作家の身近にはファンがいる
「お前ら、今週から十一月に入る。今月の末には期末テストもあるから気を抜くんじゃないぞ」
僕のクラスの担任が何かを言っている。
正直興味はないけど、成績(主に体育)に影響するから聞くフリだけはしなきゃいけない。
「それと、来週体育祭が控えているからな。頑張れよ。ぞれじゃあ、今日のホームルームは以上」
そう言って、うちの担任は教室を後にした。
体育祭か……。
一年の中で二個ある気が滅入る行事の一つ。
やりたくない。
そう思って机に突っ伏す。
「漣、今日もご機嫌斜めか?」
クラスの中では一番中のいい
「違う。てか、暁人は気が滅入らない訳?」
返事をするついでに顔を上げて、腕に顎を乗せる。
「俺はそこまで気は滅入らない」
「なんで?」
「屋上で本読めるから」
「こういう時だけ、素行不良って羨ましいよね」
暁人には帰り路でヤクザに絡まれた時に助けてもらった恩がある。
素行不良で成績優秀。しかも、読書家なので気は合うし、僕が素っ気なく話していても何も言及しないから、一緒にいて気が楽だ。
「それにしても、俺がBLにハマるとは思っていなかったわ」
「ちなみに、今回の新刊はどうでしたか?」
「エロシーン少なめでこんなにキュンキュンするんだね」
「いつもありがとうございます」
暁人にはもう一つ恩がある。
それは、暁人が僕のファンであるということだ。
それを知ったのは、助けてもらった時。丁度一年前だ。
〈一年前〉
「さっきは助けていただきありがとうございます」
孝は助けてくれた恩人に頭を下げた。
「別に良いって。調子狂うからむしろかしこまらないで」
「分かりま……分かった」
「それぐらいが良いよ。てか、お前って俺と同じ高校なんだな」
暗がりで孝からはあまり見えなかったが、よくよく見ると自分と同じ制服であることがわかった。
「何年生?」
「まだ高一です。えっとー、あなたは……」
「ああ、そういえば名乗ってなかったな。俺は暁人。お前と同じ高一だよ」
「そうなんですね!僕は漣孝。二組です」
「口調戻ってるぞ。俺は五組。また会うことがあったら、よろしくな」
「うん」
孝は友達がいなかったので、多少なりとも気安く接することのできる人が見つかってよかった。
「あ!ごめん、早く荷物取って来ないと」
よく見ると、暁人は手ぶらだった。
「ごめんね。ついてくよ」
「ありがと。向かいの書店だからそこまで急がな書くて良いよ」
丁度信号が青に変わったので二人は小走りになりながら信号を渡った。
「あ、すみません。さっきあなたに押し付けたバッグはどこにありますか」
書店の中に入ると、暁人は近くの店員に声をかけた。
「ああ、それならカウンターで預かってるよ。一緒に渡して来た本も一旦預かってるよ」
「ありがとうございます」
「暁人、本当にごめんね」
こっちに向かってくる暁人にもう一度頭を下げた。
「良いんだよ。それよりも、さっさと行こうぜ」
少しだけ暁人の頬が赤くなっていたことに孝は気がつかなかった。
カウンターに行くと、対応してくれた女性店員から少しだけ注意を受けた。
「まあ、きちんと帰って来てくれたのでよかったです。それで、後ろにいる子が絡まれてた子ね」
「本当にご迷惑おかけしました」
今一度孝は頭を下げた。
「別に良いのよ。それで、君はこれを買ってくの?」
そう言って、店員の人は暁人に本を差し出して来た。当時は駆け出しだった孝は、どんな本が好きなんだろうかと思って、遠視の特権を利用して覗き見た。
「〜〜!」
見ると、一番上に乗っている本は自分が書いた本だった。
「そうですね。あまりお金ないし、どれを買うか決めている最中だったのでもうちょっと悩んでも良いですか?」
それなら自分の本を買って欲しいと思うが、身バレはしたくないので、なんとかかんとか飲み込みながら成り行きを見守ることにする。
「そうだ。孝はさ、本って読む?」
「う、うん!結構読むよ」
思わず声が上ずってしまったが、なんとか取り繕えているようだ。
「そっか。なら選ぶの手伝ってくれない」
「いいよ」
「じゃあ、選び終わったら来ますね」
そう言って颯爽と立ち去っていく暁人の背中を追いかけた。
このお店は奥の方に文庫コーナーが固まっているみたいだ。そこまで来て、暁人は早速どれがいいか孝に聞いて来た。
「えっと〜、先に行っておきたいことがあるんだけどいい?」
「何?」
