A SOLE

紙とペン

一話完結

僕の席は黒板から一番離れた廊下側の席。くじでたまたま引いた席だけど、隣がいなくて、気に入っている。机を壁に引っ付けている。特に意味はない。みんなそうしているから僕もしている。でも、机を壁に引っ付けることができるのは、一番窓側の列と僕の列の生徒だけだから、なんとなく得しているような気分はする。一番後ろの席の生徒はみんなの後頭部を眺めることができる。別に見たくもないけど、見れないよりいいんじゃないかと思っている。


窓側の席の一番後ろに座っている渡辺君はさっきからずっと窓の外を見ている。大空を見ることができるのは窓側の席の生徒の特権だ。僕は壁に貼ってある明日の献立を眺めていた。献立を眺めることができるのは僕の席だけの特権だ。明日は僕の大好きなシチューだ。


授業終わりのチャイムが鳴ると共に、渡辺君が僕の席にやってきて、二人で一緒に下校した。本当は掃除をしてから帰らなければいけないのだけど、僕と渡辺君はしなくても文句は言われない。


下校中、僕らはいつもゲームをしながら帰ることが多い。

ランドセルじゃんけんとか。

正直、僕はあんまりこういう幼稚なことは好きじゃないんだけど、いつも渡辺君が楽しそうにしているから、僕も楽しそうなフリはする。


今日はパンチじゃんけんだった。じゃんけんに勝った方が負けたほうを殴れるという渡辺君が考案したお気に入りのゲームだ。僕は前にこのゲームで脱臼したことがある。それ以来、このゲームは止めにしたはずだったのに、またやることになった。


僕は人を殴るのは好きじゃない。だから、僕はじゃんけんに勝っても、殴ることはしなかった。でも、渡辺君は容赦なく何発も殴ってきて、右肩が青くなって、途中からパンチから蹴りに変わって、右の太ももも青くなってきて、力が入らなくなってきて転びそうになった。


渡辺君はそれを見て笑った。

僕は、正直、渡辺君のこういうところは嫌いだ。


だから、次のじゃんけんで僕が勝った時に、思いっきり渡辺君の胸を殴った。殴り返されるのはわかってたけど。


その後、渡辺君に思いっきり顔を殴られて、足の裏で腹を蹴られて、用水路に落ちた。用水路に落ちたまま、おもいっきり腹を踏まれた。腹筋に力を入れるのが少しでも遅れてたら折れてたかもしれないと思った。渡辺君は僕に向かって給食袋を投げつけて帰っていった。用水路にはまりながら僕は泣いた。


でも、痛かったからじゃない。

僕が、泣き虫で、負けず嫌いだからだ。


用水路からあがって、もうひと泣きして、僕も帰ることにした。

ビシャビシャになった給食袋を足の裏で蹴りながら歩いた。

明日は僕の大好きなシチューだ。

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