冴えない彼女になった年上ヒロインの物語

園田智

冴えない彼女になった年上ヒロインの物語


「えっ。詩羽まだ倫也に告白してなかったの?」


 人に話しかけておきながら、その視線は下を向き、右手はせっせと一つの美麗なイラストの着色の作業をしている金髪美女。

 その服装は見慣れたジャージ姿だけど、僕たちにはまだ聞きなれない言葉遣いをしているのはまさに絶賛大人気イラストレーター。


 澤村・スペンサー・英梨々。


「そんなことを今になって掘り返してどうなるというの英梨々?」


 人の問いかけに見向きもせずに眼前のパソコンを見て作業をしている黒髪ショートカットの黒髪美女。

 その佇まいは話しかけて来る金髪美女よりもしっかりとしており、年上としての雰囲気を、お姉さんキャラとも言える、いや、もうお母さ……。ではなく、圧倒的お姉さんキャラを彷彿させる見慣れたポジショニング。でも、その言葉遣いはやはり僕たちにはまだ聞きなれないこれまた絶賛大人気作家兼、シナリオライター。


 霞ヶ丘詩羽。


 ここは、東京某所の高層ビルの一角の一つ。

 二人のいるとっても大きな部屋から見える窓の外の夜景はキラキラと東京の街々を照らし、素晴らしい景色となっていた。

 そして、そんな夜景に見向きもせずに、部屋にはパソコンのキーボードを叩く音と、液晶タブレットにペンを走らせる掠れた音。

 そして、不意に始まった思い出話が響いていた。


「だって、それじゃいつまでたっても根暗女のままじゃん」

「あら、ろくに彼にキスもあなたの言う告白も、さらにキスのひとつもできなかった幼馴染負けヒロインが何を言っているのかしら?」

「どれだけキスっていうアドバンテージを持っているか知らないけど、私は告白だけはしたわよ」

「あれが告白というのかしら?」

「まるで見ていたかのような言い草ね?」

「えぇ、だってここに……」

「なんで、そこでラノベが出て来るのよ!」

「あら、私としたことがなんでこんなものが、じゃあこれね」

「なんで、私の画面に映画の動画が送られて来るのかしら?」

「あらあら、これまた私としたことが〜」


 二人ともお互いに視線を合わせず、作業をしながら話していた。(大事なことだから二度言いました)


「まぁ、そりゃ二階からこっそり見ていたからに決まっているでしょう。ちょうどあの時彼女もお風呂に行くと言って作業を止めていたのだから」

「そうだったの」


 少し前の話。それはまだこの二人が今みたいになる前のお話。

 一つの大切な彼の、かけがえのないサークルのヘルプで入っていた時の思い出。


「それで、そんなシーンを見ておきながら、なおさらなんで詩羽は言わなかったのよ」


 自分と彼の最後の言い合いを見ていられながら、いまだにへこたれも、激昂もしない英梨々。

 そんなことはわかっていたけど、それでもあまりこの話をしたくなくてそうやって話をそらそうとしていた詩羽はもうそんな小細工はやめて、正直に話すことにした。


「だって、もうあの時には私たちの居場所はなかったでしょ?」

「まぁ、そうね……」


 そう、あの時には私たちが想っていた彼には。

 あの彼には、大切なたった一人のヒロインが。

 メインヒロインという存在がいた。


「だから、私の出しゃばるようなスペースはなかったのよ。ましてや十年以上の関係を持っていたあなたがあんなこと言って彼は感極まっていたのだから。邪魔したらダメなことくらい、私にだってわかるわ」


 十年以上前からずっと想っていた彼女が、今でも自分のことを想ってくれていてくれたからこそ、そんな彼の気持ちを知って、彼女は身を引いた。

 そんな彼女の最後のいたずらで十年以上の想いが溢れたあの時の彼のもとへ行けるような私のスペース。いや、そんな勇気は私にはなかった。

 だって、私はたかだか数年レベルの付き合いで、幼馴染のような運命的な出会いでもなくて、彼が恋していたのは間違いなく私の作品。

 幼い時の彼女のように、彼は私のことを好きになったことなんてたったの一度もないのだから。


「なら、今行けばいいじゃない」

「えっ?」


 二人とも視線は合わせず……には作業できなくなっており、英梨々は描いていたイラストから椅子を回転させて詩羽の方へと向け、詩羽は眼前のパソコンから英梨々の方へと視線を向けていた。


「何を言っているの、英梨々。あなたお酒でも回っているの?」

「あいにくね。今日はまだひとつも開けていないわ」

「いつも、ほろろよい一つで出来上がっているのに、なんで今日は飲んでないのよ」

「うるさいわね」


 今まで飲んでいた夜のお供エナジードリンクからお酒に変わっていた二人であったが、何故か今日の英梨々はそんな今のお供ほろろよいではなく、以前からの旧友レッドブルルを飲んでいた。