「耳貸して。あと、これ絶対他の人に言わないでね」
「いいけど。なんだよ」
「実は、僕が柳原出版で本を出してるコウなんだけど、僕の作品で良ければ、家に数冊あるからあげよっか?」
それだけ言い終わると、孝は耳から顔を遠ざけた。
対する暁人はめちゃくちゃ驚いていた。それもそのはず。暁人にしてみれば今日初めて知り合った同じ学校の同級生が作家で、しかも結構作風が好みだったのだから。
その驚きをなんとか飲み込んだ暁人はゆっくりと顔を上げ、思いっきり頬を叩いた。
「ふ〜、孝。今からお前のうちに行ってもいいか?ていうか、本当にお前がコ……それを書いたのか?」
暁人の指は件の作品を指していた。
「本当だよ。なんなら、明日と土日は打ち合わせとかがあるから、担当編集の人に会ってみる?」
流石に、ここまでの事を言っておいて嘘でしたということはないだろうと思った暁人は買おうと思っていたコウの作品を戻し、さっきまでの半分以下に減った本を持って、孝にこう言った。
「お前を信じるよ。でも、嘘だってことがわかったら容赦なく一発殴るからな」
「分かった。でも、このことは秘密にしておいてね。じゃあ、さっさと行こ。それ買うんでしょ?」
その後、孝の家に行った暁人は本当に孝がコウだという現実を目の当たりして、勢いでサインを頼んでしまったのは、また別の話だ。
***
「そういえば、まだお前に俺の想いを伝えてなかったよな?」
一瞬、BL小説の中の告白シーンを思い出してしまった孝は、違う違うと心の中で頭を全力で横に振った。
「孝、お前の作品って、少しだけ悲しいところがあるじゃん。なんていうか、少し寂しい、みたいな?」
「そんな感じする?」
孝自身、書いていて悲しいどころか、明るい感じで書いているつもりだった。なのに、短にいる読者は悲しいと感じているようだ。
「ああ……、誤解すんなよ。悲しいっていうよりも、少しのことで壊れてしまいそうな気がするって言ったほうが正しいかの?」
確かに、たまに貰うファンレターには、『優しい感じがします』や、『これ以外には考えられないような絶妙なコンビでした』などのコメントがあったりする。それがきっと、暁人の言う『悲しい』や、『少しのことで壊れてしまいそうな気がする』ということなのだろう。繊細とは少し違って、儚いとも少し違う。その間のような言葉がわからない。
「もちろん、そこがコウ先生の良いところだから構わないんだけど、どうしたらこんなふうに思えるのかが少し不思議で」
「……そうだね。でも、多分、それは、僕にも分からないよ」
いや、多分、僕の中では一つの答えがある。でも、それを認めたくないような気がして、だから、いつもはすらすら出てくる言葉を、一語一語よく考えて声に出しているのかもしれない。
「そっか。まあお前の中から自然とにじみ出てくるものが作品に現れてくるんだから、それを言葉にしろって言われても、結構無理だよな。それよりも、そろそろ準備しないと、一時間目の授業が始まっちまうけど、授業の準備はできているのか?」
時計を見ると、後二分で授業が始まるところだった。
「じゃあ、ロッカーに取りに行ってくる」
「おう」
暁人が手をひらひらさせて孝を見送った。動いていない方の手をみると、そこには次の時間の教科書があった。
それを少し恨めしそうに横目で見ながら孝は廊下へ出た。
素直な読者の反応が聞けて、新たな発見があったのだった。
「今日もこんにちは、コウくん」
「こんにちは。……その手に持っている黒いバッグはなんですか?」
放課後、いつも通り神谷さんと会って、いつも通り執筆するつもりで来たはずだった。
そのはずなんだけど、部屋に着いてすぐに神谷さんが笑顔で黒いバッグを差し出してきた。
「何って、この前持ってこれなかったゲラですよ。あと、言ってたやつを貰ってきました」
「いつもありがとうございます」
礼を言いながら神谷さんからバッグを受け取る。この前もらった時と同様にバッグが重い。それをひとまずテーブルの上に置く。
「〜〜〜ふー」
「んふふ。コウくんは持つの辛いのね」
「まあ、筋肉ないですし……」
そこであることに気が付いた。
「なんであんなに軽そうに持てるんですか?」
「学生時代は運動部に入っっていたからね。多少は筋肉に自信があるの」
神谷さんが運動をしている姿を想像してみる。
そもそも、神谷さんってなんの競技をやってたんだ?
