第39話 王の威圧

 こいつらに念のためマーキングは入れておくが、お約束的雑魚冒険者は見逃してやる。


 ナビーは気付いてないようだけど、こいつらを殺して俺のレベルが上がってしまったら、レベル10の制限を超えてしまい町から強制転移するかもしれないのだ。


 それにちーちゃんの怯えようが酷いので心配だ。


 平和な日本育ちなので仕方がないのだろうが、この程度で萎縮して行動不能だとこの先が凄く不安だ。


「ちーちゃん、大丈夫か?」

「うん。ごめんなさい……もう大丈夫」

「ちーちゃん、無理しちゃダメよ? 辛いならちゃんと言ってね?」


 全然大丈夫そうには見えないな……。


「二人ともごめん……相手の方から襲ってきたら、殺して魂石を得る方針だったけど、人の姿だと殺せなかった……町の入場制限のこともあるしね」


「それを言うなら私こそごめんなさい。殺す云々以前に怖くて動けなかった。ミーファは動けていたようだけど、どう?」


「『どう?』というのは、殺せるかってことですわよね? 殺せるかどうかの問いなら殺せますわ……。王族として、そのような覚悟は幼少時よりしていますもの」


「そっか……私って足手纏いだね」

「いや、さっきの状況で人を殺すのは無理だって! パーティー勧誘がしつこいくらいだし、剣を抜いたのも殺す気はなく勢いでついって感じだったでしょ? あれくらいの理由で簡単に人は殺せないよ。海洋生物の姿だったらまた話は違うだろうけど」


「そうよね……」

「まぁ、ちーちゃんは後衛だし、無理そうなら魂石稼ぎは俺がやるからね」


「うん。八雲君、ありがとう」 


「とりあえず冒険者ギルドに行って、トイレ借りて下着をつけようか? なんかTバックの紐パンがこの世界の標準仕様みたいで申し訳ないのだけど……」


 そう言ってそっとミーファに下着を渡す。


「あら、これなら私の国のものと一緒よ? ヤクモの世界のモノは違うの?」

「俺もそれほど詳しくないけど、こういう紐みたいなのは、ドレスとか着物で下着のラインが出るのが嫌な時にしかあまり付けないって聞いた……」


「あの……八雲君? ブラジャーは無いの?」

「ちーちゃんごめん。店員さんに胸のサイズを聞かれて……二人のサイズとかも分からなかったし、どんなのが好みかも分かんないから、下だけしか買ってない。すぐそこが服屋なので、換金したら二人で選んで買ってね」


 そもそもこの世界にブラジャーとかあるのかな?


「それもそうか……コートと助けてくれてありがとう。あと、つい今だけど……私のチュートリアル経由でアリア様が『八雲が逃げる可能性があるので注意するように』ですって……。ナビーちゃんが引き止めてくれたとか言ってたけど、まさか、あなたまた私を置いて逃げようとしたの?」


「ヤクモ? 本当なの?」


「してないよ! 二人があんまり可愛いからちょっと緊張し過ぎて足が竦んだだけだよ!」


「可愛いって……」

「フフフ、ヤクモ随分サラッと言うわね」


「あ! 違うんだ!」

「違うの?」


「いや、違わないけど……俺、女の子とか凄く苦手なんだ。緊張し過ぎて倒れそうだ……」

「エエッ!? ヤクモ大丈夫?」


 ギルドで個室を借りて、二人は下着をつけて帰ってきたのだが……また冒険者たちが群がってきた。

 確かに魔法適性が高いエルフは、人族になる為の戦力に是非取り込みたい種族だ。だがそれ以上に二人の可愛さが半端ないので、能力が低くても仲間に欲しいと思える魅力がある。


 殺伐とした中に華が加わるのだ。男なら是非欲しいと思っても当然だと思う。だが俺たちからすればウザいだけだ。


「ミーファ、アレ使ってみよう」

「ん? アレ? アレってな~に?」


「君のユニークスキルにこういう時に使えそうな良いのあったじゃん!」

「ああ、アレか~分かった使ってみるね?」


「八雲君? ミーファに何させるの? 一人で大丈夫なの?」

「分かんないけど、俺たちは巻き込まれないように後ろにいよう」


「何するの?」

「ほら、ミーファの元王族仕様っていうか、スキル【王の威圧】ってヤツだよ」


「ああ~アレね! ふふふっ、面白そうね! どうなるかな?」

「初見だからね、俺もちょっと楽しみ」



 ミーファは群がる六人の冒険者に向けて、一言だけスキルを乗せて言い放った。


「お黙りなさい!」


「「「ヒッ!」」」


 ミーファは今使える最大威力の威圧で放ったようで、冒険者たちはその場にへたりこんでしまった。

 5秒ほど身動きもできず、硬直というより萎縮? 蛇に睨まれた蛙状態だ。中には失禁して腰が抜けた者まで居る……【王の威圧】Lv5スゲー!


