第6話

「あの……貴方は」

「俺はしがない薬屋の店主で、名前はサクヤ」


変わった名前。

この国では聞いたこともない発音。


「シャ、シ、サ、サクヤ?」

「ああ、言いずらいだろ。この国の人には難しいって良く言われるよ」


全くだと思う。

けど、コレは皮肉っているんじゃなく。なんだか見た目から変わっている彼には似合っている気もするかな。


「いえ。あの、サ、クヤさんは」

「ん?」

「この国じゃないところから?」


あんまり、詳しく聞いたりしたら、僕も話さなきゃいけなくなりそうで怖いけどむくむく沸き上がる好奇心が背中を押すように唇は開き、言葉が飛び出た。


「んー。いや、元々の先祖はこの国の出でな。たくさんの国を旅して、何代もかけてやっと帰ってきたってトコか」


旅。

僕みたいにお金もなくて力もない子供には聞きなれないコトバだった。


「じゃあ、サクヤさんも旅を?」


彼も旅をして、それでこの国へやって来たのか。そう聞けば…。

右手で良く分からない液体を音をたてて啜り、熱かったのか眉をしかめて見せながら彼は続けた。


「いや、帰国したのは俺の爺さん。たまたま行き着いたらしいが、違う国に家族置きっぱなしだってんでまた出国して、結局やぁっと腰据えて戻れたのは少し前なんだわ。でも結局この国は肌に合わんかったらしくてせっかく用意した家が勿体ないから俺が代わりに住んでる」


家まで用意して、やっぱりやめるって…やっぱりお金持ち…。

世の中にはこんなに自由な人がいるのに、何で僕は…なんで。


「あ、アンタが寝泊まりする部屋、アレ元々は爺さんのな」


ぶっきらぼうだけど、明るいサクヤさんを見て、また沸き上がる暗い湿った気持ちに蓋をした。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆






あれから六日。

僕は変わらずサクヤさんのお家にお世話になっている。


「あ、おはようございます」

「ん、はよ」


朝、サクヤさんはご飯を食べて一階のお店へ向かう。

一方僕はサクヤに頼んで家事を任されるようになった。


「――――サクヤさん、あの、食材がなくなってきたんですけど…」


特に肉や生野菜がもうない。


「あー。じゃ、今日は早めに閉めて買い出し行くか」

「あ、の」


それは、僕も行って良いのかな。

食べ終えた食器を片付けながら、聞くべきか、一瞬迷っていると


「フィールフィーリアもそれまでに出かける準備しとけよ」



こんな風に、気安く誘い出してくれたりする。

やっぱり、まだまだ今一距離感がつかめずにいるけど、六日前には他人だった二人にしてはそれなりに上手く付き合えていると思う。


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