「まぁ、今日はどうしても寝れないから飲んでなかったのよ」

「まさか、またイラストが上がってないとか言わないでしょうね?」

「そっちのイラストはすでに町田さんに送ってる。今やってるのは同人のほうよ」

「あなたいつもそっちはギリギリね」

「ルーティンみたいなものよ」

「それで、そのルーティンはこなさなくてもいいのかしら?」 

「えぇ、それ以上に大切なことができたから」

「それは、あなたの同人の作品を創る手を止めるほどに?」

「そうね。詩羽も自分の作品を止めるほど大切な問題だからね」

「それは、あなたが話しかけてきたからよ」


 なんとか、視線をパソコンへと移す。


「なら、早く続きを書けばいいじゃない」


 しかし、その手は動くことはなかった。


「あいつのこととなるとほんとポンコツなのね詩羽って」

「彼については自分の方が上みたいな発言が気にくわないわね英梨々?」

「だってそうじゃない。かたや告白して想いを言ったものと、告白もせずに急にキスだけしてそのあと特に何もなかった意味不明キャラではないもの」

「あら、やはり生粋のイラストレーターね英梨々。そうやってフラグを残しておくことで主人公がヒロインに振られた時にメインヒロインとして復活するのよ?」

「それで、その主人公を振るヒロインってのはいつになったら出てくるのかしら生粋の物書きさん?」

「そうね。あと数年もすれば今までの鬱憤が積み重なって……」

「そう。なら参考までにこの間そのヒロインと彼の今について話した夜から朝にまで及ぶノロケ話のことを教えてあげましょうか?」

「…………嘘よね、英梨々……?」


 英梨々は自分のスマホを操作して、LIINE画面の通話履歴を見せる。そこには数時間の電話履歴が残っていた。


「それで、あなたの構想ではいつになったら二人は別れるのですっけ?」

「それは……」

「ねぇ、詩羽」


 いつの間にかいつもの定位置から移動し、詩羽の座るソファの隣に腰を下ろす英梨々。


「あなたは今でもあの時のことを悔いているのでしょう?」

「なんでそうなるのかしら英梨々?」

「それは、これを読んでいればわかるわよ」


 それは詩羽のパソコンのそばに置かれていた小説。『世界で一番大切な、私のものじゃない君へ』


「詩羽の最近の文章がそう言っている気がしたの」

「そ、そんなこと……」

「昨日あんたがソファで寝てから、今の小説を読ましてもらったの。そうしたらまさにそんな感じだったわ」


 そう、昨日も今日みたいにここで『世界で一番大切な、私のものじゃない君へ』の続編を書いていて、途中で眠くなり、なんとかキリのいいところまで書いて、いつもみたく気を失うようにしてソファで寝てしまっていた。

