第34話 スライム
ナビーの案内に従って、良い寝床が確保できた。
ちーちゃんの土魔法で、出入り口の穴を塞いでしまい、ウツボや大型の魚の侵入を完全にできなくしたのだ。
今晩は安心してゆっくり寝られるだろう。
一晩だけの利用と思うと勿体ない場所だが、もうすぐ俺のレベルが10を超えてしまうので、次のエリアに移動する必要がある。
レベル15くらいまでなら、初心者エリアで狩りをしても誰も文句言わないだろうが、神の設定した魔獣分布のおかげで下位魔獣しかいない。
つまり、下位魔獣を狩っても経験値が得られる量が少ないために、俺のレベルが上がりにくいのだ。
自分のレベルに見合ったエリアで狩らないと、いつまでたっても人族に戻れないという訳だ。
レベル15を超えても下位のエリアで留まっていると、今度は他の者たちから排除される。
成長した少年が赤ちゃんを狩っているのだ。快楽殺人として見なされてもおかしくない行為だそうで、この世界では嫌悪されていて、上位者からの討伐対象にされるらしい。
少し早いが、今日は色々あって皆疲れているので早めに寝る事にしたのだが、ミーファが恥ずかしそうに聞いてきた。
「ねぇヤクモ……出入り口塞いじゃったら、お花摘みに行きたくなった時どうすればいいの?」
「は? お花摘みって気は確かか? 何言ってるんだ?」
「八雲君、お手洗いのことよ。まさか本当に花を摘みに行くとか思っていないよね?」
はい、文脈もなくお花摘みとか、この王女様おかしくなったかと思っちゃいました。
「あはは……お手洗いか……隅っこでして【クリーン】を掛ければ良いんじゃない?」
「「嫌よ! 恥ずかしい!」」
若いお嬢様方は、とてもじゃないが嫌だそうだ。
カメとエビのくせに……何が恥ずかしいのやら。
「でも、外は危険だよ。それに出入り口塞がないと安全の確保ができないし、寝る前に出しておくだけじゃダメ?」
「ほら、私たちまだ赤ちゃん体でしょ? 量は少ないけど回数がそれなりに多いのよ」
「でも、これまでトイレ休憩とかそんなにとってなかったよね? 移動でミーファが疲れないように2・3時間に1回程度だったと思うけど。まさかちーちゃん、俺の頭やミーファの上でプリプリしてないよね?」
「してないわよ! なに失礼なこと言ってるのよ! 鋏むわよ!」
ちーちゃんはちょっと鋭くなったハサミを、チョキチョキやって威嚇してくる。
「ごめん! レベルが上がって痛そうだから、マジ鋏まないでね!」
「じゃあ、入り口と繋げた感じに、ちーちゃんの土魔法で外に個室を作る? 用を足した後に、個室を出る前に【クリーン】を掛ければ良いでしょ? 【クリーン】は全員持っているのだから問題ないよね」
「良い案だけど、どうやって個室にすれば良いの?」
「この世界の魔法は基本の型はあるようだけど、イメージ次第でどうにでも出来るそうだよ。【アクア・スピア】だって、氷のイメージで【アイス・スピア】にできるでしょ? 【ストーン・ウォール】を発動時に四角くて中を空洞にイメージした岩壁の部屋のイメージで良いんじゃないかな?」
「う~ん、とりあえずやってみるね」
一度入り口を壊して、入り口を中から塞ぐような大きさの小部屋が簡単に出来た。
「ちーちゃん。これ、もう巣穴探さなくていいんじゃない? 毎回部屋作っちゃえば良いじゃん」
「今はちょっと無理かも……。このトイレ用の小部屋だけで魔力を結構使っちゃったみたい。3人が余裕で入れて、強度もそれなりに維持するなら多分魔力が足らないと思う」
「そっか……まだ俺たちレベル低いもんね。でも将来的には有用そうだよね?」
「そうね、八雲君も土魔法を獲得して手伝ってくれるなら、各自個室で過ごせそうよね?」
トイレ事情も解決し、眠りについた。外敵の心配がないのは良い。
疲れもあってか、ぐっすり眠れた。
* * *
「やっぱ、敵の侵入ができない場所だと安心感が違うね?」
「そうね、ミーファなんかサメに食べられかけてたから尚更でしょ?」
「ええ、やはり外は何がいるか分からないので怖いですね」
簡単に朝食を済ませ、出発する。
『♪ マスター、スライムが居ます。最弱の魔獣なので、狩って行きましょう。魔石から各種魔法が手に入るかもしれませんよ』
『そういえば、魂石の方は取り込んだけど、魔石の方は調べてなかったな……。もっと早く言ってくれよ。俺も魔法を手に入れられてたかもしれないってことだろ?』
