第38話 バースデーパーティー
きょーおはたーのしーいたーんじょーおびー!
調子っぱずれに歌ってみた。でもまあ、身内に祝ってもらえるのは、嬉しいよね。
余計なのもいるけど。
「おお、今日は美しい。そうしていると、普段の姿を忘れそうだね」
うるせーよ、白団長め。あやうく口から本音が漏れ出そうになったけど、察したシーラ様に助けられた。
「あら、ほほほ。ヘリダー卿は相変わらずですのねえ」
最後にぎらりと睨む事を忘れないシーラ様。白団長、腰が引けてるよー。
まあ、迫力美人のシーラ様に睨まれたら、大抵はああですよ。
私のバースデーパーティーなので、お祝いの品もたくさんもらった。シーラ様からはレース地をたくさん。ドレスを作る時に使いなさいって。
正直布地は自前の蜘蛛絹があるからね。うちのアルビオンが作る糸は最高なのだ。
サンド様からは宝石。これで好きなアクセサリーを作るといいよって事らしい。
ただなあ。真珠でパリュールを作ったばっかりだ。おかげでパーティーの装いを見た時のサンド様が、膝から崩れ落ちちゃったし。
ネックレスに指輪、イヤリング、ブレスレット、それにコームタイプの髪飾り。全部揃いのデザインで使っているのは魔法銀と真珠だ。
もちろん、私が黒真珠でコーニーが金真珠。普通はこれだけの数を揃えるの、大変らしいね。割とサクッと集めちゃったけどなー。
身内からのプレゼントは、ヴィル様からは茶器のセットを、ロクス様からはカジュアルな装いに合わせられる花を象ったブローチを。
コーニーからはおそろいのリボンをたくさんもらった。これでまたおそろコーデするんだー。刺繍入りのリボンはすっごく綺麗。
こっち、まだプリント生地とかないもんな。……研究所巻き込んで作るか?
そして伯爵からは、装飾が多い短剣をもらった。これ、アクセサリーとしても使えるけど、護身用でもあるんだって。
剣を習った女性が、ドレスの時に身につけられるタイプのものだそうだ。
「本当は十五の時に渡そうかと思ったが、来年はどうなっているかわからなくなったからな」
そうですね。もしかしたら、氾濫がこの時期に起こるかもしれないし、備えの為にパーティーなんてやってる場合じゃないかもしれない。
大丈夫。派手な事をしなくても、きっと身内は祝ってくれるから。
他にも顔なじみのペイロン伯爵家の分家当主とか嫡男とかから、ドレスや靴やアクセサリーなんかがたくさん贈られた。
これ、後で全部お礼状書かないとなあ。もらった相手には基本相手の祝い事の時にお返しするので、その為の準備もしておかなきゃ。
まあ、私はまだ未成年だから、それをやるのは保護者の仕事だけど。お礼状は学院生で準成人と見なされている本人が書きますよー。
パーティーには白騎士もいれば黒騎士もいる。君達、その服持ってきてたのかい? 三人とも普通に準正装なんだけど。
こっちでパーティーやるって、知ってた? もしくは狩猟祭まで居座る気満々だったのかね。
白騎士二人と黒騎士の家は中立派だっていうから、狩猟祭に招待はされていないはず。あれは王家派の催しだ。
ただなあ。見物目的で来る他派閥貴族も多いんだよねえ。まあ、その辺りは伯爵がどうにかするんでしょう。
居候、しかも未成年の私が考える事じゃないや。
ぼへーっと会場の中央辺りで伯爵と並んでお祝いの言葉を受け取っていたら、入り口付近が騒がしい。何だ?
「お、間に合ったみたいだな」
「伯爵?」
誰か来る予定だったのかな? 首を傾げながら人の波をかき分けるようにこちらに来る人を見たら……あ!
