第11話 平凡な僕の進路
◆
「烈、おはよう!」
「おはよう、ミコ」
「どうしたの? 少し元気がないね。あっ! もしかして進路? 烈は進路調査表、出した?」
「うん」
「ど、どういう……進路?」
ミコはゴクリと喉を鳴らした。
「そのまま内部進学して経済学部に行くことにした。新宿芸大なら芸術系授業も取れるしね」
「嬉しい! 卒業したらうちの会社に入って! あたしの右腕になって! 烈と一緒に仕事したい!」
「駄目だよ、ミコ。僕、大学卒業したら奥さんの会社に入るから」
「そっかー。ていうか烈は専業主婦じゃないの? お花の教室とかやりながら主婦するんじゃないの? 烈の奥さん、社長さんなの?」
「うん。社長さん」
「なんていう会社?」
「あ……そういえば会社名、なんだろ?」
僕はスマホでビルをマップ検索する。ビル名は『六本木宮殿』と書かれていた。六本木宮殿の内部マップをクリックしてみる。宮組部分の階は大内裏としか書いてない。プライベートエリアということだろう。
「あれ? 分からないや」
「んもー、烈ってば呑気ねぇ」
ミコがくすくすと笑う。
「週末に進路について色々話し合ったんだけど、会社名を聞かなかったな」
「家族経営の会社?」
「うん、そう……だと思う」
僕は宮組の部屋住みの数をなんとなく思い出す。
「何人ぐらいいるのかな。なんかいろんな人が出入りしてるからよく分からない。きっと姫の方がよく知ってる」
「全く、烈お嬢様はのんびりしていらっしゃること」
ミコがふふふ、と笑った。
「じゃあ主婦業しながら奥さんの会社を手伝う感じ?」
「うーん、主婦業……? そうだよね、掃除とか、料理とか出来るようになりたいな。というか、主婦業ってなにをするんだろ? 主婦ってなに? 僕、一生結婚するつもりがなかったから、そういう主婦業とか知らないんだけど」
「烈、奥さんの家で今まで何をしてたの?」
「え? 家に帰ったらまず稽古と勉強。食事は料理人が出してくれるし、掃除担当者とかは姫とか、奥さんの秘書達が管理してる。でも料理、作りたいな。手料理を出すって、ちょっと若妻っぽいね」
「あー、うん……。練習しなよ、練習。作ってすぐ奥さんに食べさせちゃ駄目だよ。烈の料理は破壊力があるから」
「なんか破壊したっけ?」
「昔、私と料理実習担当教師のお腹を破壊した」
「そうだっけ?」
「烈は食べなかったのよ。私の作った料理を食べたでしょ」
「あー、思い出した。美味しかったよ、ミコ」
「私の料理より、私のお腹を壊した烈の料理を思い出して!」
ミコは机に俯せになりながら、喚いた。
◆
夕食後、空き会議室に僕と紅と鬼姫とイチが集まった。
会議室の椅子やテーブルは他の部屋の家具よりかなり質が良い。
「あれ? 紅、家庭教師は?」
「お嬢、家庭教師はこのイチが担当させて貰います」
「イチが?」
僕が不思議に思って紅を見ると、鬼姫が笑顔で答えた。
「イチは妹達の勉強を見ていたようなので適材です。宮組と桜山組の内情を学ぶにしても私やイチなら情報があります」
「烈。お前の成績を見たが、この小学校や中学、高校の成績とお前の能力に乖離がある。金融工学は誰に教わった?」
紅が僕の成績が映し出されているPADを卓上に置いた。
「お父様です。六本木に引っ越してくる前はいつも寝る前にお父様とネット会話をしていて。その時、教わりました」
「プログラミングも?」
「はい」
「なる程。桜山兄弟は烈に毎夜毎夜、金融の英才教育をしていたわけだ」
「英才教育というか……ゲームみたいな感じで凄く簡単なんです」
「そうか。じゃあそのような分かりやすい授業をすれば烈が理解するのだな」
紅はにっこりと笑い、イチを見た。
「はい。まかせてください」
それから僕はかなり分かりやすく教えてもらい、成績が上がった。
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