 だから、今朝起きて自分がとんでもなく気持ち悪い文章を書いていることに気づき、削除していた。


「さすがにあなたと私の仲でもやっていいことがあると思うわよ?」

「なら、私の知らないうちに同人のプロットに彼と自分のリア充ネタを仕込むのやめなさい」

「あら、そんなこともあったかしら」

「そんなことしてるから、こうやって問い詰められるのよ」


 英梨々の言うことは全て正しかった。

 彼女が席を外した隙に何度も彼とのそういう話を仕込んだ。そして、いつか気づかないうちにその作品が出来上がったらと祈っていた。

 しかし、そんなことはなくていつもバレて消滅していた。


「どうして小説にしないの?」

「あんな話、小説にできるとでも言うのかしら?」

「確かに、彼のアレがどうとか、詩羽のあれがどうとか、そういうところをなくしたらの話だけど」

「そうでしょう。だから小説ではできないのよ」

「でも、恋するメトロノームはそうだった」

「それは……」

「あの物語はまごうことなき彼と詩羽の物語だった」


 霞ヶ丘詩羽。いや、霞詩子の処女作『恋するメトロノーム』その青春物語は実は作者の乙女心を文章にしたようなものだった。

 そんな恥ずかしい黒歴史を知っているのは彼女の身内の一握りだけだった。


「あんな恥ずかしい作品。二度と書けないわよ。若気の至りよ」

「いいや、違う」

「なによ……」


 こっちをじっと見つめてくる英梨々に詩羽も困惑してしまう。

 そして、しばらく見ていたかと思えばまた視線を外して話し始める。


「見て見たいのよ。彼と詩羽のあんな絵空事を……」

「な、何を言っているのかしら?」

「詩羽はね。妄想ではなくて、現実として見たいのよ。その若気の至りという名の絵空事を」

「英梨々。二次元は現実じゃないのよ。何を言っているの?」

「そうね。私の描く同人は所詮二次元だし、ただの紙よ。それでも見たいんでしょ?」


 いつからこんなにも弱くなってしまったのだろう。

 今までならこんな言葉で負けることはなかったのに。

 いや、今でも負けることなんてない。私たち二人で描いている小説の話になったって、議論で負けたことはない。

 でも、彼のこととなると。

 私たちの恋した彼のこととなると私は心のどこかで思ってしまう。

 自分よりも彼女の方が彼に惹かれていたと。彼女に負けていたと……


「実際に詩羽の目で彼とのもしもを見て見たいのでしょ? 妄想や文章じゃなくてその世界を、その未来を」


 なんで英梨々にそんなことがわかるの? なんては思わなかった。

 だって、彼女だって恋い焦がれた未来なのだから。

 彼女だって渇望した世界なのだから。

 だから、私が彼女に真実を告げたあの夜。泣いて、泣いて泣いて。そしてまた泣いて。そして、やっとのことで認めた現実だったのだから。

 その上で彼女は彼に想いを告げた。

 たとえそれがいじわるな質問だったかもしれない。遠回りなものだったかもしれない。でも、それでも、彼女は彼に告げた。


 “ずっと好きだったよ”


 そう告げたんだ。

 自分だけ、あの時から成長できていない。

 いや、抜け出せずにいた。

 あの、窓越しに見た景色から。


「いまさらね」

「そうね」

「彼にはもう大切なヒロインがいるのよ?」

「そんなの、私が言った時からいたわよ」

「私が言って、彼女に怒られないかしら?」

「大丈夫よ。絶対負けるから」

「あら、あなたと違って私には女性としての魅力がたくさんあるわよ?」

「そうね。あれからさらに脂肪がついたわね詩羽?」

「あらあら、そうやって女性の魅力を脂肪と言い切ってしまうあたりに女の嫉妬しか感じないわね英梨々」


 その会話はいつかの二人を思い出させる。

 そして、思い出させるのはそんな二人だけでなくて、そうやって言っているといつも止めてくれた彼のこと。


「倫也ならなんていうかな?」

「倫理くんならきっと私のことを擁護してくれるわ」

「そうならいいわね詩羽」

「そうね、英梨々」

「それじゃあ」


 突然立ち上がる英梨々。そして、向かう先はいつの間にか動いていたプリンターの元だった。そして、ちょうど英梨々がプリンターの元へ着いた時にプリンターの音が消える。


「がんばりなさいよ。詩羽?」

「え、英梨々?」


 そう言いながら、三十枚ほどのプリントされた紙の束を私に押し付けてくる英梨々。そこに描かれていたのは……


「詩羽が想い描いた。恋い焦がれた世界よ」


 そこにはいつも消されていたはずの私と彼のIFの世界。


「前だけを見ていく。そうあの日言ったのはあなたよ、詩羽?」


 目の前の金髪幼馴染ヒロインは、金髪ツインテール幼馴染ポンコツヒロインではなかった。


「小賢しいわね……」


 そして、そんな金髪幼馴染ヒロインの軽い挑発を受ける、黒髪ショートカット年上ヒロインも、黒髪ロング年上根暗ヒロインではなかった。


「きっと彼は私のものになるわ」


 深夜二時を回った東京高層ビルの一角で一つの乙女の決意が決まった。



 ここは東京某所。あるアニメによって聖地となった……。いや、ただの。どこにでもあるチェーン店の一つのお店。

 俺ともう一人の女性は向き合って座っており、かたや一つの何百枚にも及びそうな紙の束を見ており、もう片方はドリンクバーのコーヒーを飲んでいる。


「それで、これはなにかな。詩羽先輩?」

「あら倫理くん。せっかく私が新しい企画を持ってきたのに、そのいい草はないのではないかしら? 仮にもあなたの過去の女だった私からのいわばラブレターなのよ?」

「俺の師匠だった女性ね。別に肉体的関係は何もないからね??」

「あら、誰もそんなこと言ってもいないのに、肉体的関係に話を持っていくあたり、あなたも大人になったのね倫理くん」

「そんなレーティングの話してないから!」


 詩羽はいつものように一人の男性をいたぶる。

 その関係はあの時からずっと変わらない。

 いや、初めて会ってあの決別で一回変わってしまったものの、それでも、この二人にとって一番落ち着く関係性。そんな関係になってから変わっていない。

 そんな空気がとても心地いい。彼女にとっても彼にとっても、他の誰かさんたちにとっても……


「それで、どうなのかしら社長さん?」

「それは……」


 詩羽の質問に答えを悩ませている、黒髪、黒眼鏡、黒服装の男性社長。兼、生粋のオタクは一時間ほど前から目の前の紙の束と格闘していた。

 いや、黒っていっぱい言ったけど、別に闇属性も、ヤンデレ属性もないからね? どっかの誰かに付与されてるわけでもないからね?

