第4話

…朝にも思ったけど、この人の肌は変な色だな。それに、髪や瞳が黒いのはたまに見かけるけど、ここまで真っ黒な人ははじめて見た。同じ黒でも、前に見た人はもっとくすんだような色だった気がするし、手入れが違うのかなぁ。

(父さんが倒れてからまともな生活してない僕とは、大違いだな…)

でも、手入れをしていても、そもそもの色が全然違うんだから考えるだけ無駄かな。


バカな考えをやめて目の前におかれた食事に意識を戻す。


「……」


…それは、やっぱり何度見ても、お椀に入ったドロッとした白いなにかと、皿に盛られた萎びた野菜でしかない。

あと、コップに入った水。


「…あ…あの」


僕はなるべく顔に出さないような困惑した。

家の作りからお金持ちだと思ったけど、実は僕と同じくらいお金に困っているんだろうか。

目の前の、今にもスプーンで白いソレをすくい口に入れようとしている彼に声をかける。


「んぁ?…あぁ、カユ食べたことねーの?」

「カ、ヒュ?」


なんだろう、それは。食べ物なのは食卓に上がっている時点で予想できるけど、カヒュなんて言葉は聞いたこともない。


「か、ゆ。カユな。…んー、これは野菜だよ白い野菜をトロトロになるまでお湯で煮て塩で味付けしてある。アンタ昨日、体調悪そうだったし、朝飯は消化に良いものにした」

「はぁ」

「んで、こっちはツケモノ」

「え、っと、ツ、ケモノ」

「ちょっと酸っぱい野菜な。カユと一緒に食べると旨いぞ」


カユとツケモノ。

良く分からないけど、僕の体のことを考えて作ってくれたなら食べないわけにはいかない。残したりしたら、父さんに…父さんに叱られるし。


「…あ、」

「どうだ?」


ない。

味がない…いや、あれ?ほんわか甘い。


「あの、この白いの甘いです」


ふ、と顔を上げると目の前の彼と目が合う。


「あー、米は旨いよなぁ。どんどん食えよ」


あ、笑った…。

僕はその瞬間、今の今まで眉一つ動かさずいた彼の笑みをはじめて目にした。

それはちょっと驚くほど、記憶に残る笑顔。無愛想な彼の目尻が下がって、顔の印象を柔らかに変えたその時、僕は、自分の心臓が、小さくトクリとはねる音を聴いた気がした。





「ちいせーだろ?ま、独り暮らしだからな」


朝御飯を食べて、僕は改めてこのお店を案内してもらっていた。


「そんなこと、素敵な……」


ちいせーと、彼は謙遜するけど、この国で店や自宅を持つのは並大抵の事じゃない。

少なくても、人に言えないことをして、何日もかけて自分が稼いだアノ金貨の何十倍もお金がかかることくらいは、僕にも予想できる。


「そうか?」


当たり前のように、何でもないことのように、軽い返事が返ってきて、少しだけ、嫉妬してしまった自分を自分で恥じて、育ててくれた父さんにも心のなかで謝った。

その間も彼の説明は続き、見れば厚みのある立派な木材で建てられたその建物は全くちいせくなんかなかった。


「出入り口は店内の階段が居間につながってっから。あー二階の部屋は二部屋しかねーんだ。あとは、居間とキッチンだな。便所と風呂場は別だが、居間から出て廊下の右側に並んである。左側にもドアがあるがそっちの奥が俺の、アンタは今日と同じ手前を使え」


指差しながらの少し早口な説明を聞き、


「あ、えっと、はい…え?…」

「ん?何かわかんねーことでもあったか」

「あの…僕…今日も泊めて貰えるんですか?」


すっかり出ていくつもりでいた僕は驚き、戸惑いながら聞き返したら、彼に今さらなに言ってんだコイツみたいな目で見返されてしまった。

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