第46話 夢の……

 狩猟祭が終わって、通常のペイロンに戻った。


「よっしゃ森林サメゲットー!」


 相変わらず深度がおかしくなってる魔物を狩りつつも、今はどこで何を狩ったか記録している。


 ジルベイラからの要請だ。どの辺りにどの深度の魔物が出て来ているのか、把握しておきたいらしい。


 それにより、氾濫がいつ頃起こるか計算出来るんだって。長くペイロンに残された記録から研究した結果だってさ。


 ちなみに、今日森林サメを狩ったのは、深度五の中程。本来なら、ここらは一泊コースの場所だ。


 でも、私は森の中にいていい時間が決められているし、成人前なので森での宿泊が禁じられている。


 となれば、より奥へ行く為の努力というものをだね。


「それで、魔法で移動速度を上げてるんですか?」

「うん、まあ」


 狩ってきた魔物を査定してもらってる間に、ジルベイラと雑談してる。


 本当は魔力で動く乗り物を作りたかったんだけど、己の技術不足と説明力不足により諦めました。


 今は一歩を大きくするように魔法で後押しをして、森の中を走ってる。体力がいるけど、そこら辺は子供の頃から走り回ってるのでなんとかなったわ。


 移動速度を上げれば、行って帰っての時間が短縮出来るし、それだけ奥に入れるから。深度五のエリアも、それなりに広いからねえ。


「その術式、研究所には出してるんですか?」

「んー、今のところはまだ。出した方がいいかな?」

「ええ、ぜひ。きっと売れますよ」


 ああ、売れれば領に税金が入るもんね。領の役所で働いているジルベイラとしては、たくさん売ってたくさん税金が入ってほしい訳だ。


「まあ、売るとしたら研究所経由だね」

「その方が領としても助かります」


 うん、私が個人で売ると、売った場所に税金を払う事になるもんな。このまま休暇が終わって王都で売れば、税金は王都に支払われる。


 でも、研究所経由で売れば、税金はペイロン領に入るからジルベイラとしてはそっち方がいいんだろう。


 私としても、ペイロンに税金が入るのは歓迎だし、研究所経由で売れば面倒な申請やら検証やらを代行してもらえるから助かる。


 しかし、移動術式なんて売れるかね? 長距離移動する人は、馬か馬車を使うだろうに。




 長期休暇もあとわずか。やっぱり狩猟祭が終わると夏が終わったって感じるなあ。


「秋からは、レラも二年生か。今更だが、学院には慣れたか?」


 ヴァーチュダー城の奥にある家族用の食堂で、伯爵とルイ兄、アスプザットの兄妹との夕食時に、伯爵に聞かれた。


「んー、多分?」

「なんで疑問系なんだよ」


 笑ったのはルイ兄だ。ちなみに、シーラ様とサンド様は一足先に王都に戻っている。忙しい人達だからねー。


「慣れたと言えば、慣れたかな。ただ、一年時はそれなり問題があったからさー」

「寮の部屋とか?」

「チェータソキア嬢とか?」


 コーニーとロクス様からチャチャが入る。そういやありましたね、そんな事。


 ダーニルの件もあるし、リネカ・ホグターの一件も問題だったよなー。


「まあ、色々あったよねとだけ」

「次の学年では、あんな騒動ないといいけど」


 本当にね。コーニーの言う通りだわ。


「そういえば、白嶺の二人はまだ森に入ってるそうだな」

「ええ、やっと深度二に進めたと喜んでいましたよ」


 白騎士二人は、現在ヴァーチュダー城から出て近くにある宿舎に移っている。ここより森に近いから、行き来は楽な場所。


「そういえば、ユーイン卿は最速で深度二に進んだんだよな?」

「ユーインらしいですねえ」

「少しは遠慮するべきだろうが、あいつは」


 ヴィル様、黒騎士への当たりが少し和らいだかと思ったのに。でもまあ、私もちらっと思ったしなあ。


 あの人、自重しないよね。


「まあ、ユーイン卿には目標がありますからねえ」


 ロクス様、そこで意味ありげにこちらを見るの、やめてもらえます? ほらあ、伯爵まで何やらこっちを見てるじゃないかー。


「あと一年か……どうするんだろうな?」

「何です? あと一年って」

「ああ、ルイは知らなかったか。実はな」


 伯爵! わざわざルイ兄に説明しなくていいから!