 見た目が変わった美女二人に対して、あの頃から大して見た目が変わっていない残念男子オタク。


 安芸倫也。


「倫理くんは何に頭を悩ませているのかしら?」

「そんなの、この性的描写に決まってるでしょう!?」


 そう言いながら倫也は詩羽の書いてきた物語の主人公と年上ヒロインがそういうことをしているシーンがご丁寧に事細かく書いてあるページを指差しながら言う。


「あら、私たちの年齢はとっくに十八を超えているわ」

消費者どくしゃのことを考えようよ詩羽先輩!」

「あら、そう言うのなら今こうしてただ、男女二人が喋っているだけなのに机下から舐めるようなアングルで私のタイツ越しの足を撮っているのはどういうことかしら倫理くん?」

「そんなことしてないから! そんなの詩羽先輩の勝手な妄想だから!!」

「あら、そうかしら。だってあの時だって……」

「そう言いながらタブレットで動画見せようとしないで!!」

(気になる方は(以下省略))

「それで、そのシーンがあるからダメならなぜ、いつまで経ってもボツ発言も、リテイク発言もないのかしら倫理くん?」

「だからさ……」


 目の前のいじわる年上お姉さんは不敵に笑いながら俺の困った表情を覗き込んでくる。

 そして、俺もそんな先輩の表情を知りながらいまだに嘘でも「これは違う!」とは言えなかった。

 だって、名作なんだもんこれ……

 彼女の処女作『恋するメトロノーム』。そして次作『純情ヘクトパスカル』。そして、柏木エリと霞詩子。もとい、英梨々と詩羽先輩の合作のゲーム作品たち。そして、大人気小説『世界で一番大切な、私のものじゃない君へ』などの霞詩子の全作品を知っている。

 全作品の熱狂的信者であり、その霞詩子という一人のクリエイターのすごさ。そして進化を知っている。

 会社なんてやってるけど、結局はただのオタクの俺が……


“こんな神作品を否定できるはずはなかった”


「ねぇ、倫理くん」

「な、なに。詩羽先輩……?」


 すっと甘い香りのような、優雅な香りが鼻をくすぐる。

 そして、その後にやっと詩羽先輩が自分の耳元に顔を近づけていることに脳が知覚する。


「私と新しい世界を知りたくない?」

「ひぃぃぃぃい!」


 身体中を寒気のような、身震いが襲いかかる。それはまごうことなき大人の魅力。

 悪魔の、魔性の魅力とも言える詩羽先輩の進化……


「どうして、そんな童貞みたいな声を上げるのかしら倫理くん?」

「そんなの、目の前のいじわるな先輩が男心をくすぐるからだよ!」

「あれからずいぶん正直になったのね倫理くん。それじゃあ、そのまま新しい世界を二人で開きましょう?」

「やめて! ケータイでどこかに予約入れるようなことやめて!!」

「あら、どうしてそんなに拒むのかしら? あぁ、そうね。そういえば、あなたにとっては新しい世界ではないものね」

「新しいから! そんな世界知らない!」

「え、だってここで……」

「だから、小説を出すなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

(気に(以下省略))

 結局、二時間を超えるお店滞在によっても最終決断ができず、精神的にも年齢的にも大人になってしまった俺たちにはこれ以上のドリンクバーのみでの滞在はできなくなり、渋々詩羽先輩の仕事場であり、自宅へと向かうことになった。


 いやほら、俺の家に来たらまずいでしょ? だって、俺のものだけじゃなくて、もう一人の住人のものもあるわけで、そんなところに知らない間に女性なんて呼んだら、ほら、匂いがどうとかって……

 いや、なんでもないです。



 そして、場所を移して再び会議?が始まる。


「綺麗な夜景ね、倫理くん?」

「今集中してるから……」

「少しくらいお話に付き合ってくれてもバチは当たらないと思うわよ?」

「だから、集中して……」

「ほら、これでも飲んで休憩しましょ?」

「だから、集中させてよ!!」


 わかる人にはわかるデジャブな感じを醸し出しながら、ここは詩羽先輩の現在住んでいるマンションの一室。

 外の夜景を見ながら作業のできるなんとも大人気クリエイターにだけ許された場所で俺は詩羽先輩と横並びになって、それぞれ席に座り、ずっと俺は先輩のあげて来たプロットを読んでいる。


