第30話 魔石実食
今、俺の体に6本ウニの棘針が突き刺さっている。
攻撃事態は予想通りだったのだが、予想以上の連射を躱し切れなかったのだ。
超痛いです……。
「ちょっと八雲君大丈夫!?」
「大丈夫じゃない……俺に毒は利かないけど、ムッチャ痛い!」
「ちょっと我慢しててね。棘針を先に抜かないとヒール魔法もできないのよ」
「うん、分かってる。今、回復魔法を掛けられると、棘が刺さったままが通常状態になっちゃうんだよね?」
刺さったままがデフォとか嫌です。痛いけどもう少し我慢します。
「私の甲羅は貫通できないようです。私を盾にして近付く?」
「うん、お願いできる? 射程まで行けたら【麻痺毒】が流せるから、そこまでお願い」
俺の【麻痺毒】の射程は5mほどあるのだが、距離が離れるほど海水に拡散してしまうので、効果がでるまでに時間が要る。即効性のある距離は1m以内だ。当然そんな距離まで近付くと気付かれて棘を飛ばしてくる。
『スティンガー・ウーチン』と名が付くだけあって、棘を自在に逆立てて、表面の棘を1度に20連射飛ばしてくる。
最初の1発目が発射されてから連射が終わるまでの間に、次の棘がまた生えてくるのだ。
撃ってから次までの間隔があまりなく、すきを狙ったつもりで単独で行った時に針のむしろにされてしまったのだ。
ウニだけあって、移動は超遅い。なので、ミーファとタッグを組んでからは、硬い甲羅で守ってもらいながら近づいて、【麻痺毒】を流して完全に動きを先に止めた。
麻痺毒が効いてから、ウニをヒックリ返し、棘の少ない比較的柔らかい腹部分にミーファに噛みついて穴を開けてもらった。そこに【テトロドトキシン】を少量流せば即死だ。
どうやら毒持ちでも【テトロドトキシン】は効果があるようだ。
俺には奴らの毒が効かなかったが、俺のは複合毒なのでちょっと系統が違うのかな?
「ヤクモの毒、どっちも効果あったね?」
「そうだね。毒が効かない奴とかが来たら、今は速攻逃げた方が良いよね?」
「そうね。今は八雲君の毒の攻撃力頼りだもんね。ミーファが大きくなったら、この辺では無敵なんでしょ?」
「成体になったミーファの敵は、余程大きなサメとかタコとかイカぐらいかな? 他の魔獣はどんなのが居るのかまだ詳しくないので情報は必要だよね。やっぱ早めに町に行って、色々そういう情報も欲しいね」
「あ、ミーファの甲羅に少し傷がついてる。でもかすり傷程度みたい。一応ヒール入れておくわね?」
「あ、待って! 今ヒールするのは勿体ないよ。後5匹ぐらい狩ってからにしよう? レベルの低いうちのMP残量は貴重だから、ミーファには我慢してもらえるかな?」
「それもそうね。ミーファそれでいい?」
「ええ、いいわよ。でも早くヤクモを回復してあげて、見ているだけでこっちがなんか痛い……」
触手で刺さってた6本の棘を引っ張って抜く。痛い……。
やっとヒールを掛けてもらい全快する。
「やっぱヒーラーが居るといいね!」
「そうね。ちーちゃんが居ると思うと、多少の傷ぐらいなら平気だもんね。安心感が全然違うわ」
「そうだ! 『魔石』があったんだ……ウニのどこら辺にあるのかな。あった! これミーファが食べてみて」
「いいの?」
「うん、俺たちの中じゃレベルが1番低いからね。倒した魔獣の経験値は共有できるけど、食す魔石や魂石の経験値は共有できないらしいからね。パーティー活動するならレベルは皆大体同じにするのが行動しやすいんだよ」
レベル3しかなかったミーファは、雑魚魔獣でもたった1個の魔石で1レベル上がった。
「へぇ~、食べるってことだったから口で食べるのかと思ってたけど、違うんだね。なんか口から体内に吸収された感じだったね? 味はどう? 美味しい?」
「美味しいとかはないですね……というより食べたという実感がないです。やはり食べるというより体内に吸収したって感じですね」
「良かった~。実は私、ちょっと心配してたの。この大きさだと『魔石』の方が私の口より大きいじゃない。私だけ石を食すこともできないで、どんどん差がついて、そのうち捨てられないかなって心配だったんです」
「「エエッ~!」」
「だからちーちゃんは捨てないって!」
「そうですよ。どんな事があっても置いて行くようなことはしません。王族の誇りにかけて宣誓しましょう」
「ありがとうミーファ。でも……八雲君は前科があるので、まだ信用しきれません……」
「うっ、もう置いてかないって」