足細いし、筋肉むきむきってわけではない。胸もそれなりにあって引っ込むところは引っ込んでいるけど、そのバランスはいい。
どの競技でもやっていそうな気はするけど、なんなんだろ?
「なんの競技やってたんだろ……」
「知りたい?」
「あ、声漏れてたんだ……」
真剣に考えていたら、思わず声が漏れていたらしい。
「で、どうなの?」
神谷さんが満面の笑みでこちらを見てきた。
「……はい。降参です。教えてください」
もっと考えたかったけど、情報が少なすぎて諦めることした。
「実はね、私女子テニスやってたの」
「ヘ〜……」
まあ、確かに髪は短く切っているし、言われたらそう見えなくはないんだけど、どうしてもこれぐらいの反応しかできない。
「何、その薄い反応は」
「いえ、そんな。意味はないです」
「そう。まあ、いいけど。ところで、新作の案はできたのかしら?」
「ラノベのやつですか?」
「そう。ラノベのやつ。前までの作品も私好きだったんだから、今回もあんな感じで行くの?」
いきなり仕事の話に変えるのはやめてほしいなと思いつつ、今日までのところで浮かんだ案を神谷さんに話そうか内心迷っていた。
最近思いついた話は、前作とはかなり違っている。
前の作品は異世界で気ままに旅をする話だったから、ゆるゆるとしていたけど、今回考えてきたのは結構喜怒哀楽の激しいキャラクターが多い。それに、旅をする話ではないので、前回の作品が好きな神谷さんからしたら少し物足りないかもしれない。
でも、言わないと何も始まらない。
言うことを決心した孝は、少し言いにくそうにしながら口を開いた。
「えっと、今回は前までとは違って、ギルドを舞台にした作品にしようと思っていて、なので、結構王道物になりそうな気がするんですけど、まあ、だいたいそんな感じです」
「へ〜、コウくんが、王道の路線を攻めるのか〜。何かあったの?」
「え?」
意外にも、神谷さんは興味津々だった。けど、そこに驚いたわけじゃない。
こうもあっさりとなにかがあった事がバレるという現実に驚いた。
「いや、だって、いつもは王道から少し逸れていたのに、がっつり王道者をやるなんて言うから、何か心境の変化でもあったのかなって」
確かに、この話を思いつくまで、あまり王道物をやろうとは思っていなかった。
「その理由は、恥ずかしいので聞かないでもらえますか?」
確かに思っていなかったけど、思いついたのには直接的には関係ないのかもしれないけど、原点となった作品の存在はあった。ただ、その作品が同じレーベルの先輩作家だなんて言えない。ましてや、その作品を読んだのが神谷さんから貰っている作品だなんていえない。しかも、「このネタいいね」と思ったのが小説を読んだ時じゃなくてアニメ版を見た時だなんて言えない。
仲のいい先輩作家さんから聞いた話だと、アニメ化は魅力的だけど大変らしいのであまりしたくない。
「まあ、コウくんがちゃんと書いてくれるならいいです。じゃあ、日曜日までのところできるところまで書いちゃってください。それまでの楽しみとして、何か光る作品がないか応募作を流し読みしているので」
「わかりました。神谷さんも頑張ってください」
「そうそう、私も頑張るけど、いい加減にラフ画の返事をしないとダメですよ。この前アズマ先生からお怒りのメールもきてましたし」
「あ……、すみません忘れてました。アズマさんには新キャラもこれで大丈夫だと伝えといてもらえますか?」
「わかったわ」