「さぁ、シャンパンを二人で休憩がてら飲みましょう?」

「まぁ、今なら飲めるけど……」


 あの時は“ジンジャーエール”なんて偽ってたくせに……。と勝手な憶測をたてながら、先輩が渡してくれているシャンパンの入ったグラスを手に取る。


「乾杯」


 詩羽先輩の掛け声とともに、俺と先輩はそれぞれシャンパンの入ったグラスを相手のグラスに近づける。

 そして、部屋にはグラスの合わさる音が響く。


「おいしいわね」

「う、うん。おいしいけど、一気に飲み干すの……?」


 詩羽先輩は優雅な空気に、優雅な立ち居振る舞いに反して手に持ったグラスのシャンパンを一気に飲み干し、次のシャンパンをグラスに注いでいく。


「えぇ、倫理くんと飲めるのが嬉しくてつい一気に飲んでしまうのかもしれないわ」

「そ、そうなんだ。でもさ」


 そう、その男勝りな。潔さのようなものがあの人に。


「なんか、だんだんと紅坂さんにそっくりになってきたね」


 かつて、俺たちの宿敵。そして、今なおその権力と世界と想像力で猛威を振るい続けている超絶毒舌女性にして、スーパークリエイター。


 紅坂朱音。


 そんな、過去でも、今でも俺たちの宿敵である彼女のことを俺は思い出す。

 そんな彼女に詩羽先輩もある時はなめられ、ある時はこてんぱんにされた。

 でも今は違う。これは俺の想像かもしれない。いや、限りなく確信だけど。

 もうそんな差なんてない。詩羽先輩はあの宿敵。怪物と肩を並ばせていた。だからこそ、今の立ち居振る舞いが彼女に重なるように見えたんだ。


「それは気にくわないわね倫理くん」

「えっ? 詩羽せんぱ……いっ!?」


 俺の手の甲を思いっきりつねってくる詩羽先輩に俺は四苦八苦する。


「私のどこがあんな女に似ているのかしら、倫理くん?」

「いや、だから酒癖……、いや、なんでもないです! なんにもにてません!!!」

「えぇ、きっと倫理くんの勘違いだわ」


 とはいうものの、そうやって俺に反抗しながらも次のシャンパンをまた自分のグラスに注いでいく。


「ほら、倫理くんも付き合いなさい」

「待ってよ、もう少しだけ読ませてよ」

「いつまで読むのかしら」

「後少しだから……」


 シャンパンの入ったグラスではなくて、赤ペンを右手に持ちながら俺は先輩のプロットに修正箇所を記していく。

 あくまで作品として作り上げる時に修正が必要なところであり、決して作品の誤字脱字などの修正ではない。というかそんなことは今になっても俺には安易にはできない。

 だって、一つでも間違えたら先輩のお叱りは前よりもひどいんだもん……


「今、私のこと根暗毒舌最低女って思ったでしょう?」

「人の心を見透かしたようなことを言わないで!」

「あら、ということは本当にそんな風に思っていたのね」

「思ってないから。俺なんかが先輩のプロットに修正入れるなんて今でも末恐ろしいって思っていたくらいだから!」

「今でも、そんな風に思うの。倫理くん?」

「当たり前だよ。いつまで経っても霞詩子は俺の憧れだよ」

「そう」


 先輩はグラスに入ったシャンパンを見つめながら、そう呟く。

 そして、プロット修正が終わり、先輩が注いでくれていたシャンパンをご馳走になる。


「それじゃあ、先輩改めていただきますね」

「えぇ」


 くいっと飲んだそのシャンパンの味は今まで飲んできたものとは段違いに美味しくて、先輩がぐいぐい飲んでしまうのも裏付ける一本だった。

 でも、アルコールが結構強いのか、俺にはまだこのお酒をぐいぐいいけるほどのものでもなかった。


「ほら、どんどん飲んで倫理くん」

「いや、結構強いからちょっとまってよ」

「何を言っているの。これくらい飲めるでしょう?」


 そんな風に先輩からお酒を注いでもらえるなんてそうそうないから、少し厳しくはあるけど、俺もつい飲んでしまう。


「あら、もうなくなってしまったわね」

「そりゃ、こんなスピードで飲んでたらなくなるよ」

「ちょっとまってて」


 詩羽先輩は立ち上がり、キッチンの方へと向かうと新たに一つのシャンパンを持って来てその封を開ける。


「先輩、まだ飲むの?」

「何を言っているのかしら倫理くん。まだ一本目よ?」

「そんなに飲んだら、作品の話できないないじゃん!」

「そんなのは明日でもいいでしょう?」

「いや、それだと俺、今日泊まる場所ないんだけど?」

「ここに泊まればいいじゃない」

「いや、それは……」


 たしかに、明日は特に会社の要件もないし、彼女との予定も入っていない。

 それこそ、もしも今日のこの話がもつれたりしたら明日もう一度会って、話そうとまで考えていた。

 でも、だからって詩羽先輩の家に泊まろうとは考えていなかった。

 先に言っておくが、「家まで来ていて、お前は何を言っているんだ?」という言い分は受け付けてないからね。


「あら、別になにもやましいことはないでしょう。サークル時代だって同じ屋根の下で何度も夜を共にしたでしょう?」

「そうだね。一緒に徹夜でゲーム製作したり、別々に寝たりもしていましたね!」

「なら、今日だって構わないでしょう?」

「いや、でも、ほら……」


 それでも、あの時とは違うことはいろいろある。

 まず、今俺たちにはお酒が入ってる。だから、ギャルゲーやラブコメアニメあるあるのお酒ハプニングとか起こるかもしれないわけで。

 それこそ、どこぞの温泉で縛り上げられた時みたいな……

 あと、ここは詩羽先輩の自宅。

 つまり、この部屋、それどころか家に入った時から女性特有のあまい香り?が漂っているわけで、そんなオタクとして青春時代から今まで成長してきた俺にはこの空間はいまだに刺激が強いわけで。

