恋する乙女と目覚める騎士2
「拳で殴り付けるなんて脳筋なんですから」
立ち上がり氷の大地を踏みしめた私は左手で鼻下を拭った。
拭うのに使ったら手が血で濡れてしまいました。
まったくアイリスさんの馬鹿力には驚かされました、剣の打ち合い以外で私に挑んで来たのは貴女が初めてです。
「シルフール家たる者、常に優雅を重んじなくてはいけないのに不覚ですね」
ですが最早アイリスさんには立ち上がる力すら残っていないでしょう。
その証拠に、ほらっ。
「無様ですね」
氷に這い蹲り冷え切っているであろうアイリスさんの姿を見つけました。
大方、先程の一撃で力を使い果たしてしまったのでしょう。
「心器を使った事を卑怯とは言わせませんよ、剣と包術を合わせての実力です、恨むならご自分の非力さを恨みなさい」
最早この場に長居は無用ですね、一刻も早く団長を追いかけなくては。
「ご無事で団長、今すぐに参ります」
アイリスさんに背を向けて一歩踏み出そうとした時、訝しげな物が目に入りました。
「ニーズヘッグが怯えている?」
幻想体として顕現している守護龍が低く唸りながらある一点を凝視しているのです。
その一点とはとうに力尽きているアイリスでした。
「どうして怯えるの? アイリスさんは息をしていない……」
釣られてもう一度アイリスさんを見やった時、私が目にしたのは信じられない光景でした。
「嘘……」
死した筈のアイリスさんが氷に手を突き体を起こしたではありませんか!
それだけではない、彼女が触れている氷の箇所が湯気を立てて溶けていく。
「最たる極寒を司るニーズヘッグの氷を溶かすだなんて、これは……」
言葉を失った矢先、遂に彼女は二本の脚で立ち上がったのでした。
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