「ルイ兄!」
「レラ、久しぶりだな」
そこにいたのは、ルイ兄ことシイヴァン・ルツイッヒ。伯爵の養子で、次代のペイロン伯爵になる人。
私にとっては、兄よりも兄な人だ。ヴィル様と同じ年で、去年一緒に学院を卒業したはず。
その後ルイ兄は、学院卒業後他領で領地経営の勉強じゃなかったっけ? 何故ペイロンで勉強しなかったかといえば、ここにいると魔物討伐に明け暮れるのが目に見えていたから。
ルイ兄、見た目は金髪碧眼の王子様ルックなんだけど、中身はしっかりペイロンの男だから。魔物の狩りには目がない。
そのルイ兄が帰ってきた。そのお目当てといえば。
「狩猟祭だな?」
その一言だけで通じるのがルイ兄だ。
「ははは、レラの誕生日を祝う為だとは、思わないのか?」
「うん」
「この正直者め」
またしても笑うルイ兄。うん、この兄はこういう人。
「ルイじゃないか」
「久しぶりですね」
「ルイ兄様!」
当然、ルイ兄はアスプザットの兄妹とも仲がいい。養子として引き取られたのが、うんと小さい頃だからってのもある。
「久しぶり。三人は相変わらず仲が良くてなによりだ。ん? コーニーのアクセサリー、レラのとおそろいか?」
お、ルイ兄よく気がついたね。ロクス様も気付いたけど、ヴィル様は気付かなかったんだよなあ。まあ、ヴィル様ってそういう人だから。
ルイ兄に聞かれて、コーニーが嬉しそうに微笑む。
「レラと一緒に自分で真珠を狩ったのよ。それで作ってもらったの」
「ほう。じゃあ、二人とも、もう深度四に入ってるんだな」
「あら、レラは深度五よ」
「え?」
はっはっは。そうなのだよルイ兄。私はもう、単独で深度五に入れる身なのだ!
薄い胸を反らして自慢してみる。褒め称えるがよい。
なのに、ルイ兄ってば!
「そうか……義父上の心労が偲ばれるな」
おい。しかもヴィル様とロクス様まで頷いてるし! 酷くね!?
宴もたけなわ。そこここでそれなりに集まっての社交が始まってる。そりゃまあね。主役が十四歳の小娘ですからあ?
身内以外は祝いの為というよりは、この機会にペイロンに食い込もうって腹の貴族が多いよねえ。
大体、今日来てる家ってこのまま滞在して狩猟祭に参加する家ばかりだし。つまり、ペイロンと同じ王家派閥の貴族家だらけって事。
だからか、派閥違いの白騎士や白団長、黒騎士は肩身が狭そうだ。
「あれ……あそこにいるの、フェゾガンじゃないか? イエルとロルフェドもいるな。なんで?」
ルイ兄が不思議そうな顔でヴィル様に聞いてる。やっぱり、派閥違いの家の者がいると、変に思うよね。
しかも私のバースデーパーティーだし。普通、他派閥の人が来るなら狩猟祭を目当てに来るもんな。先乗りにしても早すぎる。
ルイ兄に聞かれたヴィル様は、凄く嫌そうな顔だ。
「……フェゾガンに関しては、後で教えてやる。一応表向きは、黒耀騎士団の魔の森における鍛錬の先駆けというところだ。ネドンとレロガット、それに白嶺騎士団団長は森の調査の為に来てるそうだ」
「調査……それは、今起こってる兆候に関してか?」
「ああ」
そっか。氾濫の話は、ルイ兄も知ってるんだね。次期ペイロン当主だから、当然といえば当然なんだけど。
ルイ兄は、何か考え込んでいる。
「そうか……白嶺が……」
「その辺りも、後で話す。その白嶺の団長がこっちを睨んでいるしな」
「ん? 何でだ?」
「……後でな」
さすがに言えないよねえ。私を引き取ると言い出して、当の本人に断られた挙げ句側に寄れないからだ、なんて。
こういう場だと、知らない人でも側に来たりする。でも、今回は前半伯爵が、後半アスプザットの兄妹ががっちり周囲を固めているので、顔見知り以外近寄れない状態です。
そんな中、白騎士達は果敢に近づいてきたけど、ヴィル様に追い払われちゃったよ。
そういや、今日は黒騎士が側に来ないね。あれか? 森に入れる深度がまだ浅いからか? 前にそんな事、言ってたし。
「レラ? どうした?」
「え? ああ、ううん。何でもない」
黒騎士が何を考えているかなんて、知らなくていい。今は親しい人と自分の誕生日を楽しもう。
パーティーはまだ続いているみたいだけど、未成年のお子ちゃまは先に奥へ戻されている。
本当は私とコーニーだけのはずなんだけど、何故かルイ兄、ヴィル様、ロクス様も一緒だ。
「伯父上から、側を離れるなと言われているんだ」
ヴィル様の言葉にびっくり。何か、警戒しなきゃいけないような事でもあるの?