先週の日曜日、なんとか遅れていた分を終わらせ、大望のアズマレンのイラストを手にいれることができた。そのかわり、待ちに待っていたせいでずっと眺めていたので、本来ならできるだけ早くしなきゃいけない返事をし忘れていたのだった。
まあ、まだ発表前なので、学校にイラストを持っていくことはできなかった。だが、孝は携帯の写真アプリにデジタル版を落としていた。そのためか、今週一週間のスマホ使用時間の結構な割合を写真のアプリが占めているのはまた別の話だ。
「じゃあ、とりあえずキャラクターと話の展開だけ思いついた時でいいのでメモっておいて下さい」
「わかりました」
「まあ、こっちにかかりっきりで、ライトノベルのファンを待たせるようなことにならないでくださいね?ファンとしては待つの結構辛いんですよ」
「あ、はい」
「そして、私が栄養補給するためにも書いてくださいね」
こういう発言は神谷さんの口からたまに聞いている。この前の夏に至っては、その熱に拍車がかかり、途中から神谷さんも理性の枷が壊れ始めたりもした。
でも、こういう短にいるファンの声に救われているんだなと、最近はつくづく思うようになった。
デビューから一年半。
ここまで来ると、コンテストで受賞したことより、どれだけ自分の心の中を曝け出す事ができるかにかかってくるし、単純に面白くなかったら、まずは売れない。
そのためには、自分の思いの丈をぶちまけられる市場を作らないといけないし、何よりも、ふとした時に支えてくれる人がいないと、ぶちまける事に疲れてしまう。
僕の場合は、この業界に入れてくれた神谷さんや、だいぶ初期の頃に知り合えた暁人のようなファンだった。
「わかりました。できるだけ早く設定は考えておきますね」
「うん。よろしく」
その
そう思った孝だった。
「あ、そうだ」
四苦八苦しながら書いているBL小説と睨めっこをしていた孝は、神谷のその声で一時現実に引き戻された。
「コウくん、アズマ先生といつもの女の子から手紙が来てますよ」
「あ、はい。どっちも貰いますね」
そう言って神谷さんの手から手紙を取ろうとし……。
「あの、神谷さん」
「何?」
「なんで手に力が入っているんですか?」
手紙が側から見た限りだと一切縒れていないのに、神谷さんの手によって僕が取れないようになっている。
「いや〜、私も彼此一年半やってますけど、いつもコウくんが持って帰っちゃって、私見た事ないんですよ」
神谷さんが大体何を言いたいか察した。でも、片方はなんとなく神谷さんに見せたくないし、そもそも見られるのが恥ずかしすぎる。
「……片方は、見てもあまり楽しくないですよ?」
精一杯の事実を言うと、
「じゃあ、もう片方は見てて楽しいんですか?」
て言うのは目に見えていた。
「楽しいと言うより、僕が恥ずかしいです」
「それはそれで気になるんだけど、まずはアヅマ先生のから見ましょ」
どうやら、拒否権はないようだった。
大人しく神谷さんに従うとして、神谷さんが綺麗に封を解いて手紙を出した。
「じゃあ、私が読むわね」
「はい。でも、もう一つの方は黙読でいいですよね?」
「まあ、見せてくれたらいいですよ」
「わかりました」
これで、担当編集の前で死ぬことはないだろう。
「さて、読みますね」
コウ先生へ
お久しぶりです。二ヶ月ぶりでしょうか。
前回の新作から今回のまでの間が短すぎて、私はめちゃくちゃ忙しかったです。
さて、そんなことは、今更愚痴を吐いてもまだ半年ぐらいは続くので、もう諦めました。
それよりも、建設的な話をしましょう。
キャラデザについてなんですが、できるだけ、もうちょっとわかりやすく頼めますか?
