第40話 国家公務員

 冒険者ギルドを出て、真っ先に2件隣りの服屋に来ている。


「あら? さっきあなたが言ってたお連れさん? 二人ともスンゴイ美人ね!」

「ええ……俺もついさっき知ったんですが、緊張して困っています」


「ああ、そうか。町中じゃなくて、フィールドで知り合ったんだったわね。可愛い娘たちで良かったじゃない! しかもひとりはエルフ様! あなた余程運が良いのね。それで、コートが有った方が良い意味分かったかな?」


「あ、はい。着ている服や身に着けてる装備品で、大体の強さが分かっちゃうので、皆、見えないようにコートで隠しているのですね?」


「正解。ある程度強ければ逆に良い装備を見せつけて威嚇になるんだけど、いかにも初心者ってバレると商店でも足元を見られたり、良からぬ奴らが寄って来るから、最初は身を羽織って隠す方が無難なのよ」


「お気遣い感謝です」

「それで、何か買ってくれるの?」


「ブラジャーは有りますか?」


 ちーちゃん、余程その大きな胸がコンプレックスなのか真っ先にそっち買うんだね。


「ブラジャー? う~ん聞いたことない言葉だけど、どこの言葉だろ?」

「えっ!? ブラジャー、無いのですか!」


 その大きな胸を両手で押さえたので、コートの上からでもムニュってなった!


「ああ! 乳押さえの下着のことね。この世界では乳当てとか乳吊り下着とか言われているのよ」


「あ、これスポーツブラっぽくて良いわ」


「ヤクモ! なに聞き耳たてて顔を真っ赤にしているのかな?」


 ミーファに見つかり睨まれた。ミーファも違う意味でその胸はコンプレックスなんだね。


「ごめん! ミーファのチッパイと違って、ちーちゃんのそのオッパイがいけないんだ! 【チャーム】の付与……イヤもっと上位の【魅了】の付与がそれには掛かってるんだよ!」


「八雲君、何言ってるの! 吸血鬼じゃあるまいし【魅了】とか掛かっているわけないでしょ!」

「チッパイで悪かったわね! ちーちゃんの胸ばっかり見てイヤらしい!」


 これ以上はどっちも危険だ! ちーちゃんもミーファも怒らせてしまう。男性用のコーナーに退避だ!


 お姉さんお勧めの、防具を上から付けられるような冒険者仕様の服を一式皆で購入した。


 下着も念のため5枚ずつ買っておく。トータル三人分で8万5千ジェニー、端数はコートを買ったのと、まとめ買いしたってことで切ってくれた。


 お姉さん曰く、それほど高価なモノにする必要はないそうだ。

 町中は基本戦闘不可エリアだし、戦闘のメインはフィールドだからだ。

 『ダンジョンルートなら装備もいる』とか言ってたのが気になったが、詳しいことはギルドで聞いてと言われた。


 まぁ、フィールドで人化中の装備は着けられないのだ。俺タコだしね。

 着けられるなら、八刀流とかできるのかな? 10cm程度のタコじゃどっちにしろ無理か。


 この初心者の町で、人化中の良い装備を買うのはまだ早いと言われた。


 店を出てすぐミーファが声を掛けてきた。


「ヤクモ! 店のお姉さんはさっきああ言ってたけど、ギルドでの件もあるし、それなりの武器が欲しいのだけど、ダメかな?」


「いや、俺もそのつもりだよ。二人が可愛すぎるから、きっとこの後も何らかの因縁を付けられると思う。ミーファが剣術ができるなら、それなりの武器を買おう! ちーちゃんもそれで良い?」


「うん。ミーファに頼っちゃってごめんね。私、男の人がとても怖くって……」


「じゃあ、次は武器屋に行ってみようか?」

「「賛成!」」


 武器屋に来たのだが……めっちゃ高い!