 そして、なによりも。

 俺にはもう心に決めた人がいるわけで……


「そういえば、こんなのどうかしら?」

「ん?」


 詩羽先輩はおもむろに俺が修正した紙の束からある一枚の紙を取り出して俺の使っていた赤ペンを使って線を引いて、新たに文字を書き入れていく。それは、新しい物語の分岐点だった。そして、その内容は。


「絶対ダメ」

「あら」


 先輩が全ての事象を書き終わる前に俺が先輩の右腕を掴み、その書く手を止める。

 いや、だって、『実は主人公は別のヒロインとできていて、それから二人は毎晩のように』って書いていて、そのあとの展開が十八禁にならないわけがなかったから。


「どうして止めるのかしら倫理くん」

「そんなゲームはうちでは作れない」

「なら、別のところへ持って行こうかしら」

「対象年齢的が厳しいだけで、修正さえしたら逆にうちでしかこの作品は作ることができないよ。詩羽先輩」

「倫理くん。どうして、そこまで言えるのかしら?」

「そんなの、霞詩子のことを他のどの会社よりも知っているのは俺たちの会社だからだよ」


 たとえどんな有名、ビックタイトルな会社が霞詩子のことを賞賛し、一緒に物作りをしようとしてもきっと彼女の本気を引き出せる。今の彼女と同等のレベルで一緒に物作りをできる会社はないだろう。

 でも、何度も一緒に思案し、賛成したり、時には全く否定したり、そして、お互いに決裂したり。そうやって固められた経験を持っているうちの会社ならきっと霞詩子の全力を受け止め、そして、共に同じレベルで仕事ができるだろう。


「大きなこといって大丈夫、社長さん?」

「あぁ。霞詩子のことなら誰にも負けない自信がある」

「私のどこなら負けないの?」

「そりゃ、文章構成や、物語構築。そして、なによりも詩羽先輩の描く圧倒的世界観のすごさに対する評価だよ!」

「嬉しいこといってくれるわね。倫也くん……」


 俺の右の腕にゆっくりと柔らかな感触と心地の良い体温。そして重みが加わる。


「懐かしいわね。こういうの……」

「は、初めてとは言わないけど、そんなにしてないからね!」

「そうじゃなくて、こうやってあなたから褒めてもらうの……」

「あっ、えっと。そうだっけ……?」

「えぇ、長いことなかった気がするわ」


 かつて詩羽先輩が大学時代一回生にして大人気ゲーム『フィールズクロニクルシリーズ』のシナリオを手がけきって、その賞賛をしてから明確なものはなかった気がする。それから、俺たちは進路のことや、その後の会社のことで忙しかったし、先輩たちともそれ以来簡単に連絡がつかなくなってしまった。

 英梨々との合作『世界で一番大切な、私のものじゃない君へ』が世に出回った時でさえ、すぐに読んで、誰よりも周回を繰り返した自信はあったけど、それを誰よりも伝えるべき人に、伝えないといけない人には、軽い社交辞令のようなものメッセージしか送れなかった。