なんですか、この前の新キャラだって、『髪……青、蒼、藍。申し訳ないんですが、アヅマ先生に一任してもいいですか?』て、髪の色をキャラデザで聞かないでくださいよ。
私だって、めちゃくちゃ悩んで決めて、送った後もハラハラで。
なのに、なんで二週間立っても返事がこないんですか?
神谷さんからは、「生きている」としか言われてないんですけど。
まあ、それもまだ良いんです。でも、お願いですから、この透明感をフライさんみたいに出して欲しいとか、ほかの絵師さんと比較するのだけはやめてくれません?私も一応プロとして絵を描いているので、比較はやめてください。
作品も、良いところなですから、死なないでくださいよ。
アヅマレンより
「……」
「……」
「なんですか、これ?」
「アヅマレン先生から、僕へのお説教です」
まあ、この手紙のやり取りが何回もあったので、僕は慣れているだろうけど、一度も見たことなかったら、便箋数枚にこれが書かれていたらびっくりするのか。
「まあ、アヅマ先生はいいんですよ。問題はファンレターの方ですよね」
どうやら神谷さんの中でアヅマレンさんの手紙は、ファンレターに入らないらしい。
「じゃあ、失礼します」
神谷さんが封を切ると、今まで抑さえられていたせいか、封筒の口が一気に開いた。中から出てきたのは、数十枚に及ぶファンレターだった。
神谷さんは僕の隣で少しげんなりしている。だから、「黙読でいいですよね?」って聞いたのに。
そう思いながらも、初めの方の巻からファンレターをくれているこの人には感謝しなきゃいけない。
とはいっても、性別が女性で僕と同じ高校二年生、僕と同じ地域に住んでして、口下手だしシャイだけど、文字で表現するのが得意。と言う情報しかわかっていない。
あとは名前が、
「にしても、これは、なんというか、最早ラブレターよね」
「ブッ。な、なんてこと言うんですか」
思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
「いや、別に、コウくん宛のファンレターはコウくんの作品へのラブレターみたいな物なんですから、別におかしなことは言ってませんけど」
「そ、そうですね……」
確かに、神谷さんは間違ったことを言っていない。
でも、言い方というものがある気がするんだけど。
「ていうか、よくまあ、こんなに長々と感想をかけますよね」
「そうですね……。本当に、東さんには何回も支えられてきました。新刊を出してから二週間以内にはいつも書いてくれているみたいで、逆に、来るのが遅かったりすると心配になっちゃうんですよね」
「まあ、作家なんて安定しない職業なんだから、一度挫折して何も手がつけられなくなったらおしまいだし、この手紙みたいな心の支えも必要よね」
そう。まだ、学生だから心配せずに伸び伸びとやっているが、これを生業として生きて行くとなると、新作を出せない時に、何かしらの心の支えが必要になってくる。
「そうは言っても、いつこの読者があなたの元から立ち去るかはわからないので、継続して買ってもらえるように作品を作ってください」
「あ、はい。わかりました」
何故だかムードを一気に崩されたように感じた孝だったが、ファンレターに込められた思いを受け取り創作意欲に燃えていた。
***
カーテンを閉め切った暗い部屋の中で、黒色のパーカーを着た少女が椅子に体操座りをしていた。机の上にはパソコンが置かれていて、数分前からずっと同じ画面だった。
「もう。コウ先生はちゃんとしてくれないとダメなんです。私がイラストを書いたりするのに、絶対資料は必要なのに〜〜〜」
アヅマレンは自室でとあるメールを見ていた。
それは、ファンレターという名の説教文書に書いた、孝先生への質問だった。
「もう。孝先生の作品は素晴らしいですし、そのイラストを担当させてもらっているので、一ファンとしては嬉しいのですが、イラストレーターとしてはあのキャラデザ資料をディスらずにはいられません」
そう言いながら、メールに返信を入れ、席を立って大きく伸びをした。
一番上に羽織っているパーカーを脱いで、カーテンを勢いよく開けた。
「クゥッゥゥ、眩しい……」
勢いよくカーテンを開けたことを後悔しながら、ベッドの上に移動して、東蓮はいろんなイラストについて書かれた本を読んでいた。
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