恋する乙女と燻る恋1
「ふむ、熱は無さそうですがどうにも具合が優れないのですか?」
寝巻きのままベットに横たわる私を見下ろしながら、心配そうに目を細めたエリオットさんが聞いてきました。
「はい、体が重くて起きているのが辛いんです」
「昨日の今日です、無理を押して体を壊しては元も子もないですから学校はお休みされるべきでしょうな」
「申し訳ありません、お仕事は手を抜かず努めますから……」
「体調が優れない時ぐらい遠慮するものではありません、もしアイリス様が一日中仕事に精を出されては私がお屋敷に居る意味がなくなってしまいます、私の存在意義の為にも今日は体を休めるのに努めるべきでしょうな」
エリオットさんが浮かべる茶目っ気に富んだ笑顔から冗談だと察しましたが、それでも心は痛みました、だけど……。
「でしたらエリオットさんの存在意義の為にもお休みを頂きます」
今はその冗談に乗らせてもらう事にしましょう。
「はっはっはっそうなさいな、後ほど果物か何かお持ちしましょう、多少の栄養は摂っておくに越したものではありませんから」
エリオットさんが部屋を去ったのを確認してから毛布で頭から爪先までスッポリ被って誰にも聞こえないよう溜息を吐きました。
「はぁ〜」
密閉された毛布の中で溢れかえった溜息は重く生暖かくて、私の心境そのものなんだなぁと思わされる。
「忘れなくちゃ、最初から叶わない恋だったんだから……」
実を言えば体調が悪いというのも学校を休む嘘、いわゆる仮病です。
仮病どころか無遅刻無欠席が自慢の私ですが、今日ばかりは情けなく参ってしまいました。
体は心の鏡と教わりましたが正しくその通り、心が乱れれば剣先が乱れるのも当然ですから。
「早く普段のリズムを取り戻さなきゃ、引きずるのは良くないもんね」
毛布を跳ねて起き上がり、ベットから降りて本棚から適当な小説を手に取りました。
もう一度ベットに仰向けに倒れこむとそのまま小説のページをめくっていきます。
(読書も久しぶりだなぁ、鍛錬とお仕事で時間もなかったしね……」
鍛錬もお仕事も精を出すのが性分ですけど、たまには趣味に時間を使うのも悪くありません。
子供の頃は本の虫で、誰かに止められないと陽が落ちるのも登るのも気が付かないくらい没頭していました。
ジャンルを問わず乱読の口ではありますが、今の気分は現実とは違う世界に浸りたい、ですから小説を選んだのは良い選択でしょう。
「買ったまま積み本してたからなぁ、どんな内容だったっけ……」
小説のタイトルをよく見てから手にするべきでした。
『愛に生きる』。
いかにも今の私を抉るであろうストーリーだと想像に容易いのは言うまでもありません。
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