『♪ そうですね。ですが、取り込むとレベルが上がってしまうので、町を出てからでいいと思っていました』
『あ、そうか……ごめん、それもあったんだな。町の中で鑑定して有用な物は町を出てから取り込むようにするよ』
「ミーファ、ちょっと進路変更だ。スライムが群れている場所がある。MAP見てくれ」
「進路と少し離れてるようですが、どうするのですか?」
「ナビーが言うには、各種属性魔法が魔石から得られるんだって。一番弱い下位魔獣なので、ある程度狩っても俺のレベルは上がらないそうだよ」
「魔法習得のための寄り道ね? 私は賛成!」
「じゃあ、行きましょうか。わたくしももっと魔法覚えたいですわ」
500mほどそれたが、スライムの群生している場所に到着した。
どうも海藻を食べているようで、岩場に20匹ほどがウニョウニョ蠢いている。
大きさは30cmぐらいで、半透明で向こうが透けているが、赤・青・黄・緑の4色いる。
「うわー、絵にかいたようなスライムね。服着てたら、お約束的に溶かされちゃいそうだわね」
「あはは、確かに。でもどうやって倒そうか?」
「例の如く弱点は魔石なんでしょうけど、壊しちゃダメなんでしょ?」
「ナビーの説明では魔石や魂石は何をしても壊れないんだって」
「じゃあ、他の者はどうやって狩っているのですか?」
「魔石を抜き取るのが一番手っ取り早いらしいけど、サイズ的に俺以外には無理でしょ?」
「私はどうやっても無理ね……」
「突進攻撃で貫通して魔石だけ弾きだせないでしょうか?」
「なるほど、ミーファには【速泳】と【体当たり】があったね。やってみようか?」
ミーファが魔石に狙いを付けて【体当たり】のスキルを発動してみた。
ゼリー質のスライムの体は、弾け飛んでしまった。
ミーファの口にはブルースライムの魔石が咥えられている。
「おお! 成功だね!」
「ミーファ、やったね! 【体当たり】結構威力あるんだね?」
「多分ヤクモが【カスタマイズ】という魔法で、強化してくれたのでしょ?」
「うん。レベル3まで上げている。でも、思っていたより凄いから、もう少しレベル上げよう」
「ええ、お願いするわ! わたくしの硬度が効いてるので、相性がイイみたいなの」
俺も負けじと、触手を強引に体内にねじ込んでいき体ごとスライムの中に入り込む。
魔石を掴んだら一気に飛び出すのだ。
何度かあけた穴を防がれて逆に捕食されそうになったが、そうなった時は【テトロドトキシン】を少量流しこんでやれば、即死させて脱出できた。
「ヤクモの見てたら、狩ってるというより、自分から食べられに行ってるよね」
「だよね。一度自分から食べられておいて、力に物をいわせて強引に出てくる感じ?」
呆れたように言われているが、倒せてるのだから別に良いじゃん。
ただ、この狩り方は、俺もミーファもちょっと強引だった。
スライムの粘液は胃酸と同じで強酸だったのだ。
焼けつくような痛みが2人の肌を襲ってきて、慌ててちーちゃんに回復してもらった。
あと残り2匹という時、ミーファのレベルが上がった。
「お! ミーファ、レベルアップおめでとう」
「おめでとう、ミーファ」
「ありがとう! ちーちゃんに並んだね」
「ちーちゃんももうすぐ上がりそうだけど、先に俺のレベルが上がっちゃうとまずいから、そろそろ町に行こう」
「属性魔石、各種手に入ったね」
「あ、それ取り込めば俺と並ぶかな? 2人で各種取り込んでみて?」
「「良いの?」」
「うん。俺は街を出た後で残った分を貰うよ、各属性1個ずつあれば魔法も覚えられるしね」
「あ、でも待って! お金代わりにもなるのよね? 町の相場が分からないので、取っておいた方が良いんじゃないかな?」
「そうね、ちーちゃんの意見に賛成! 宿屋が高くて、せっかく中に入っても野宿とか嫌よね。服とかも要るんでしょ? 高くて買えないとかわたくしは嫌よ?」
「私もノーパンとかは嫌よ? せめて下着と、ちゃんとした上着は買ってね?」
「分かってる。最悪俺は貫頭衣のままでも良いから、2人を優先するよ」
「今のヤクモカッコ良かった! うふふ、男の子ね」
深夜の3時ごろに町に着いたのだが、門番がおっかない……。
「サハギンね。海の眷属よ。怖い顔をしているけど、温厚な種族なので大丈夫ですわ」
やっと町に着いたが、どんな町か入るのが楽しみだ!
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