「なんですって! あなた、まさか攻撃力の無いちーちゃんを置いて見捨てようとしたのですか!?」
「違うんだよ! ちーちゃんは、一度死にかけた俺の為にってアリア様が俺と同じ世界からヒーラーとして寄こしてくれた転生者なんだよ。だから、上位世界から来た俺と同じようにある程度皆より優れてるんだ。でも一番最初に迎えに行った時、ちーちゃんの姿があまりに気持ち悪くて……」
「そうです! この八雲君は私の生まれたばかりの容姿がキモいからって、見なかったことにして、そっとその場を去ろうとしていたのです! 酷いでしょ!? ミーファどう思う? 彼の為にこんな変な姿にされてまで、異世界転生して来てあげたのに、見た目がキモいとかの理由でそそくさと置いて行こうとしてたのよ!」
「それは酷いですね……ヤクモにちょっと減滅しました。でも、2人ともアリア様が直接送りこんだ転生者だったのですね……。ひょっとして使徒様? 勇者と聖女様なの?」
「「ハァ?」」
「ミーファ、何言ってるの?」
「そうだよ、俺たちが使徒なわけないだろ? 勇者とかないから。てか、絶対そんなもの嫌だから」
「「え!? 嫌なの?」」
「エッ!? ちーちゃんはそっち系の人?」
「だってカッコイイじゃない! 聖女とかだったら凄い回復魔法を使えるのよ」
「でも、伝説やおとぎ話や物語では『勇者様と結婚して幸せになりましたとさ』で、締めくくられるけど、実際は歳老いて動けなくなるまで国や宗教関係者にコキ使われるか、使命がなくなった勇者は王族の権威を脅かすとかの理由で暗殺されるんだよ」
「我が国ではそのようなことは致しません! 苦楽を共にした勇者様と姫や聖女様は必然的に惹かれあい、使命達成後の余生は幸せに暮らしておられました!」
「ミーファの前世では実際に勇者とか居たんだ」
「エルフは長寿ですので、御婆様は3人ほど実際にお会いになったそうですよ。わたくしはまだ若輩故、世間知らずのままあの世を去りましたけど……。一度わたくしもお会いしたかったな~。御婆様のお話ではどの勇者様も素晴らしいお方だったそうですよ」
「じゃあ、八雲君は勇者様じゃないわね……。私を速攻で見捨てるような外道ですもの。勇者なわけがないです」
「それもそうですわね。勇者様がそのようなことをなさる筈がありませんもの」
ミーファが砕けた口調から、お姫様っぽい口調に変えて、態とそんなことを言う。
「ホント悪かったって……もう許してよ。でもミーファ、この画像見てみて」
「なんですの?」
生まれたてのちーちゃんのスクリーンショットを、メール機能でミーファに送ったのだ。
「ウワッ! なんですかこれ! 気持ち悪いです!」
「なになに? って! 八雲君! これって私でしょ! なんでスクショ撮って残しているのよ! 今すぐ消しなさいよ!」
ミーファが俺の送った画像を添付してちーちゃんに送ってしまったようだ。
「エッ!? これがちーちゃん! ヤクモが逃げたのもちょっと分かる気がする。ヤクモ、減滅したとか言ってごめんね。取り消すわ……。ちーちゃんこれは仕方ないかと――」
「ミーファも酷い! 確かにキモいけど! グスン」
「「ゴメンナサイ!」」
ちーちゃんを半泣きさせてしまった。でも、ミーファには納得してもらえたので、見せて良かったと思う。
「そういえばミーファを襲ってたサメの魔石もあるんだけど、あれどうしようか?」
「ミーファに食べさせれば良いんじゃない? レベルも上がるんじゃないの?」
「そうなんだけど、サメの魔石は結構高値で取引されてるんだって。町に行ったらお金が要るから、高価な魔石は取っておきたい気もするんだよ。鑑定した結果では、この魔石からスキルは得られないようだし、売って資金にした方が良いかなって思ってる」
「そうですわね。町に行っても活動資金が無ければ何もできないですものね」
「とりあえずウニを後9匹狩って、入場資金を確保しましょうか? 確か町の入場に、屑魔石が1人3個要るんだよね?」
「うん、母さんが言ってた。でも、最初の町の前に俺たちのレベルが10を超えちゃいそうだよね」
「ちーちゃんの【獲得経験値増量】とヤクモの【ちゅーちゅーたこかいな】のパッシブがあるからね……その時は次の町を目指しましょ」
同じ方法でミーファを盾にし、サクッと周辺のウニを狩って魔石を大量に確保できた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます