第11話


あれから3日、僕らはぎこちない空気のまま普段の生活を続けていた。


「んっ、と、取れない…」


今日は市場で美味しそうなお肉を買うことが出来たから、晩御飯には近所の奥さんが教えてくれた料理を作ろうと決めていた。

でも、肉を煮込む鍋が戸棚の上の方にあって、背伸びしてもなかなか手が届かなくて。


「あ、椅子に乗れば…」


食卓から椅子を持ってくれば取れるかも!と考え付いた瞬間…


「フィールフィーリアっ!」

「…え?っひゃ!!」


伸ばしたままだった手が棚の手前に置いてあった食器に引っ掛かかったのが見えた。

あとは、サクヤさんの鋭い怒鳴り声と、ゆっくり落ちてくる食器たちが頭上に広がる。


―――パリンッ―――ガシャガシャ!


「――あ、あ、あ、」


いつかのあの日のように、僕の唇からは、あ…の音だけが漏れ聞こえ。頭のなかも真っ白。

けれど、あの日と同じように、側にはサクヤさんの温もりがあった。


「無事か」

「…あ」


耳元聞こえた低い声に、抱き締められているのだと気がつく。僕より一回りも二回りも大きな身体と、太い腕。

そんな場合じゃないのに、身体の奥がしびれるのを感じて、ソレに気づけば顔に血が集まりだす。


「おい、聞こえているか?フィールフィーリア?」


耳のすぐそばで響く、コレは、ナニ…?

相手は僕を心配しているのに、自分がこんなことを考えているなんて恥ずかしくて、知られたくなくて、涙が出た。


「っごめ、なさ」

「そんなに怖かったのか?」


何を思ったのか、泣き出す僕に困ったような顔をして、優しく髪を撫でてくれるサクヤさんはそのまま立ち上がり


「泣くな。ほら、怪我ないか見せろ」


そう言って、僕の服を捲り上げた。


「っひゃ!怪我なんてないです!大丈夫ですから!」


確かに、最近は暖かいからと長衣は薄手で済ませていたけれど特に衣服が破れていたりはしないからどう見たって怪我はなんかしてないし、なにより恥ずかしい。

ぺろり。と捲られた服のしたには何も着ていない。いつものズボンを履いて上から長衣をかぶっただけだから上半身は


「…すまん」


小さく膨らんだお腹と胸。

女性体のように、とまではいかないけど、うっすらまるいソレらを直視されるのはさすがにやっぱり気まずすぎた。

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