「私と英梨々の自信作のレビューがたったあの程度だった時は、どうしてやろうか二人で丸一日考えたものよ?」

「そんな裏話聞きたくなかったな……」

「でも、それもあなたの彼女が翌日すぐに数十KBに及ぶ文章で感想をまとめて送って来てくれたから大惨事にはならなかったわ。感謝することね」

「そ、そうだね」


 そういえば、詩羽先輩たちに言えなかったけど、いつもそばにいれくれた彼女にはあれから毎日のように感想なんかをこぼしていたな。


「それから毎日のように来たから、いつになったら止まるのか逆に不安になったけどね」

「それは、それは……」

「でも、やっぱりあなたの口から聞きたかった」


 いつの間にか腕への重みはさらに強くなり、さらに右腕には先輩の腕がぎっしりと絡み付いていた。


「そ、それなら先輩が満足するまで言うから、ちょっと離れてもらえませんか……?」

「それならやっぱり泊まることは避けられないわね?」

「ちょ、ちょっとまって……」


 携帯を取り出して、連絡を入れようとする。

 しかし、そんな俺の動作の邪魔をする詩羽先輩。

 子供が遊んでもらえないことに不機嫌になり、ダダを込めるようにして俺の行動を阻止する。


「せ、先輩。連絡だけさせてください……」

「あなたの彼女は一日連絡がなくなるだけで怒るようなお腹真っ黒ヤンデレなのかしら」

「そんな、闇属性進化してないから」

「なら、今日だけは私のことだけを考えなさい。倫也くん」

「わ、わかりました……」


 取り出した携帯を机の上にそっと置くと、先輩は満足したようにさらに抱きつく力を増していく。


「せ、先輩だから、これ以上は……」

「うるしゃい」

「せ、先輩…………?」


 先輩の滑舌が明らかに回っておらず、先ほど持って来ていたシャンパンを見ると知らないうちにほとんど中身が消えていた。


「先輩、どれだけ飲んだの!?」

「少しよ、す、こし……」


 一本目のシャンパンもほとんど先輩が飲んでおり、二本目に限って俺は一口もつけていない。つまり、約二本に近いシャンパンを先輩が飲み干しているようなものだった。

 そして、先輩はだいぶ前になるが合宿の時に英梨々が持って来ていたウイスキーボンボンで簡単に出来上がっていた。

 それから数年が経ち、ある程度お酒にも抵抗ができているとは言え、もともとの耐性が弱いことは変わらない。つまるところ、先輩がすでに酔っていることは確信できるわけで。


「せ、先輩。もう今日は寝ましょう?」

「ま、まだ、プロットの話してない」

「最初からやるつもりがなかったことはこの際聞きませんが、それでも、今日はもうやめておきましょう?」

「ダメ。答えを聞くまで私は寝れない。倫也くんの返事を聞くまで寝ない」

「わ、わかりましたから、一度一人で座ってください!」


 さっきから抱きつく力は変わらず、そして、半ば俺にもたれかかるように座っているため、流石に俺もこれ以上この体勢は、精神的にも肉体的にも厳しいものがあった。

 先輩の返事を聞く前に俺は先輩を自分から離し、机に先輩の体を預ける。


「この作品は絶対にうちの会社で作ります。そして、そのためにこれから先輩にはまた一緒に頑張ってもらいます」


 先輩は返事もせずに、虚ろな目で俺のことを見てくる。きっとこのままにしていてもすぐに寝てしまうだろうけど、それでも先輩が答えを求めているから、それに俺は答える。


「だから、また最高の作品を俺たちで作りましょう」


 そこまで言って、きっと先輩は夢の世界に落ちると思っていた。

 でも、そんな俺の想像通りに現実はいかず、先輩はまだ俺のことを見ていた。まだ、何か先輩は俺の言葉を持っていると思って、思考を巡らす。


「ねぇ、倫也くん」

「は、はい!」

「私のこと、好きだった?」

「えっ!!??」

「ふふっ。そんなに驚いて、何か思い出したのかしら? それとも、図星かしら?」

「いや、それは……」


 その言葉は。


 だって、その台詞は。


 かつて、十年以上にも及ぶ深い関係を持つ幼馴染が最後にかけて来たいじわるだった。

 そして、彼女は言った。


“その顔でわかっちゃった”


 あれが、あの時俺たちが現在進行形だったら両思いだった。

 でも、あの時進行形だったのは彼女だけで、彼女の言った通り、あの時の俺にはあの想いは過去だったのだ。

 それを知っていたから彼女は“好きだった?”と聞いてくれたのだ。

 全部知っていて、彼女は聞いた。

 その時から十年前の俺に彼女しかいなかったこと。それを彼女は知っているかはもうわからないし、解明することさえも叶わないけど、それでも、あの瞬間から彼女とはそういう関係ではなくなった。

 そんなほろ苦くて、辛い思い出。

 だけど、かつての離別よりもずっと清々しい決別。

 そんな時にかけられた言葉を先輩にもかけられたら、そりゃ、色々と思うところはあるに決まっていた。


「まぁ、私はあんな未練たらしく言わないわ」

「し、知ってたの……?」

「女の秘密ね」

「そ、そう……」


 冷や汗をぬぐいながら、残っていたシャンパンを一気に飲み干す。


「ねぇ……。年上ヒロインってほんと損な立ち回りよね……」


 先輩の声は若干震え、もう酔いがしっかり回っている確かだった。

 でも、なぜかその声ははっきりとして聞こえ、俺の心に響いた。


「すみません……」


 俺の口から漏れた言葉は謝罪だった。

 普通ならゲームキャラの話に持って行けたり、何を急に言っているのか問いただすことだってできたけど。

 それでも、あの言葉私のこと好きだった?のあとでは、この返答が一番正しいと思った。

 これは、あの日出来なかった大切なこと。

 初めて、俺のことを男として扱ってくれた。女性に対する誠意。


「年上ってだけで、余裕をもって立ち振る舞って、ちょっと馬鹿な恋したからって応援もしたくない恋を応援して、聞きたくもないことを、見たくもないことによって、色々知って、その上で経験豊富そうに語るなんて。ほんと、ばかな立ち回り……」

