第12話


―――カチャカチャ

箒と塵取りで割れた食器を片付けるサクヤさんの背中を見つめ、抱き上げられて優しく降ろされた椅子に座ったまま話しかける。


「あの、さっきはありがとうございます。あと、あの…アレは、忘れてください」


サクヤさんは、黙って作業を続けている。


「あの…サクヤさん?」

「……こないだの、俺が父親代わりになるってやつ。アレ、返事はまだか」

「あ、えっと…まだ…すみません」

「じゃあ、付け加えてくんねーか」

「え?」



「―――俺は、お前が好きだと思う」



「…は、え」

「まだわかんねーけど。多分な。んで、もし子供の父親代わりになれたとして、それからお前に迫ったら俺はかなり嫌な男だろう?父親なんて名乗る権利もねーだろ?」

「……」

「だから今言っとくから、ソレも踏まえて考えて答えをくれ。俺はもし子供が生まれてお前と暮らすことが決まったら、迷わずお前を口説くし抱く。まぁ、無理矢理はしねぇけど、嫌なら一緒には暮らせねぇだろ?」


言葉を挟む余裕もなく、すらすらとサクヤさんは話し続ける。


「…お前には、迷惑だろうってのはわかってんだがよ。好きになったからって年の差があっても気にせず勢いで押すには俺は年がいってるしよぉ、かと言ってお前と一つ屋根の下で我慢できるほど枯れてもいねーし。だからよ、まぁ、選択肢に加えるくれぇは良いかと思って、だな」


背中を向けたままなのは相変わらずだけど、じっと見つめていると変化がわかる。ジワジワと、首が赤く染まる。耳の先はもう真っ赤っか。


「もちろん、返事をくれるまでは手をだす気はねーし、あー、特になんかするわけじゃねーよ」


しゃがんで食器を片付けているから此方からは見えないけど、きっと向こう側の床にもう割れた食器がないことは箒の擦れる音で分かる。

このままだと、サクヤさんは何もない床をずっと掃きつづけることになりそうで、つい、声をかけた。


「あの」


びくり。と一瞬跳ねて止まったサクヤさん。

顔が見えないけど、だから聞けることもあるから、僕は口火を切った。


「僕は身体を売っていたんですよ?なにより子供もいるのに、そんな相手を好きになるなんて」

「…関係ねぇよ。身体売ってようが、ナニしてようが俺には身体ねー」

「でも、…サクヤさんにはちゃんとした相手を」

「言っとくが、俺や周りに気兼ねする必要なんかねぇ。元々俺には結婚も子供も縁のない話だったんだ。この家だって終りの住み処として選んだくらいだからなぁ」

「なんでそんな…サクヤさんくらいお金持ちで家や店を持ってたら、誰でも伴侶になりたいって思いますよ」


すると、サクヤさんは小さく息吐くように笑い声を漏らし振り向いた。


「ま、ココの奴らにゃ確かにそうかもな。だが、金や安定だけを目的に結婚しても、生活は続かねーもんさ」

「そう、でしょうか?」

「あぁ、そうだ。だから、お前も同居人ってだけじゃなく俺を見定めろ。決まったら教えてくれや」


お金や家があれば、それだけで幸せだと思ったら、それは違う…とサクヤさんは言う。



でも、なら、僕は…どうしたら良いんだろう。

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