 王都へは、長期休暇が終わる少し前に戻る事になっている。つまり、ペイロンにいられるのもあと三日間だけ。


「という訳で、これが移動術式。いつも通りによろしく」

「了解。それにしても、また妙な術式を思いついたものねえ」

「森での移動用に考えたんだー」

「ああ、なるほど」


 笑うニエールは、それでも書類の書き込みを止めない。術式を売りに出すまでって、手続きが面倒なんだよねえ。書く書類の種類と枚数も多いし。


「あとさあ、ちょっと考えてる事があるんだけど」

「何ー?」

「常設の遊園地をね、作りたいんだ」

「ペイロンに?」

「うん、そう」


 私の提案に、ニエールの顔が曇る。まあ、そうなるよね。


「常設は、無理じゃないかなあ」


 収入的にね。わかってるんだ。ペイロンは、王都から遠すぎるから。人を多く呼び寄せられない。


 でも、遠いなら移動手段を整えればいいんだよね。


「という訳で、王都からペイロンまで線路を敷きたいと思います」

「せんろ? って、何?」

「鉄の道……かな? その上を列車が走るんだよ。馬車よりも速く、しかも多くの人間や物を運べるんだ」

「もうちょっと詳しく」


 お、ニエールが釣れた。まだ魔法に関する話までいってないのに。


 とりあえず、魔法と蒸気機関を組み合わせたようなものをアイデアとして振ってみた。


「蒸気で、そんな重いものを動かせるのかしら……」

「出来る。そこは確か。ただ、圧力に耐えられるピストンとかを作るのも大変だと思うし、何より効率的な蒸気機関を作るのは難しいと思うけど」

「それは研究所で頑張るわ。ともかく、蒸気を作るのは魔法でやった方がいいのよね?」

「うん」


 石炭を探して採掘して使うのは、環境問題という観点からちょっとお薦め出来ない。


 せっかく魔法があるんだから、しばらく蒸気は魔法で作り出せばいいと思うよ。そのうち、もっと効率的な魔法機関みたいなのが出来るだろうから。


 今はピストン運動を蒸気で作り出す事が出来るようになればいいや。


「ただ、そのせんろ? をどこに敷くかは問題よねえ」

「だねえ」


 王都からペイロンまで、当然ながら余所の領がある。そこに線路敷かせてくださいっていうのもなあ。


 友好的な領ばかりじゃないだろうし。


「そのせんろ? って、今の街道に敷いちゃだめなの?」

「さすがに街道には……出来るかも」

「え?」


 ニエールの言葉で、閃いた。別に地べたを走らせる必要はないじゃん。他の領を通せないなら、王都からここまでの街道に敷けばいい。


 何故かと言えば、王都からペイロンまで通じている街道は、王領だから。街道から少しでも外れると貴族の領になるんだけど、街道だけは王家のものなんだよね。


 その昔、王家が金を出して街道を敷いたから、とかなんとか聞いた事がある。


 で、線路は高架線にしちゃえばいいんだ。セメントはないけど、魔法で何とかなる。


 高架の橋桁で街道がちょーっと狭くなったり、日当たりが悪くなったりするかもだけど、列車が通るようになれば街道の使用頻度は下がるだろうし。


「実際に高架線を作るとなったら王家にも許可をもらわないとならないだろうけど、その当たりは伯爵にお任せしよう!」

「レラってば酷ーい」

「そういうニエールも笑ってるよ」


 私達二人は、グフグフとあまり人様に聞かせられない笑い声を上げていた。

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