「高いわね……でもこんなものかしらね。私の世界でも武器はとても高かったわ」


 鋼の剣が新品で1本20万ジェニーするのだ。


 大体の相場だが、こんな感じだ


 ・鉄のナイフ     中古品    3千ジェニーから

             新品    1万ジェニーから

 ・鋼のナイフ      新品    3万ジェニーから

 ・鉄のショートソード 中古品    2万ジェニーから

 ・鋼のショートソード  新品    6万ジェニーから

 ・錆びた鉄の剣           3万ジェニーから

 ・鉄の剣       中古品    5万ジェニーから  

             新品    10万ジェニーから

 ・鋼の錆びた剣           5万ジェニーから

 ・鋼の剣       中古品    14万ジェニーから

             新品    20万ジェニーから

 ・ミスリル入りの剣         50万ジェニーから

 ・ミスリルソード   応相談   100万ジェニーから


「ちーちゃん、ミスリルだって!」

「欲しい! でも高過ぎ!」


「兄ちゃんたちにはミスリルとかまだ早いよ。ミスリルソードは転生者用じゃなくて、この町の者用に置いてあるものなんだよ。門番とか憲兵用のモノだ」


 うん? 俺たちは何も言ってないのに、なんで転生者って分かったんだろう?


「あの? なぜ転生者って分かったんですか?」

「なんだ……兄ちゃんらはこの町に来たばかりなのか?」


 武器屋の親父さんは面倒くさがらずに教えてくれた。


「この町の住人は全て従業員で、首からこの職員カードをぶら下げている。当然子供とか居ないわな……」


 見るから子供な俺たちは、どっからどう見ても転生者なのだそうだ。


「住人に子供は居ないって? どういうことです?」


 子供が居なければ、繁栄はない。どうやって人口が増えてるんだって話になってくる。


「この町は、お前たち転生者用の町なんだよ。俺たちは従業員で、毎日地上世界からこの町に転移陣で仕事に来てるって訳だ。勿論地上世界で俺に妻子はちゃんと居て、そっちで暮らしてるぞ。5人で3交代のシフト制で、俺はこの武器屋の勤務者の一人ってことだな」


「それって赤字ですよね?」

「そうだな。この町の武器屋だけで言えば大赤字だろうな。でもこの世界全体の武器屋で考えればトータル的にかなりの黒字だぞ」



「私、さっぱり分かんないんだけど……」

「ちーちゃん、私も分かんないから大丈夫よ」


 それから質問を繰り返し、何とかこの町の理解はできた。


「どうも海底世界の町や村は、全て転生者用みたいだ。各国が運営していて、神の神託で行ってるようだね。だから町の住人は全て転生者以外は国が雇っている公務員的な者たちと考えた方が良いね」


「俺たちは転生者の試練のサポートをしているって訳なんだよ。お前たち転生者は何らかの神の試練を持って生まれてきたはずなんだ。それが何かは人それぞれで、俺たちにも分からないんだが、それをクリアできた者は、神から地上世界に招待されて、とても幸せな人生が送れるって神の神託が下っている。転生者は神に選ばれた者たちだから、皆ここの従業員は丁重におもてなしをするように心掛けているのだぞ」


 アリア様も試練がどうの言ってたな……まぁ、タコとかは嫌だし、人化を目指すしか選択肢がないのだよね。


 タコで交尾して1回で死ぬとか……父さんには悪いけど俺は真っ平ごめんだ。



 三人で相談してやはり護身の為に武器を購入した。


 ・ミーファ   鋼の細剣(新品)       20万ジェニー

 ・ちーちゃん  鋼のショートソード(新品)  6万ジェニー

 ・俺      鋼のナイフ(新品)      3万ジェニー


「鋼は中級冒険者が買うような品なんだがな……嬢ちゃんが装備するんだろ?」


 武器屋の親父は皆に革の剣帯をサービスで付けてくれた。


「ヤクモは本当にナイフで良いの? 新品買わなくても私は中古品で良いのよ? 遠慮してない?」

「いや……今の俺、例のバッシブ効果でステータス2倍中なんだよね」


「あ~~そういうことね。剣なんかなくても、この町中じゃ多分無敵よね?」

「絶対とは言えないけどね。実際ミーファのように前世に得た技術が凄い奴もいるかもしれないから、油断はしちゃダメだよ」



 服と武器だけで37万5千ジェニー使ってしまった。

 あっという間に残金は8万5千ジェニーだ。



「防具や、有用な魔石の購入はできそうにないね」

「「そうね……」」


「とりあえず宿屋に行ってみようか?」

「宿! お布団で寝られるのね!」


 ちーちゃん、めっちゃ嬉しそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る