのが面倒なのか。
それにしても、ランミーアさんとルチルスさんは見事に真逆の反応を見せてるね。
ランミーアさんは何事かと興味津々だし、ルチルスさんは上級生に逆らうような態度を取っているからか心配そうだ。
大丈夫、この学校、理不尽な上級生に逆らったからって退学にはならないから。
そして、私の制服では今も小型カメラとマイクが作動中だ。証拠はバッチリ。
それにも気付かず、総勢六人は食堂の中まで騒動を持ち込んだ。
「大体! あんたが授業でこの子達を苛めるから悪いんでしょ!?」
「いじめとは? あ、三人でお願いします」
案内役が来たので、三人で座れる席をお願いする。相手も心得たもので、無言で頷いて席の用意をしにいった。
「とぼけないで! この子達と、それにヤセッツ家の三男も一緒にずっと走らせていたそうじゃないの!」
「それが何か?」
「な!」
「彼等三人の指導を教師より任されましたので、そのようにしました。また、その内容は許可を得ているものです。文句があるのなら選択授業を変更するか、担当教師までお願いします」
私が言い終わったところで、丁度席の準備が出来たらしい。
「ではこれで」
「ま、待ちなさい!」
「騒々しくてよ」
あれ? 聞き覚えのある声……おっと、第二王子の婚約者であるベーチェアリナ嬢のご登場だ。
「先程から、食堂の外まで声が響いているわ。淑女にあるまじき行動ね。寮監のシェノア先生からのお叱りを覚悟なさい」
「ベ、ベーチェアリナ様! 私は――」
「言い訳は結構」
おお、さすがベーチェアリナ嬢。ばっさりだわ。六人組、特にキャンキャン吠えていた女子は、凄い目でこっちを睨んでるよ。
後で何事もなければいいけど。
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