第35話 初心者の町

 ミーファが頑張ってくれたので、日の出までに町に辿りつけた。

 この場所は俺たちが生まれた出産エリアから、南西に沖に出たところにある。


 深さは30mほどあるだろうか? 透明度が高いので、昼には太陽光が余裕で差し込んでいるそうだ。

 ちょっとした海溝を利用しているようで、入口から亀裂が奥に行くほど扇状に広がっていて、その窪んだ場所に町があるようだ。


 この海溝を覆うように、巨大なシャボン玉のような半透明な膜がある。その膜がバリアとなって海水が中に入らないようになっているみたいだ。


 入口以外からは中に入れないそうで、入門の際にレベル確認と入門料を徴収されるらしい。俺は母さんから情報を得ていたので、ナビーから補足説明を受け、事前に用意してきている。



 現在深夜の3時。

 おそらく正門であろう入口の前に、厳つい顔をした半漁人が2名?立っている。

 ミーファが言うにはサハギンという種族らしい。


 サハギンは知っていたのだが、この世界の実物はとてもおっかない顔なのだ。ちょっとビビッてる。

 何せ人間よりちょっと大きいのだから、俺たちと比べたら超大型級のサイズだ。


 ミーファの甲羅にしがみついて恐る恐る近寄っていく。


 ミーファは余裕な感じだが、俺とちーちゃんは腰が引けている。



「可愛い奴らがきやがったが、残念だがここにはレベルが5以上と魂石1個捕食してないと入れないぞ!」

「おい! そいつらどうやら条件をクリアしてるみたいだぞ」


「ウソだろ!? どう見てもまだ幼生体だぞ。生まれてまだそんなに経ってないはずだ? どれどれ……マジか! お前ら凄いな! それに変わった取り合わせだ!? 良くこのチッコイエビの幼生食べなかったな? タコやカメの好物だろ?」


「今晩は……その、最初見たときGっぽかったので食べる気はないですね」

「ああ、脱皮前の姿見ちゃったんだ……エビっていうより虫っぽいからな」


「皆、酷いです!」


「「ああ、すまない!」」

「ちーちゃんごめん!」


 意外とノリのイイ奴らで緊張が一気に解けた。


「こんな時間ですが、中に入れるでしょうか?」


「町は大体どこも24時間体制だぞ。3交代制で殆どの店舗も営業中だ。中には、昼だけの店もあるがな。何せいろんな種族が来るからな。お前らは夜行性だろ? カメは昼夜行動可能だが、どちらかというと昼型か? 夜閉めてたら困るだろ?」


「なるほど、でも経営大変そうですね。採算とれるのかな? じゃあ、今から中に入れるんですね?」

「ああ、入門するのに通行料がいるが持ってるか? 1人3千ジェニーなんだが、魔石でもOKだ」


「お金はないですが、魔石はあります」


 俺はウニの魔石を9個出した。


「よしOK、初心者の町にようこそ! 滞在期間は最大で10日間だ。それを過ぎたら強制的に結界外に弾き出される。これが証明カードになる、【亜空間倉庫】に大事にしまっておけよ。無くしても締め出されるからな」


「10日間の期限があるんですか?」

「そうだ。お前たちは何らかの試練を帯びてこの世界に転生した転生者だろ? 町が安全で居心地良すぎてずっと居られても神の試練的に意味がないだろ? そのための期限付き滞在期間だ。だが、レベル内でなら再度入門料を払えば何度でも入れるからな」


 10日間の期限付きか、でもそれぐらいで良いのかもしれない。

 のんびり町中でいても、何も得られないしね。


 この正門が入口で、この門をくぐるとすぐ建物があり、その中に魔方陣があるらしい。


 建物は出入り口が2つあり、一方通行になっていて、入る時と出る時は違う扉を使うようだ。


 魔方陣がある部屋は、全て個室になっている。

 どうやら、この魔方陣に乗ると人化(元の人間の姿)できるようだ。


 注意事項として、人化した際に多少苦しいそうだ。エラ呼吸が肺呼吸になる際に少しだけ苦しいらしい。

 あと、人化したら転移魔法で海水のない、空気のある次の部屋に飛ばされるので、そこで服を着ないと裸のままだと教えてもらった。


 門番のサハギンに色々教わったので、2人にトコブシとウニを差し入れてやった。


「お! おやつに丁度いいな! お前気が利くな! よし気に入った! 良い情報をやろう。この門をくぐったら、建物に行くまでに数人の商人が居るんだが、奴らから買うな。品は悪くはないのだが3割増しだから気を付けるんだぞ。町に入ればもっと品揃えもあって色々選べる。最初だけちょっと恥ずかしいだろうが、裸じゃないんだから貫頭衣で我慢して、転移転身魔方陣の建物から20mほど先にある服屋に行くと良い。でも、先に魔石を換金した方が良いかな……」


