第30話「石を見つけました」
一人の部屋。
母親はいなくなった。
前世では憧れてたな。
兄弟4人もいて、1DKなら自分の部屋なんてあるわけがない。
一人で落ち着いて過ごせる空間なんて、トイレの中だけ。
今世では、王家の外れもの扱いの俺ですら、自分の部屋がある。
そんな空間に慣れすぎてたのかな。
ちょっと寂しく感じる。
母親の書置きと昨日の言動を振り返ると、母親は俺のために自分から進んで第2王子のところに行った。
なにかしらの交換条件をだされたのだろうか。
なにを言われたのだろうか……。
俺が約束を守る限り、母親に何か危害を加えられはしないだろうけど。
約束とは、俺が武道会に参加することか。
そこで俺をぼこぼこに叩きのめしたいんだな。
俺が虫以下なら、無視してればいいのにな。
ムシなだけに。
………。
腹が立ってきた。
人さらって条件をのませるって、どれだけ腐っているんだ。
同じ兄弟とは思いたくないな。
「お食事をお持ちしました」
食事は2人分運ばれてきた。
給仕は、母親がいないことに何も気にはしなかった。
自分の仕事は食事を運ぶことだから、それ以上の詮索はしないよってか。
また明日も母親の分を持ってくるだろう。
もったいないな……。
…、………。
元気でいるといいんだけど。
………
……
…
先生と剣技の手合わせ中、思いっきり足払いされた。
体がふわっと浮いたあと、青い空が見えた。
そんな青い空を楽しむ時間もなく後頭部に鈍い痛みが走って空がチカチカ光った。
受け身を失敗した……。
「今日はひどく集中力を欠いていますね」
先生にそう言われた。もっともな意見だ。
「母がさらわれました。解放の条件は、武道会の出場だそうです」
唐突にそう言った。
先生は仰向けのまま倒れている俺に、のぞき込むようにしゃがみこんだ。
続いて、駆け寄ってきたであろう、息が切れ気味なアリスも覗き込んでくる。
「それは大ごとですね。誰にさらわれたか分かりますか?」
「第2王子です」
「私が王妃を連れ戻しましょうか? あまり自信はありませんが……」
情けないが、先生にやってもらえるなら万事OKだが……、
「あまり自信がない…?のですか?」
「王室、王族の部屋には強固な結界がしかれています。それを打ち破ることができても、その間に包囲されるでしょうからね」
結界か。7種類ある魔術の一つの陰級魔術だったか、たしか。
陰級魔術は、結界を張ったり、物体を透過することができるらしい。
「先生ほどのお人でも、無理ですか……。ならお願いすることはできません」
「お力になれなくて申し訳ありません」
起き上がる。
やはり頭はズキズキする。
武道会だったら、死んでるな。
「先生、僕は武道会出場しようと思っています」
「………。それなら私が行きましょう。参加者として潜入し、第二王子を捕獲して王妃の居場所を吐かせます」
「……戦うことは避けられないと思っていました。先生もそのつもりで訓練していたのでしょう? 良い機会です。決意も固まりました」
「時期が早すぎます。一応、殺傷を目的とした攻撃は禁止されていますが、命を落とすものもいますし、試合中の事故として咎められることはありません。殿下には身を守る術がないのですよ? 試合中に殿下をかばうことはできません」
「考えがあります。僕に時間をください」
………
……
…
ずっと行こうと思っていた火口付近に来た。
たくさん人がいる。
上半身が裸で、石がいっぱい入ったカゴをかついで行き来をしている。
重いだろうに。
この国の特産品は鉄だと先生に教わったことがある。
鉄の原料となる鉄鉱石がここにあるという。
「鉄でも作る気ですか? 武器や防具を揃えたいなら、門番でも倒して奪ってきますが」
ついてきた先生がそう言う。
教育者としてはなかなかに過激な発案だ。
「その時にはお願いします」
火口は、らせん階段のような段差が下に続いている。
その段差に並ぶようにして人が発掘作業している。
マグマははるか下だが、熱気は伝わってくる。
「ちょっと見てきます」
一応そう断って段差を降りる。
「落ちないでくださいね!」
後ろで先生の声がする。
運搬している作業員が、怪訝な顔をしながらすれ違う。
子どもがこんなところに来るなよという顔だ。
発掘している作業員の近くに着く。
とがったハンマーのようなもので地道に発掘している。
この世界でも鉄鉱石はなかなかの量があるようだ。
他の鉱石はどうなんだろう。
作業員が発掘している手元からポロポロと削りかすが落ち、足下にたまっている。
そのいくつもの削りかすの中に、黄色い石を見つけた。
拾って臭いを嗅ぐ。
腐った卵の臭いだ。
よし。
「その石がどうかしたのですか?」
戻ってきた俺にそう尋ねる。
「先生は、この石の名前を知っていますか?」
「名前があるのですか?」
「ないのですか?」
「ただの黄色い石にしか見えませんね」
ただの石か。
「じゃあ、ちょっと臭いをかいでみてください」
先生が鼻を近づける。
先生が見たことない表情で鼻をおさえた。
「すごい臭いですね」
「そうです。すごいんです。戻りましょう。試してみたいことがあります」
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