第7話

「ここにいたきゃ、好きなだけいな」


彼か彼女か知らない相手にそんな言葉をかけながら、俺は考えていた。


つい、バカなことをやった……と。

昨日は久々に良い薬草が手に入る予定があり、勇み足で目的地へ向かい、目的のブツをコートの内ポケットにしまうと少しでも早く調剤したくて近道をして裏路地を抜けようと考え、足を向けた。


……その裏路地で、俺は薄汚れた両性体を拾うはめになるとも知らずに。






◆◇◆◇◆◇◆◇







当たり前のことだが、この世界の人間は生まれる際、女性体と男性体と両性体いずれかの性別を持ち誕生する。

まぁ、比率としては四:三:三くらいか。

産まれたときから性別を持つのは女性体と男性体のみ。両性体は性別を持たないが、パートナーと役割が決まり本人の意識が変われば肉体もソレに従い、外見はあまり変わらないが生殖機能は問題なくなるらしい。


まぁ、俺は若干特殊な事情でこの常識を知ったのはつい最近、五年ほど前のことだった。

ジジイ、あー、俺の祖父がある日急に叫んだ。「朔夜やい、トリシャが引っ越すらしいんじゃ、店を継ぐか?継がんなら売って老後の旅費に当てるがな」と。正直言って、ジジイ、ついにボケやがったなと思った。まず第一にトリシャって誰だよ。しかもジジイはもう定年退職したが、元大学病院勤務の薬剤師で店など持ってるわけもない。よって、俺が継ぐ店などあるはずもない。しかし、今度は親父が言った「あー、アッチですか。随分顔を出してませんからねぇ」すると母さんが「父さんったら、投げっぱなしの店を孫に継がせようって言うの?私は反対よ」なんて続けるもんで、俺は潔く問いかけたさ。


「あー、なんの話だよ」


と。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆


あー、つまり。

今からずーっと昔、俺の祖先は全く違う世界の、全然見たことも聞いたこともねー国に住んでた。

で、ある日思い立ったわけだ「旅に出よう!」と。その日から当てもなく旅を続けてある日変な光に巻き込まれ地球にやって来た。

その原因…とある有名古代一族主催、生け贄有りの雨乞いだったらしい。

けど、俺の祖先はへこたれなかった。そもそも特に故郷に未練もなかったらしく旅は続いた…地球でな。んで、代を重ねて地球を歩き続けて、何代目か知らんが故郷に帰る方法を見つけ(いやいや、俺が思うに最初の祖先以外がソレを故郷と呼ぶのはどうなんだ?)たが、実際行ったところでどうにもこうにも言葉は通じねーし食事は不味いし生活環境も悪いと来たもんで。

安全第一な平和国に腰を据え、随分とぬるーい湯に浸かりきった我が一族は、一応時間かけて先祖たちが頑張って見つけた故郷への切符を黙って破り捨てた…らしい。

ま、破り捨てたってのは言葉のあやだが、誰も行きたがらない帰りたがらないもんであってないようなもんらしい。

爺さんも若い頃に一発当てようと行ってみたものの、金品を売り土地と家は手に入れたが全身に良く分からない炎症が起こり、衛生的に無理だったとのこと。父さんや母さんはソレを見ているので行く気はない。だと。


よほどその炎症酷かったのか?







◇◆◇◆◇◆◇◆







それが五年前の話し。

あのあとも俺は爺さんにこの世界の話を聞き、こそこそと下準備を始めた。

祖先が残した地図。常備薬。世界薬草図鑑。衣服は爺さんの話しを参考に仕立て屋に頼み。爺さんの調剤メモ帳をコンビニ持って行き全ページコピる。あとは爺さん名義らしい家と土地を本人に頼んで譲ってもらい。

ま、その他色々あったが、有りすぎて忘れた。

母さんは最後まで引き留めていたが、駄目だったら帰ってくっからと言い残し俺は旅立った。


今となっちゃいーい思い出だな。

ま、一応決まりはあるが、今でも帰ろうと思えば帰れるがな。なんせ月日が経つにつれ、あちらでも同じだけ時間は流れるわけだから、帰りづらくはなりつつあるが。


そうして今、俺は人生の岐路に立たされている。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆

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