第6話 病名「殺伐」

 世には様々な職業病がある。

 ググってみた。

 何と厚生労働省の「職業病リスト」というサイトが一番上に出てきた。パッと見る限り、細かく定義されているのだなと感心した。

 一つ引用すると「紫外線にさらされる業務による前眼部疾患又は皮膚疾患」。屋外で働くことで直接「病につながる」類のものだろう。


 ここで言いたいのは「病とは関係のない」派生的な意味での職業病。

 例えば、コンビニ勤務の人が、別の店舗に客として入って「いらっしゃいませ」と言ってしまうこと。実は何度かやらかしたことがある。恥ずかしいことこの上ない。

 職業の数以上にこうした類の職業病はありふれているだろう。


 入院中、様々な医療関係者と接してきた。が、やはり身近だったのは看護師である。

 狭い了見だとは承知の上で、王子の独断と偏見に基づいた看護師の職業病を綴ってみたい。


 一つは、太っていないこと。

 業務内容を考えてみて欲しい。

 動けない飛び降り王子のため、五分置きくらいに二人がかりで寝返りを打たせにやってきてくれるのである。ナースコールを押すのも悪いなと思って寝返りを我慢してしまう程の重労働だ。

 厳密な意味での職業病は「腰痛」になるだろう。

 リハビリのために通った鍼灸院の壁に「腰痛で動けなくなって社会復帰を諦めていたが、鍼灸で良くなった」という看護師の談が貼られていた。整形外科なんて特に腰を壊しそうなイメージがある。


 もう一つは、見た目からしてテキパキしていること。

 マッチングアプリ経由で数名の看護師と会ったことがある。全員シャキッとしているからその中の一人に理由を尋ねたら……。

 それがまさに職業病だという。

 相手は病人である。時間にも心にも余裕のない人が多い。悠長に構えていたら怒鳴られるという。

 そのため、無理にでもテキパキしている雰囲気を出さなければ、患者にも同僚にも舐められるそうだ。


 入院中、のんびりしているなと感じたのは、新人さんと、おそらくパートであまり長時間働いていない看護師である。


 ここで懺悔しておきたいことがある。

 新人の看護師の行動があまりに遅く、この人に殺されると切羽詰まって「看護師代えてくれ……」と頼んだことがある。

「代わっても同じことしか出来ないんです……」と泣きそうな声で言われたが、そういう問題じゃあない。点滴ばかりのんびり弄くって何してるんだと苦痛の中、苛々して仕方がなかった。

 何名かの看護師に「お仕事大変じゃあないですか?」と聞くと大抵「何度辞めようと思ったことか……」と返ってくる。


 あの新人の看護師さんは無事成長して続けているだろうか。

 なかなか可愛らしい女性だった。

 病院内を移動出来るようになった時、一階の広間で、仕事を終えてケータイを嬉しそうに見ているその新人さんを見かけたことがある。

 私服姿の笑顔を見て、彼氏とやり取りでもしてるのかな、仕事大変だろうからプライベートでは癒されていて欲しいなと思った記憶が今でも鮮明に残っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る