「ミーファ、これ使えるな。魔獣に使って、動きが固まってる間に、俺が齧ればサクサク狩れるかも」

「ホントね。でもあの彼、腰抜かしてお漏らししちゃったわ……ちょっと可哀想」


「ミーファ、これくらいやんなきゃ! 馬鹿な男たちには丁度良いくらいよ!」


 なにやら、さっきまで具合悪そうだったちーちゃんが、凄く楽しそうに復活している。


「ちょっとあなたたち! ギルド内でなにスキルなんか使ってるのよ!」


「あっ、レスカさんごめんなさい! さっき言ってた俺の仲間なんですが、見てのとおりの可愛さで、ヤローどもがウザくって……」


「見てたから分かっているけど、町の中での喧嘩はご法度よ。スキルの使用なんかもってのほか!」


「「「ごめんなさい!」」」

「まぁ、今回は大目に見て、なかった事にしておくわね。怪我人がいる訳でもないし、脅しただけのようだから」


「レスカさん、ありがとう!」

「それにしても……さっきのは何?」


 言っても良いかという風にミーファを見たら、ウンと頷いてくれたので簡単に説明する。

 念のためにレスカさんだけにしか聞こえないところに行く。


「彼女転生前は元王女様でして、王族が持つ【王の威圧】というユニークスキル持ちなのです」

「威圧系のスキルなのね。まぁ、さっきのように護身の為に使うのなら許可するわ。でも、時と場合によっては、捕縛対象になるので、町中では注意しなさいね」


 レスカさんはミーファに注意してくれる。


「分かりました。それと、ヤクモに聞きました。お金を融通してくれたそうで、ありがとうございます」

「あ、わたしもお礼を言いたいわ。ありがとうございます。おかげでコートを羽織ることができました」


「いえいえ、ヤクモ君なら貸しても大丈夫だと思ったからよ。お礼なら彼に言ってあげて」


 群がってた冒険者たちを、ギルド職員が追い払ってくれ、彼女たちのギルドカードを発行してもらう。


 約束していた通り、レスカさんがギルドについて皆に説明をしてくれた。


「このカードにはランクがあって、ブロンズ<アイアン<シルバー<ゴールド<ブラックと5つのランクがあるの。同じように冒険者にもランクがあってS>A>B>C>Dランク冒険者という階級で呼ばれているわ」


「あの? なぜ呼称を変える意味があるのです? 統一した方が分かりやすかと思うのですが?」


「カードランクと冒険者ランクはちょっと意味合いが違うの。冒険者ランクは主に強さを表す意味があるの。Sランク冒険者ということはこの世界では最強に位置するって理解で良いわ。でも強いだけではブラックランクのカードはギルドは発行しないの。強さと人格・品格・資産力などの総合が評価対象になって、それに合格しないとブラックカードは貰えないのよ。なのでSランク冒険者は強さで一目置かれる存在だけど、ブラックカード持ち冒険者は強さも兼ねた人格者だから、どこに行っても皆から尊敬される存在なのよ」


「「「なるほど……」」」


「このカードは神の恩恵が付与されているの。個人認証機能が付与されていて、お金なんかがギルドに預金できるのよ。各町のどのギルドでも出し入れ自由なので凄く便利よ。これ以降の討伐記録もカードに記載されるので、ギルドが有害魔獣として常時依頼の討伐対象としている魔獣なんかを狩っていると、カード更新時に討伐報酬が加算されたりもするわ。あと、賞金首なんかも討伐してたら、同じく入金されるわね」


「へ~、色々便利ですね」


「ええ、でも犯罪履歴も記載されるので、何かやっちゃうともう町に入れなくなるから注意してね」

「「「はーい」」」


「今回小さいけどサメの魔獣を狩っているので、それとウニの魔獣、スライムと合わせてランクが1つ上がって皆アイアンランクのカードが発行されるわ。おめでとう!」


「「「ありがとうございます!」」」


「それとあなたたちの冒険者ランクも現在1つ上がってCランクね。受けられるギルドの依頼なんだけど、町中の住民からの依頼や、討伐依頼、素材採取などの依頼があって、そこの依頼ボードに日に2回、朝夕7時に依頼更新されるからこまめに確認するように。受けられる依頼は、ランクの1つ上までなので、今受けられるのはBランク依頼までね。これはあなたたちの身の安全を考慮したギルドの配慮なので、ちゃんと守ってね。勝手にAランクの依頼書を見て、討伐してきても依頼報酬は出ないので、その魔獣の素材や魔石の価値分しか支払われないからね」



 大体の説明を受け、ギルドのことは分かった。


 カードを無くすと再発行手数料が要るそうなので、大事に【亜空間倉庫】の方に仕舞っておく。

 素材と魔石を換金してレスカさんに借りていたお金を返し、ギルドを出て服屋に向かう。



「結構お金になったね?」

「そうだね? あのサメ……超おっかなかったのに、人化状態だと赤ちゃんだったね」


「わたくし、あれに食べられそうだったかと思うとなんか悲しいわ……」

「でも、あいつの魔石1個で16万ジェニーにもなったよ」


「へ~、あんな小さくてもこの辺最強の魔獣の魔石ってことなのね」


「大きくなったら5mぐらいになるそうだしね……ある意味生まれたての赤ちゃんを狩れてラッキーだったね」

「赤ちゃんフィールドってことの恩恵なんでしょうね。でも下手したらこっちが食べられてたんだからお互い様よね」




 魔法付与や、技術系の付与の付いた魔石以外は全部換金したので、全部で46万ジェニーにもなった。

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