「隠したほうがよかった?」

「隠せてないわよ。それにどうあれ知ってた」

「すみません……」

「ほんと、永遠に知りたくなかったわ……」


 虚ろな先輩の目元はまだ閉じることなく、その朧げな目で俺のことをしっかりと見ていた。


「それにしても、俺がこんな風にリアルで、しかも恋愛ごとで悩むなんてありえないよね」

「本当にありえないわ、このクソオタク」

「ならもっと、俺のことをクソオタクとして扱ってよ……」

「それは無理ね。だって、私もあなたと一緒なんだから……」


 あれからいくつもの夜を越え、朝を迎えた。

 そして数年の月日を超えて、今日改めて彼女に告げる。


「俺、彼女出来ました」

「知ってた」

「俺、結婚します」

「それも、知ってる……」


 俺には大切な人がいる。

 でも、あの時、あの瞬間のことは俺とって今でも大切な体験であり、思い出。

 オタク男子の初めての経験。

 ファーストキス……


「それでも、あの時のことは、俺にとって大切な思い出です。絶対に忘れることのない大切なことです」

「……本当にムカつくわね。絶対に勝てないのに、そういうこというなんて」

「すみません。でも……」


 なんだか湿っぽい空気になってしまう。それは仕方がないのだ。だって、全部過去の話だし、二度と覆ることのない世界。

 それでも、だからこそ確かにある世界がある。


「俺はこれからも。ずっとこの先も霞詩子と霞ヶ丘詩羽のファンでいます」

「ファン……ね…………」


 先輩にとってこの言葉は辛いものかもしれない。

 でも、それでも伝えないといけない。

 あの日出来なかった決別をここで。


「それって、ずっと、ずっと。私の作品を応援し続けてくれるってこと?」


 だから先輩も、自分の想いから決別する。

 その何十年も自分の中だけで溜め込んだ想いを。感情を。


「もちろん。でも……。その作品がこれみたいに傑作ならね?」


 俺がただの消費豚のオタクだったとしても、一つの会社の社長だとして、俺はいつまでも真摯に向かい合う。霞詩子の作品に。


「これからも霞詩子の傑作を待っています」


 先輩はゆっくりと姿勢を正し、こちらをまっすぐに見てくる。


「いつまでもあなたのために。いいえ、あなたが恋い焦がれるような作品を書き続けるわ」

「いや、俺に対してじゃなくて、読者に向けて……」


「倫也くんは私のことが好きだった」


 先輩は誇らしげに、そして嬉しげにそう呟いた。

 そして、俺も否定なんかしない。

 だって、間違ってないから。

 それはある意味では違うのかもしれない。

 でも、今この時においてその言葉に何一つ間違いはない。

 そこにあるのはただ一つの事実であり、真実。


「あなたは私の作品に、その作者である私に恋をしていた。それがなんであろうが関係ない。だって、それらすべてが私なのだから。だから、倫也くんは私に恋をしていた」


 否定することもしなければ、肯定することもない。

 俺はただ先輩の視線に、言葉に、想いに。

 ただまっすぐに答える。


「そして、今でも、これからも……」


 そこで力つきるようにして先輩が俺の方へと倒れ込んでくる。

 そんな先輩を俺は優しく受け止める。

 そして、俺も朧げになった頭でゆっくりと思考を巡らせ、そんな先輩を優しく包み込む。


「いつまでも、ずっと……」


 先輩は勝ち誇って、そのままやっと眠りについた。

 俺はそんな先輩をそっと抱き上げ、寝室へと運び込む。先輩をベッドに横たわらせ、布団をかけて、再び先ほどの席へと座る。

 そして、残り少なくなった二本目のシャンパンを自分のグラスに注ぎ、仰ぐ。


「ずっと、好きに決まってるよ……」



 そう、夜の夜景に一人つぶやき、心地よい夢世界へと想いを馳せるのだった……



「いたたた……」


 重たい頭を抱えながら、いつの間にか布団の中に入っていた体を起こす。

 そばに置いてある時計を見ると時刻は午前四時ごろを指していた。まだ、世界は朝を迎えておらず、あの夜が継続しているようだった。


「帰っちゃったかしらね……」


 あれだけ煽っておきながら結局、緊張をほぐすために慣れないお酒を飲んでいたせいで彼よりも先に落ちてしまった。

 布団から抜け出し、薄暗い寝室からキッチンに向かい水を飲もうとする。


「と、倫也くん?」


 すると、もう帰っていたと思った彼がそこで寝ていた。


「もう、こんなところで寝ていたら風邪ひくわよ?」


 そんな彼の寝顔をこうして横から見ることしかできない腰抜け黒髪年上ヒロインは改めて、自分のポンコツさに笑ってしまう。


「でも、初めての女として、これだけ許してね。加藤さん」


 ここにはいない、彼のメインヒロインに向かって言葉を馳せながら、そっと頬にキスをした。

                                   

                                   fin


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冴えない彼女になった年上ヒロインの物語 園田智 @MegUmi0309

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