「ぼったくり商人ですか? それは良い情報ですね。でも良かったんですか? 本当は逆に勧めて、紹介料を得てるんじゃないのです?」


「あはは、その通りだが、俺たちが得られるのは大した額じゃないからな。俺的にはこのトコブシとウニの方が旨くて良いんだよ」



 門を通ると、門番が言ってたように4人ほどが直ぐ寄ってきて服や武器を買わないかと勧めてきた。


 サハギンと人魚の商人だ。


 人魚が可愛くない……。

 残念なことにちょっとお歳を召したご婦人が、ビキニアーマーを着て武器を勧めてくるのだ。若かりし頃は可愛かったであろうと思うと、残念で仕方がない……。




 なるほど……ニュービー相手の旨い商売だ。


 『貫頭衣は恥ずかしくて町なんか歩けないよ!』とか『ナイフ1本も持ってないと危険だよ!』という具合に無いと大変とばかりに危機感を煽ってくるのだ。現に先に知らされているにも拘らず、女性陣は服に目がいっている。


「2人とも3割増しなんだから無視して行くよ! たった20m我慢すればもっと良いの買えるんだよ!」


 俺の発言にチッと舌打ちして商人たちが離れていった。


「あはは……上手い商売ですね」

「ミーファ、欲しそうに見てたね?」


「だって、貫頭衣とか囚人服ですよ!」

「ああ、元お姫様としては屈辱的だよね」


「今更違う世界に来てまで王女面する気はないですが、囚人服はちょっと嫌ですの……」

「転移の部屋を出たらすぐ買いに行こうね」


『♪ マスター、魔石での買い物は損をします。先ほどの門番への支払いも、スライムの魔石を使った方がお得でした』


『え? どういうこと?』


 どうやら、スライムの魔石は1個1000ジェニー、ウニの魔石は1個1400ジェニーなんだそうだ。

 だがそれはあくまで買い取り額であって、現金化した場合に得られる額なのだ。


 魔石をお金扱いする場合は、買い取り額1000~1999ジェニーまでの魔石は、全て1個1000ジェニー扱いなのだ。 


 つまり、さっき俺は差額で3600ジェニーも損したことになる。


『そんなの先に言ってよ! 日本でも定食が3人前食える額じゃないか……勿体ない!』

『♪ これも勉強かなと思いまして。なので、服屋の前に冒険者ギルドに向かって、まずは魔石を換金しましょう』



 冒険者ギルドとかあるんだ。

 そのことを2人に伝えたら、同じように勿体ないとの意見で、まずは冒険者ギルドに行くことになった。


 その前に人化が先だな。


 2人と別れて、各個室に入った。個室は7つもある。

 部屋に入るとすぐにアナウンスが流れてくる。


 要約するとこんな感じだ。


 ・所持品は全て外して【亜空間倉庫】に入れること

 ・長く居ると次がつかえるので、速やかに人化の魔方陣に乗ること

 ・人化が完了したら、すぐに隣の待機部屋に転移するので、そこで着替えてから外の大部屋に出ること


 簡単な注意事項だ。門番にもっと詳しく聞いていたので、必要ない。とっとと魔方陣に乗って人化した。

 すぐに隣の部屋に転移したのだが、聞いていたように少しだけ苦しかった。


 ちょっとで済んでるのは、神的になにやら回復魔法がなされているのかな?


 【亜空間倉庫】から靴と貫頭衣を出したのだが……うーん、みすぼらしいうえに、ちょっと女子には無理かもしれない。首元と両脇がかなり開いているので、これだと胸なんか服を押さえておかないと丸見えだろうな。丈も膝上10cmほどしかなく、ノーパンだとちょっと不安な長さだろう。俯いたりしたら、上も下もいろいろ見えちゃいそうだ。


 これしかないので、それを着て部屋の外に出たのだが、外で30分待っても2人とも出てこない。

 仕方がないので、コールで呼んでみた。


『ちーちゃん? まだ中にいるの?』

『八雲君……ごめんなさい。ミーファとコール機能でずっと話してたの。ごめん! 無理! こんな格好で外なんて出れないよ! 八雲君にお任せするから、適当に着れそうなもの買ってきて!』


『エエッ!? 女子の服なんか無理だよ! ミーファは?』


 3者通話にしてミーファを呼び出した。


『ヤクモ! こんな恥辱的な姿では出れませぬ! ちゃんとした服を用意しなさい!』

『おーい! 王女様モード全開だよ? しかも命令口調になってるし!』


『あ! ごめんなさい! でも、これはあんまりです! これで外を歩くくらいなら3割増しでさっきの服を買います!』


『分かったよ、とりあえず何か買ってくる……』


 2人の訴えで、ちょっと不安だが俺1人で行動することになった。

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