私が聞くと、ヴィル様だけでなくロクス様まで苦笑してる。
「レラ、ヘリダー卿が君を狙っている事、忘れた訳じゃないよね?」
「忘れてませんけど、大丈夫でしょ?」
魔法では負ける気ないし、剣の腕もそこそこ鍛えている。見た感じ、白団長は典型的な魔法士で、鍛えているようには見えないし。
「それでもだよ。ヘリダー卿はユルヴィル家当主で、あそこは非公開の術式を多く持つ家でもある。油断は禁物だ」
そうなんだ……反省。
うなだれる私の隣で、ルイ兄の声が聞こえた。
「ちょっと待て。どういう事だ? 白嶺の団長がレラをって……まさか」
「ああ、違う違う。お前が考えているような事じゃないよ」
「じゃあ、どういう事だよ!?」
ルイ兄、ヴィル様に食ってかかっても何も解決しないから。ヴィル様も慣れているのか、片手でルイ兄を押しのけてる。
「ヘリダー卿は、レラの母方の伯父に当たる。それを盾に、レラを引き取りたいと申し入れてきたんだ」
「はあ?」
うん、ルイ兄が言いたい気持ちはよくわかる。この場にいる全員が、同じ思いだよ。
今の今まで放置してたくせに、今更なんだよ! って感じだよね。
「それに関しては、父上から面白い話が聞けた」
ヴィル様、人の悪い笑顔になってますよ。
「どうやら、ヘリダー卿の本当の目的はデュバル家にあるらしい」
「ああ」
「なるほど」
「そういう事なのね」
私とロクス様とコーニーは、ヴィル様のこの一言で理解した。つまり、私ではなく私が継ぐ家が欲しいという訳か。
でも、その辺りの情報がないルイ兄は一人首を傾げてるよ。
「いや、よくわからんのだが。何故、レラを引き取るのとデュバル家が関わるんだ? いや、レラがデュバルの娘だってのはわかっているが」
「一応、内々の話じゃあるが、レラがデュバルを継ぐ事は決定事項だそうだ」
「はあ!?」
「ついでに、この件は国王陛下もご承知なんだと」
「……どういう事だ?」
さすがに国王という言葉が出た時点で、ルイ兄の顔つきが変わった。やっぱり、一伯爵家の相続に国のトップが関わるのって、普通じゃないからね。
この場合、国王が承知しているってだけで、もう決定事項って事だから。たとえ実父があがこうとも、覆せない。
あ、それもあっての警戒なのか。
でもなあ。あの家が私を殺しに来るってのは、ちょっと考えたくない。親子の情云々ではなく、妾の子に激甘なダメ親父に、そんな事を考えて実行するだけの力量があるのかって意味で。
もし実家が何かしてくるのなら、多分背後には唆す誰かがいる。
まあ、そんな事、伯爵達は百も承知なんだろうけど。
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