第15話 筋肉のためらい
2019年7月にEMSのふくらはぎを鍛える商品を購入した。
簡単にいえば、昔流行ったアブトロニックのふくらはぎ版である。EMSとは「電気筋肉刺激」という意味らしい。
アブトロニックが流行した時「胡散臭いな」と思っていた。
が、調べたら、科学的な根拠のある運動療法なのだという。
医療分野では、脳血管障害などで自分の意志で運動ができなくなった人のリハビリに利用される。スポーツの分野でも、プロ選手ですら利用するという。そういえば、クリスティアーノ・ロナウドが腹筋のEMSの宣伝を兼ねて来日していたことを思い出した。
飛び降り王子はふくらはぎの筋肉がいまだに付きにくい(11「背伸び」参照)。実際使ってみたところ、確かに効果がある。多少麻痺残っている右足にも効果はあるが、そうでない左足は見るからに太くなった。
これは素晴らしいと思い、翌月、腹筋のEMSも購入した。腹筋は元々、十分に付いているから効果はそれほど実感できない。が、両方とも眠気覚ましにもなる。執筆しながら運動できるのだと考えれば、作家必須の道具ではないかと思ったくらいだ。
面白いのが、筋肉を動かしているのに筋肉痛にならないことである。疲労感も全く残らない。人間は脳から電気刺激を送って筋肉を動かしているらしいが、逆からの作用はきっとどこかメカニズムが違うのだろう。
さて、人間の筋肉痛・疲労についての体験談を書きたい。
手術の前日、体を清潔にするため、入浴することになった。寝たきりでも入浴できる浴槽というのがあるのだと初めて知った。
女性看護師の中でも好みだった富井さんという方に体を洗ってもらった。心の中で「トミー」と呼んでいた。アダルト動画なんかに出てきそうなシチュエーションだが、そういう気持ちには全くならなかった。余裕がないというのはそうことなんだなと後になって思う。
脱線したが、翌日、何と体が筋肉痛になったのである!
「運動してないのに……」と思い、その旨を看護師に伝えた。
「人間って入浴するだけでも疲れるんですよ」
何と!
驚きである!
しかし、年を重ねた今になってはよく分かる。
2018年12月からうつ状態のため、引きこもって入浴もままならない日々を送っている。そんな状態でたまに長風呂すると、それだけですぐに風邪を引いたような症状が現れるのである。単なる湯冷めでは決してない。元気な時はランニングの後の最高の一時になるのに。
老人なら分かるだろうか?
そういえば、祖母と暫く連絡を取っていない。現状が現状だから電話が来ても取りにくいのである。
父は脳梗塞の後遺症で呂律が回りにくくなり、長電話は疲れるという。
昔、面倒臭いから、という理由で祖父の見舞いに行かなかったら、そのまま亡くなってしまった。
あの時と同じ後悔は繰り返したくないから、連絡は取らなければと思うものの、なかなか難しいものだ。
人間はいずれ死ぬが、なかなか死なないと思っているからだろうか?
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