第10話
「嫌じゃなきゃ、俺が父親代わりになる」
この言葉に偽りはない。
安定した収入も雨風をしのぐ家もあるし、それにくわえ生まれてくる子供やフィールフィーリアが白い目で見られないよう手続きを踏む事は俺にとっちゃそんなに難しいことじゃない。
ただ、不安要素があるとすれば、この目の前に座る少年とも青年とも呼べない見た目の若者が子供を産み、育てることができるのか。
父親のために自分の身体を売るほど親想いで優しい彼が、いまだに自分自身の父親探しで足元もおぼつかず不安定な彼が、母として生きて行けるだろうか。
…俺は長いこと恋人もなく、身体的な事情で両親も、爺さんさえ結婚は諦めているからまぁ、義理だとしても家族ができることは嬉しいと思う。
もし、フィールフィーリアがこのさき子供を手放すことになっても、俺が引き取ろうか…とまで考えているくらいには。
◇◆◇◆◇◆◇◆
まぁ、当たり前の話だがフィールフィーリアから時間がほしいと言われた。
もちろん、ソレは別に良い。と俺は返事を返したが、フィールフィーリアの腹具合からしてそんなに余裕はないことだけは付け足して、部屋へ返してやった。
「……うぁー、マジかよ」
たったの一月(ひとつき)前は、今頭を抱えているこの場所で一人酒を飲んで感傷に浸ってったってぇのに。
このまま、一生独り身だと信じて疑わなかった人生に一筋の光か、それとも棺桶への第一歩か、良く分からん選択を突き付けられた。
と言っても、まぁ、自分で背負いこんだわけだが…いや、アノ状態で投げ出せるか?出来る奴は鬼だろ。
「いやいや、まだわかんねーし。フィールフィーリアが、アイツが断るかもしんねー」
……いや。これはアイツにも究極の選択だろう。むしろ選択など出来ない選択。
父親が見つかんねーならもう後ろには下がれない。下がれば待ってんのはスラムのごみ溜めだけだ。
見付かっても…父親が生きているとは限んねぇしな。生きてても身体が悪いんじゃ、またフィールフィーリアが一人で全部を背負うことになりかねねぇ。
よって、出来ることは自分をたかだか三十日と少しの間面倒見ただけの売れ残った陰気な年上男との結婚……あれ?
「え?俺は人助けしたはずだろ…なんか悪者に見えるんだが…ん?」
…余計ワケわかんなくなってきやがった!もういいっ!寝る!
勢いをつけて立ち上がり、二人分の牛乳臭いカップをキッチンまで運び水に浸してドカドカ足音を踏み鳴ら…さずに廊下を通り抜け、いつも通り地球から持ってきた羽毛布団を被り横になった。
「…、…くそっ。眠れねぇ」
フィールフィーリアは、もう眠ったろうか…いや、アイツはきっとまだ悩んでいるんだろう。
思った通り…俺たちは、翌朝お揃いの隈を作り挨拶を交わすことになる…。
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