第8話
「――――僕は父さんと二人暮らしだった、んです。母さんは、僕を生んで死んだけど、父さんは優しいし、仕事だって、小さいけど屋台してたし楽しかった。…でも、半年前に父さんが倒れてからはお金もなくなって食べるものとか薬が買えなくて…どうしたらいいか分からなくて」
「……身を売ったのか」
「…母さんは知らないけど、父さんは色白で顔立ちも綺麗だし、…何でこんなとこで屋台なんてって良く言われてたんだ。最初は迷った。すごい迷って悩んで、だけど僕が短期間で医者にかかるためのお金を稼ぐには…他に手もなくて…」
「それで?」
「それで、数日だけ仕事をして、家に帰ったら……父さんは居なくなってた。家の物も無くなって」
死んだか。
居間で温めた牛乳を二人で飲みながら、フィールフィーリアの話を聞き、俺が最初に思い浮かべたのは彼の父親が死に、家は片付けられたのだろう。とソレだけだった。
「で、フィールフィーリア。お前一人でどうすんだ?その腹、身売りして出来たんだろ」
◇◆◇◆◇◆◇
彼を家に居候させ、あっという間に一月が過ぎ。
何時ものように交代で風呂へ入り、翌日の予定について話があったので声をかけ、うっかりフィールフィーリアの返事を聞く前にドアを開けてしまった。
「あ」
「あ」
「あ?…おい…なんだそれ」
普段よりもずっと薄着な彼の腹は、うっすらと膨らんで見える。
「あ…あ…」
まるで、それしか言葉を知らないかのようにあ…を繰り返すフィールフィーリア。
その顔色は真っ青を通り越し真っ白で、まるで俺が悪者のような気分になってくる。
「フィールフィーリア?…フィールフィーリア…あー」
俺の声は果たして聞こえてるのかどうか、動いたら不味いかと名前を呼び続ける。
…もう、なんだこりゃ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
話を聞くにつれ、俺は息を吸うのすら億劫になってきた。
「病気の親父さんのためなのは分かるが、手段がなぁ…」
「……っ」
小さくため息を吐き、縮こまるフィールフィーリアを見つめる。
さすがに身売りの話しになると身体が冷えてきて、慌てて牛乳を一口飲む。
……あぁ、ホッとするな。
フィールフィーリアのミルクティのような色の髪、白い肌、そして焦げ茶の潤んだ瞳に、父親や本人以外が触れて、キスを落とした。
それは、辛くて悲しい遠い世界の物語のように俺の耳へ流れてくるから、余計滅入ってくるんだよなぁ。
「大体、親父さんまだ見つかんねーんだろう?」
そのうえ妊娠。
さぞかし不安だったろーな。と思いつつも口にはせず、フィールフィーリアを見つめる。
彼の顔色は相変わらず悪いし、震えている。
だが、だからといって口を緩めるわけにはいかない。
なぜなら、
「なぁ、今まではあえて聞かなかったが状況も変わったから答えてもらうぞ。…フィールフィーリア、お前…」
お前、性別は?
この質問は本来この世界じゃタブー。人は人を愛すのだから、性別は関係ない。と考えられているからだ。
だからあえて、たぶんそうだろうと思っても誰も口には出さない。
けれど、妊娠はまずい。これは妊娠期間に深く関わってくるからだ。
だってまだ若いじゃねーか。ただの子供だ。フィールフィーリアはやり直そうと思えばまだまだやり直せるだろう?
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