第13話

また数日が過ぎて、掃除中も食事中も、僕はずっと考えていた。

サクヤさんの言っていた、僕を思う気持ち。年上のひとが、恥ずかしそうに耳を赤らめながらそう告げられた。「好きって、なんだろう」なんて、首を捻ったり。…そう言えば、もし思いが通じたら僕を抱きたいって言っていたなぁ…うーん、お客さんに触れられるのは気持ち悪くて、痛くて、辛いだけだったけど、サクヤさんならどうだろう。とか想像してみたり。


「サクヤさん、あの」


結局分からなくて、確かめにも行ったりした。


「ん?」

「あの、ちょっとだけ、触れてみてください」

「…触れてみてって…はぁ?!おまっ、フィール」

「必要なことなんです。あなたに触れられてみて、確かめたい」

「だが俺は、なにもする気はない」

「僕が…頼んでも?」


そんな、馬鹿なことを言ったはずの僕をしばらく見つめて、サクヤさんの瞳に炎が見えた気がした。黒い瞳にうつる炎から熱が漏れ、小さく唸り声をあげる間に彼は「良いのか」と聞いて、上下し頷いた僕の顎が戻る前に下がっていた腕を捕まれ引き寄せられた。


「あっ」


よろめきサクヤさんの身体にぶつかると、腕はすぐに離されたけれど、代わりに僕の腰に絡み付き、抱き上げられてその膝へと降ろされた。太い腿に股がることになった僕は恥ずかしくて俯く。絡み付いた右腕の先、大きな手のひらと太い指が腰や尻を撫で、空いた左手が胸へと触れる。うっすらと膨らむ胸へ。


「っ……?」


胸を掴むと思ったその手は、通りすぎて身体を回る。

ギュウギュウと、呼吸が苦しくなるくらい抱き締められて肺から空気がこぼれていく。するすると。ふうふうと。こほりこほりと。こぼれていく。



「―――ばっかだなぁ。お前はほんと、馬鹿たれだ」

「え」

「なぁ、フィールフィーリア、お前はもう身売りは辞めたと言ったよな。そう言ったろ?だってのに、悩んだとは言え自分を狙ってる奴に言うに事欠いて触れてくださいたぁないだろが」

「でも、あの…」

「俺は、お前のことが好きなんだぞ?意味わかってんのかお前は」

「…す、みません」


力強く、でも、さっきよりは優しくて抱き締められたまま、僕はゆっくりと、抜けていった空気を吸い込んだら、そうしたら、サクヤさんの、薬草の香りがして


「なんも焦んなくったって、俺はお前を、独りにはしねーさ。急がなくったって、お前を放り出したりしねぇよ、俺は」

「…でも、でも、あなたも僕を抱きたいって、そう言った」

「あぁ、俺はお前を抱きたい」

「だから、」

「でも、俺はよ、お前の体だけが欲しいわけじゃねぇんだなこれが。俺は…いや、確かにお前にとっちゃ俺も客とかわんねーのかもしんねぇな。んー、お前を抱きたいって俺は思ってる。好きだからだ。お前に笑って欲しい。幸せだと思ってもらいたい。だから、その先に、体の付き合いもあると思う。上手く言えねぇが、お前が、俺に触れたいと思ったら、その時に思う存分ヤらせてくれや。今は、俺が好きか、好きになれそうか、最終的に触れ合ったり舐めたりしゃぶったり噛んだり吸ったり…まぁ、そーいうんが気持ち悪くなんねぇかって事だな。嫌な相手だと吐きたくもなるだろうしな」

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