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紙とペン

第1話完結

第一志望企業の最終面接の帰り。すっかり疲れ果て、駅のベンチに座っていた。

手応えの無さに最早、感動。何かを感じようと、指先をライターであぶって遊ん

でいた。


地下鉄のホームに入ってくる電車。ライトの先に、人影が映る。仁王立ちの男が

振り返り、走り出す。レールの上を電車よりも速く駆け抜ける男。いや、電車の

方が速い。


助けに入った駅員が電車に轢かれた。サッカーボールみたいに飛んだ。ホームに

いる人々は奇声を上げている。


次にホームに入ってきた電車が前の電車に衝突した。小学生くらいの少年が、電

車と電車の間に首から上が挟まった。お母さんらしき女の人が両足を持って引っ

張っている。幸い無事のようだ。


となりに座っているサラリーマンは取引先との電話に夢中だ。思わず殴ってしま

い喧嘩になった。アキレス腱固めでタップを奪った。


次に入ってきた電車は急にブレーキをかけすぎて、火花を散らしながらタイムス

リップしてしまった。 タイムスリップに驚き、はしゃぎすぎた少年がお母さんに

叩かれた。

叩いたら余計、五月蝿くなるので、叩かなくてよかったのに。


なんだか収集がつかなくなってきたと感じたサラリーマンは立ち上がり、歌い出

した。パチンコ屋で聞いたことのある歌。残酷な天使のテーゼだっけか。


皆、騒ぐのを止め、ひとりふたりと歌い出した。途中でケータイを鳴らした女子

高生は駅員に殴られた。電車から人がぞろぞろ出て来て、大合唱になった。たま

には、こういうのも悪くない。


歌も終わりに近づき、僕は慌てて少年を天高く持ち上げた。


『少年よ神話になれ。』

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