恋する乙女はメイドな生徒4
寝巻きに着替えてから、改めてベッドに横になりました。
(まだ熱いな)
頰の火照りが治らなくて、せめて朝までには落ち着いてほしい。
(小父様……どうしてこんなにも貴方が愛しいのでしょうか)
恋心を抱いたのはこの屋敷に来て暫くしてからでした。
ベルクリッド小父様は両親を失った私を引き取り、私が家督を継承できる十六歳まで育てて下さると申し出て下さったのです。
理由については父を救えなかった償いと言う事でした。
ツヴァイトーク家は貴族会の長を国王より授かり代々その責務を全うしてきた由緒ある一族、それもその地位については当代の皇帝毎の指名制にも関わらず守り続けてきました。
父様も口癖の様に『揺るぎない心で平和の為に力を振るう積を担うのが貴族の勤め』と教えを説いて下さり、今でも私にとってその教えは生きる筋道として心に刻んでいます。
故に国としても名家であるツヴァイトーク家を根絶させるわけにはいかない、だからこそ唯一の跡取りである私を養子ではなく客人として迎え入れ保護する役割を誰かが担う必要がありました。
ですが大きな問題が挙がりました。もし再びツヴァイトーク家を狙う族が現れ命を落とせば、保護先の人間は重大な責任を問われ、御家取り潰しどころか国に命を狙われるやもしれません。
大きすぎるリスクを背負ってまで私を匿いたがる人間は小父様以外には居ませんでした。
小父様は平民から叩き上げで現在の地位にまで登り詰めた努力の人で、当時は騎士団の第三位に就任し、それに伴い爵位を拝命したばかりと聞きました。
他の貴族たちからすれば良い当て馬だったのでしょう。
平民上がり、貴族としても日が浅くいつでも国政から切り捨てられる駒として小父様の申し出を二つ返事で可決したらしいです。
ですがその様な政治の思惑は私達には関係ありませんでした。
命を助けてくれて優しく抱きとめてくれたあの人だけが幼い私にとってたった一つの拠り所で、小父様にとっても父様への償いを果たす数少ない方法だったのです。
エリオットさんは繰り上がりで団長に就任しましたが小父様に降り掛かるであろう貴族会と騎士団における全ての責務を貴族の地位を捨ててまで背負い処理して、小父様を団長へと押し上げたそうです。
それからと言うものこの屋敷では小父様、エリオットさん、私の三人が暮らしています。
両親を失った悲しみを埋め尽くして高く聳えるくらいの幸せを小父様から頂きました。
いつしかあの人の近くにいると頰が熱くなる自分に気がついて、何かお役に立てないかわがままを承知でお屋敷仕事を手伝始めたのです。
最初は小父様もエリオットさんも子供の遊び程度に考えていたのでしょう、差し障りのない仕事を当てがって見守って下さりました。
遂にはメイド服を着込んで本格的なご奉公を始めた私を見て慌てて始めたのでしょう、一応は客人である私を使用人扱いは出来ないと説得された事もありました。
ですが私の熱意に根負けしたのか勉学の一環としてメイドの役割を許して下さいました。
それからと言うもの小父様が褒めて下さったり、手作りのお菓子で喜んで下さったりする度に頰が熱くなって心臓が高鳴りが増していき、それも父様に褒められた物とは別の感情だと区別がついた時、小父様への感情が恋心だと自覚したのです。
それからはこの感情を悟られないように日々を過ごしてきました。
だけど最近では日を重ねる毎に膨れ上がるときめきを抑えられなくて、今日に至っては小父様を跳ね除けてしまった。
「明日どんな顔をして会えば良いんだろう、はぁ私のバカ」
悶々とした悩みを抱えたまま瞳を閉じて眠りに落ちる事にしましょう。
目が醒める頃には頰の熱さが静まっていますように。
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