第9話

だから、頼む!…と祈ったが、


「…りょ、りょうせいたいです…僕は両性体で…す」


この世界に来て初めて神とやらに祈った瞬間だったが、どうやら届きはしなかったらしいな。

深く息を吸い、瞼を閉じて。

はぁぁぁ。

と吐き出した瞬間のフィールフィーリアの表情など気にしていられるわけがない。


「両性体。…なぁ、一応聞くが、分かっているのか?両性体は妊娠期間が短いことを」

「……は、はぃ」


わなわなと唇を震わせ、彼はポロポロと涙を落としはじめた。


「―――ソレにしたって、そもそもどうやって妊娠に至った?両性体なら、パートナーとの婚姻証明を持って医者の所へ行かねーと誘発剤は手に入んねぇだろう」

「わ、かりません…相手の人が持ってて」

「医者からの指示がなきゃ薬師は調剤しねぇ決まり…なんだがなぁ」


同業者が絡んでるとなると…明日辺り知り合いに手紙を出してみるか…。


「んで、相手が持ってたとしてなんで拒否しない?」

「…うごけ、なくて…気づいたら」


言いづらそうな感じを見ると、よほど嫌な思いをしたらしい。


「ま、自業自得だな」

「…ぼく、ご迷惑ですよね。このままここにいたら…」

「俺は好きなだけいれば良いと言ったろーが」

「でも、僕、あの…赤ちゃんが」

「どうせどこにいても生まれてくるだろ。両生体で片親は目立つぞ」


この世界では、当たり前のように夜を過ごし子供ができる男性体と女性体が親の場合は、簡単に子供ができる分言っちゃなんだが両親が簡単に別れるケースが多い。

逆に両性体が親としている場合は、婚姻し愛を育み、互いに納得してから子を求めて医者の元へ足を運ぶ。医者の所へ来て婚姻証明を行い、必要な説明を受け、誘発剤を作る薬師にも挨拶は必須。とにかく時間と手間をかけて、気持ちが変わらないことを確認しながら子供を授かるのだからなかなかに離婚するケースは稀。そんななかでまだ若いフィールフィーリアが片親じゃあ、どうやっても浮くし目立つだろう。


「でも、教…会に預けるのは、嫌です。僕は、家族を捨てたりできない」

「家族ってなぁ」

「僕は今まで、父さんと二人っきりで、楽しかったけど…やっぱり寂しかったから」

「孤児院なら里親が見つかるかもしれないだろう」

「でも!見つからなかったら?!ずっと、孤児院にいることになる…そんなの…」

「だからってお前…育てられるか?親父さんもいねぇってのに一人で?」

「……でも、いやです。僕は、…この子、しあわせに…」


渡した牛乳にも手をつけず、すがるように俺を仰ぎ見て涙をながし続けるフィールフィーリア。

どうしたもんか…。俺は独り暮らしで薬屋としてもそれなりに収入があるからフィールフィーリア一人くらいなら暫く居候させて養っても問題ないかと楽観視していたが…まさか二人に増えるとはなぁ。


「……フィールフィーリア、今までは親父さん探すってのもあるから家事だけ任せてたが、仕事手伝う気あるか?」

「え…?」

「もし、仕事を手伝うなら給料をやる。ま、食費や家賃抜いたら微々たるもんだがな。

んで、もしお前が嫌じゃなきゃ」


潤んだ瞳に、俺はなにを思ってこんなことを言っちまったのか。

でもま、人間ってのは最終的に世界も性別も関係ないもんで、こうなったらやるしかねーな。


「嫌じゃなきゃ、俺が父親代わりになる」

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